こちらは火星を周回しているアメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査機「Mars Reconnaissance Orbiter(MRO、マーズ・リコネサンス・オービター)」に搭載されている高解像度撮像装置「HiRISE」で2024年10月23日に撮影された、エリシウム平原のある地点。画像の中央、「C」の字型に黒く見えるエリアの中央にあるのは、2022年12月でミッションを終えたNASAの火星探査機「InSight(インサイト)」です。
火星の内部構造解明に貢献したInSight
2018年11月27日に火星のエリシウム平原に着陸したInSightは、火星の内部構造解明を目的に開発された探査機です。着陸翌月の2018年12月に設置された火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」は、2019年4月に史上初めて火星の地震(火震)を検出して以来、ミッション終了までに合計1319件の地震を検出することに成功。SEISの観測データをもとに、火星のコア(核)が液体であることをはじめ、コアのサイズ、地殻の厚さなどが判明しています。
InSightのミッションは着陸から2年間(火星での約1年間)の予定でしたが、2022年12月まで2年間延長されており、2022年5月4日には火星での観測史上最大の規模となるマグニチュード(M)4.7の地震が検出されました。また、SEISは火星に隕石が衝突した時の振動も検出しており、これまでに幾つかの衝突クレーターの位置が特定されています。
ただ、電源として搭載されていた太陽電池の上には少しずつ塵が積もっていき、InSightが得られる電力量は徐々に低下。着陸当初の発電電力量は1ソル(※)あたり約5000ワット時だったものの、2022年12月12日の時点では1ソルあたり平均約285ワット時しか得られていませんでした。その後、2022年12月15日を最後にInSightとの交信が途絶。NASAは2022年12月21日付でミッションの終了を発表しています。
※…1ソル(Sol)は火星での1太陽日、約24時間40分。
InSightに塵を積もらせたのは火星の大気ですが、塵旋風のような強い風が吹けば、反対に太陽電池から塵を吹き払うことも考えられます。そのため、バッテリーが再充電される可能性を考慮して、NASAはミッション終了後もInSightからの通信に耳をそばだてていたといいます。しかし、ミッション終了からの2年間で変化が認められなかったことから、NASAは2024年末をもってInSightからの受信を終了する予定です。
ミッション中、発電能力に影響を及ぼす塵がInSightの太陽電池にどれくらい付着しているのかを予測する上で、InSight自身のカメラやMROのHiRISEで取得した画像が使われています。InSightのミッションはすでに終了していますが、MROによる今回の撮影はInSightとの別れを惜しみつつ、着陸地点周辺の変化をモニタリングするために行われました。
今回撮影された画像を見ると、周辺に塵旋風が通過した痕跡はみられるものの、InSightの機体左右に展開された2枚の太陽電池パドルは積もった塵のために火星の大地と同じ赤褐色に染まっています。また、着陸時のエンジン噴射で火星表面に生じた暗い環状の模様は、着陸から6年の間に少しずつ周囲と同じ色に戻りつつあります。
InSightとその着陸地点を観察することは、塵が火星表面を覆う速度を理解すること、さらにはクレーターが塵に覆われる速度をもとにクレーターの年齢を特定することにつながるということです。冒頭の画像は2024年12月16日付でNASAから公開されています。
- 火星の「核」は軽い元素が豊富な液体 「インサイト」が捉えた地震波により判明(2023年5月5日)
- NASAが火星探査機「インサイト」のミッション終了を発表 火星の内部構造解明に貢献(2022年12月22日)
- NASA火星探査機「インサイト」が隕石衝突時の地震波と音波を検出、宇宙からクレーターの場所も特定(2022年9月25日)
Source
- NASA - NASA Mars Orbiter Spots Retired InSight Lander to Study Dust Movement
文・編集/sorae編集部
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