
火星が形成された当時に起きた“巨大衝突の痕跡”が、今も火星のマントル深くに眠っている。そんな研究成果を、NASA=アメリカ航空宇宙局が2025年8月28日付で紹介しています。
InSightが捉えた地震波に生じた減速の原因を調査
インペリアル・カレッジ・ロンドンのConstantinos CharalambousさんやTom Pikeさんたち研究チームは、NASAが運用していた火星探査機「InSight(インサイト)」の火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」で取得されたデータを分析しました。
火星の内部構造解明を目的に開発されたInSightは、2018年11月に火星のエリシウム平原に着陸。翌12月にSEISを地表に設置すると、2019年4月に初めて火星の地震(火震)を検出することに成功し、その後も続々と地震のデータを取得し続けた探査機です。太陽電池に積もり続けた砂塵によって発電量が低下したため、ミッションは2022年12月に終了しました。

Pikeさんによると、SEISのデータを分析したところ、高周波の地震波がマントルの深いところを通過すればするほど減速していたことが判明。火星全体のシミュレーションを使ってその理由を調べた結果、マントル内部の小さな領域を通過した時に地震波の減速と乱れが発生する可能性が示されました。
その領域は、周囲のマントルとは組成が異なる何らかの物質の塊である可能性が示されました。塊は火星のマントルに散在していて、大きいもので約4kmの幅があるとみられています。
塊の正体を探った研究チームは、初期の火星に小惑星などが衝突してマグマオーシャンを形成した際、衝突時に生じた破片がマントルの奥深くへと運び込まれたと結論付けました。言い換えれば、高周波地震波を減速させるマントル内部の塊は、約45億年前の火星誕生当時に起きた大規模な衝突の痕跡ということになります。

火星だからこそ今まで残っていた可能性も
太陽系の惑星はガスと塵(ダスト)が集まった原始惑星系円盤(原始太陽系円盤)で形成されたと考えられています。
塵は砂粒や小石サイズ、岩石、小惑星、微惑星、原始惑星へと徐々に集まりながら成長していったため、誕生した惑星には微惑星や小惑星が何度も衝突していました。地球の月も、原始地球に火星くらいの大きさの天体が衝突した結果として誕生したとする説が有力視されています。
今回の研究成果は、衝突が繰り返されていたとする当時の太陽系の描像とも一致します。

また、プレートテクトニクスがある地球ではマントルに対流が生じていますが、“一枚岩”の地殻を持つ火星では内部の対流が地球と比べてはるかに緩やかであり、その結果として数十億年前からの微細な構造が今も残っているとCharalambousさんは指摘しています。
容易に知ることはできない惑星の内部。火星だけでなく、水星や金星の内部にも、誕生当時の様子を伝える何かが眠っているかもしれない。今回の結果は、そんな可能性を示すものとなりました。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
関連記事
- 火星の「核」は軽い元素が豊富な液体 「インサイト」が捉えた地震波により判明
- ミッション終了から2年 宇宙から撮影されたNASA火星探査機インサイトの今
- 「火星探査機インサイト」最後と最初の自撮り写真【今日の宇宙画像】