NASAが火星探査機「インサイト」のミッション終了を発表 火星の内部構造解明に貢献
【▲ NASAの火星探査機「インサイト」が撮影した“最後のセルフィー”。2022年4月24日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
NASAの火星探査機「インサイト」が撮影した最後のセルフィー。2022年4月24日撮影
【▲ NASAの火星探査機「インサイト」が撮影した“最後のセルフィー”。2022年4月24日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)は12月21日付で、火星探査機「InSight(インサイト)」のミッションが終了したことを発表しました。インサイトは2022年12月15日を最後に交信が途絶えていました。

2018年11月27日に火星のエリシウム平原に着陸したインサイトは、火星の内部構造解明を目的に開発された探査機です。着陸翌月の2018年12月に設置された火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」は、2019年4月に史上初めて火星の地震(火震)を検出して以来、ミッション終了までに合計1319件の地震を検出することに成功。SEISの観測データをもとに、火星のコア(核)が液体であることをはじめ、コアのサイズ、地殻の厚さなどが判明しています。

【▲ NASAの火星探査機「インサイト」によって2022年12月11日に撮影された画像。火星地震計SEISは中央に写っているドーム状の装置(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
【▲ NASAの火星探査機「インサイト」によって2022年12月11日に撮影された画像。火星地震計SEISは中央に写っているドーム状の装置(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

インサイトのミッションは着陸から2年間(火星での約1年間)の予定でしたが、2022年12月まで2年間延長されており、2022年5月4日には火星での観測史上最大の規模となるマグニチュード(M)4.7の地震が検出されました。また、SEISは火星に隕石が衝突した時の振動も検出しており、これまでに幾つかの衝突クレーターの位置が特定されています。

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【▲ NASAの火星探査機マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)によって撮影された火星の新しい衝突クレーター。形成にともなう地震波がSEISに検出されたものの1つで、直径約150m・深さ約21m(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】
【▲ NASAの火星探査機マーズ・リコネサンス・オービター(MRO)によって撮影された火星の新しい衝突クレーター。形成にともなう地震波がSEISに検出されたものの1つで、直径約150m・深さ約21m(Credit: NASA/JPL-Caltech/University of Arizona)】

ただ、ミッションは順調なことばかりではありませんでした。インサイトにはもう1つの主要な観測装置として、火星地下の熱流量を測定することで「火星の核(コア)は固体か液体か」という謎に迫ることを目的に開発された、地中熱流量計測装置「HP3(Heat Flow and Physical Properties Package)」が搭載されていました。HP3の中核は、内部にハンマーを内蔵した通称「the mole」(モール、もぐら)と呼ばれる全長40cmの地中センサーです。過去の火星探査ミッションで得られた知見をもとに、モールは周囲の土から得られる摩擦を頼りに地下5mまで掘り進む計画でした。

ところが、インサイト着陸地点の地下は想定よりも土が凝集しやすく、モールが穴を掘り進んでいくだけの摩擦を得ることができませんでした。モールの地下に向けた前進は2019年2月に始まったものの数十cm程度しか掘り進めることができず、2019年10月には崩れた土が徐々に穴を埋めたことで、まるで押し返されたかのように地上へ逆戻りする事態に。その後はインサイトのロボットアームに取り付けられているスコップでモールを押さえながら再度掘り進めることに成功し、2020年6月にはようやくモール全体が地中に埋まるところまで前進したものの、それ以上掘り進むことはできず、HP3の運用は一足早く2021年1月に終了していました。

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【▲ 穴が土に埋められたことで地上に半ば飛び出してしまったモール(画像左の筒状の装置)。ロボットアームは摩擦を強めるために用いられた(Credit: NASA/JPL-Caltech)】
【▲ 穴が土に埋められたことで地上に半ば飛び出してしまったモール(画像左の筒状の装置)。ロボットアームは摩擦を強めるために用いられた(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

また、電源として搭載された太陽電池アレイには少しずつ塵が積もり、インサイトの発電電力量は徐々に低下していきました。着陸当初の発電電力量は1ソル(※)あたり約5000ワット時だったものの、2022年12月12日の時点では1ソルあたり平均約285ワット時しか得られていませんでした。

※…1ソル(Sol)=火星での1太陽日、約24時間40分。

得られる電力を少しでも増やすために、ジェット推進研究所(JPL)の運用チームは風の強い日を選んでロボットアームのスコップからインサイトの本体に砂を落とし、跳ね返った砂粒によって太陽電池アレイに積もった塵の一部を除去することに成功しています。

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しかし、インサイトの電力不足は根本的な解決には至らず、ミッションは2023年1月頃までに終了すると予測されていました。ミッションを管理するJPLのディレクターのLaurie Leshinさんは「別れを言うのは悲しいですが、インサイトの遺産は生き続け、情報と刺激を与えてくれるでしょう」とコメントしています。

【▲ インサイトのミッション終了を伝えたNASA公式Twitterアカウントのツイート】
インサイトが撮影した火星の夕暮れ時のアニメーション画像が添えられている

 

Source

  • Image Credit: NASA/JPL-Caltech, University of Arizona
  • NASA/JPL - NASA Retires InSight Mars Lander Mission After Years of Science

文/松村武宏