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恒星を周回しない浮遊惑星の衛星でも40億年以上にわたって液体の水を維持できる可能性

生命に不可欠とされる液体の水。その維持には恒星からの熱が必要だと考えられがちですが、光の届かない暗黒の宇宙空間であっても、数十億年にわたって生命に適した環境が存在し得るかもしれません。

ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)の博士課程学生David Dahlbüddingさんを筆頭とする研究チームは、特定の条件を満たした太陽系外衛星において、40億年以上にわたって表面に液体の水が維持される可能性を示した研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌Monthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載されています。

巨大な浮遊惑星を公転する地球に似た衛星のイメージ図。LMUのプレスリリースから引用(Credit: Dahlbüdding/DALL-E)
【▲ 巨大な浮遊惑星を公転する地球に似た衛星のイメージ図。LMUのプレスリリースから引用(Credit: Dahlbüdding/DALL-E)】

宇宙をさまよう浮遊惑星の衛星に液体の水?

惑星の表面に液体の水が存在し得る領域であるハビタブルゾーンは、一般的に恒星からの距離を基準に考えられます。惑星が受け取る熱の量は、恒星からの距離に左右されるからです。

しかし、恒星の光が届かない場所であっても、惑星などがもたらす潮汐力によって天体の内部が変形を繰り返すことで熱が生じる「潮汐加熱」が熱源となって、液体の水を維持できる可能性があります。太陽系の場合、木星の衛星Io(イオ)で噴火する数多くの火山や、土星の衛星Enceladus(エンケラドゥス)などにみられるプルーム(水柱、間欠泉)が潮汐加熱を熱源とする活動として知られていて、Enceladusなど一部の衛星の内部には海が存在すると考えられています。

こうした太陽系の事例は、太陽系外惑星を公転する衛星にも生命を支える環境が存在する可能性があること、さらに言えば太陽系外衛星が生命探査の重要なターゲットになり得ることを示しています。とはいえ、太陽系外惑星は主星である恒星の強烈な光に隠されてしまって直接観測するのが困難な天体です。その衛星となればさらに観測が難しく、未だに確実な発見には至っていません。

そこで注目されているのが、恒星を周回せずに星間空間をさまよう浮遊惑星(自由浮遊惑星)の衛星です。浮遊惑星とは、惑星系の形成時に重力相互作用によって軌道から弾き出されてしまった天体のことで、天の川銀河にはこうした惑星が数多く存在すると考えられています。恒星のまぶしい光に邪魔されることがない浮遊惑星の衛星は、最初の太陽系外衛星を発見する有力なターゲットであると同時に、暗黒の宇宙空間におけるハビタビリティ(生命居住可能性)を探る上でも期待が寄せられているのです。

先行研究の課題を解決した「水素の厚い大気」

今回の研究に参加したESA(ヨーロッパ宇宙機関)のGiulia Roccettiさんらが2023年に発表した先行研究では、巨大ガス惑星が惑星系から弾き出される時、惑星に近い軌道を回る衛星は生き残りやすく、長期間にわたって楕円軌道を描き続ける可能性が示されていました。離心率の大きな楕円軌道が効果的な潮汐加熱をもたらし、液体の水を維持すると考えられたのです。

しかし、当時の研究には課題がありました。熱を留める温室効果ガスとして二酸化炭素(CO2)の分厚い大気が想定されていましたが、浮遊惑星がさまよう極低温の星間空間では二酸化炭素は凝結しやすく、大気の保温効果が失われて熱が逃げてしまいやすいとも考えられたのです。

そこで今回、Dahlbüddingさんたちは、二酸化炭素の代わりに水素分子(H2)を主成分とする大気をシミュレーションしました。その結果、地球と同じ質量の衛星に100気圧という分厚い水素の大気がある場合、最大で43億年間にもわたって表面に液体の水が存在できる状態を維持できる可能性が示されました。

この保温効果の根拠となっているのが、衝突誘起吸収(CIA)と呼ばれる現象です。研究チームによると、高圧下で互いに衝突し合う水素分子は衝突誘起吸収によって熱放射を吸収するため、極低温の星間空間でも凝結しにくく、熱を効率的に閉じ込められるのだといいます。

生命誕生を後押しし得る環境

研究チームによれば、この環境は単に水が存在するだけでなく、生命誕生前の化学進化にも有利に働く可能性があるといいます。

第一に、強い潮汐力による衛星の変形は、水が蒸発と凝縮を繰り返す湿潤と乾燥のサイクルを局所的に生み出します。この過程は、RNA(リボ核酸)などの複雑な分子の形成を促す重要なメカニズムとされています。

第二に、今回想定された厚い水素の大気中に少量の窒素が含まれると、アンモニア(NH3)が生成されます。このアンモニアが水に溶けることで、生命誕生に適したアルカリ性(pH9〜10)の環境が作られる可能性があるといいます。

DahlbüddingさんはLMUのニュースリリースに寄せたコメントで「生命のゆりかごには必ずしも太陽は必要ない」と述べています。天の川銀河には恒星と同じくらいの数の浮遊惑星が存在すると推定する研究もあることから、今回の発見は、宇宙における生命探査の対象を大きく広げるものと言えるでしょう。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典