
2023年4月に打ち上げられたESA=ヨーロッパ宇宙機関の木星系探査ミッション「Juice(Jupiter Icy Moons Explorer)」の探査機は、2031年7月の木星系到着に向けて、2025年8月31日に金星でスイングバイ(太陽を公転する惑星などの重力を利用して軌道を変更する方法)を行います。
JAXA=宇宙航空研究開発機構も参加するJuiceのミッションが2025年7月に一時的な危機に陥っていたことを、ESAは金星スイングバイの予告とともに報告しています。
Juiceとは

Juiceはヨーロッパ初の木星系探査ミッションで、日本語では「木星氷衛星探査計画」と呼ばれています。ミッション名が示すように、主な探査目標は木星の衛星Europa(エウロパ)・Ganymede(ガニメデ)・Callisto(カリスト)です。
木星系に到着したJuice探査機は木星を周回しつつ3つの氷衛星をフライバイ観測し、2034年12月以降はGanymedeの周回軌道に入って観測を行う計画です。ミッションにはJAXA、NASA=アメリカ航空宇宙局、ISA=イスラエル宇宙局も参加していて、探査機に搭載する観測機器を提供しました。
打ち上げに使用された「Ariane 5(アリアン5)」ロケットには約6000kgのJuice探査機を直接木星に向けて送り出す能力はなかったため、探査機は地球(月を含む)と金星で合計4回のスイングバイを行って徐々に軌道を変更していきます。2024年8月には1回目となる地球と月でのスイングバイが行われました。
間もなく行われるのはミッション全体で2回目、Juice探査機が金星で唯一行うスイングバイです。金星に最接近するのは日本時間2025年8月31日14時28分頃。探査機は木星周辺の低温かつ暗い環境で活動するように設計されているため、高利得アンテナを熱シールドの代わりに使用しながら飛行しており、観測機器やカメラは作動されません。
なお、全体で3回目と4回目のスイングバイはどちらも地球スイングバイで、2026年9月と2029年1月に予定されています。


探査機との通信が一時途絶える
ESAによると、日本時間2025年7月16日11時50分にセブレロス局(スペイン)の深宇宙アンテナがJuice探査機と通信を行う予定でしたが、予定時刻になっても通信は確立できませんでした。
初期チェックの段階では地上局に問題は確認されず、対応を引き継いだESOC=ヨーロッパ宇宙運用センターがニュー・ノーチャ局(オーストラリア)を経由してもアクセスできなかったことから、問題はJuice探査機にあることが確認されました。
通信ができずテレメトリも途絶えてしまったため、エンジニアはJuice探査機がサバイバルモードに移行した可能性を検討しました。システムで複数の故障が生じた際に移行するサバイバルモードでは、探査機はゆっくりと回転し続け、1時間に1回だけ地球にアンテナが向けられます。しかし、今回のケースではサバイバルモード時に想定される断続的な信号も検出されません。

そこでエンジニアは、探査機の通信サブシステムに注目。中利得アンテナの方向がずれてしまったか、信号の送信機もしくは増幅器が故障してしまった可能性が疑われました。アンテナが地球を向いていなければ通信はできませんし、送信機が故障していれば探査機は信号を送れません。増幅器が故障してしまえば送信される信号は弱くなってしまい、地球では検出できなくなってしまいます。
復旧方法の選択肢は2つありました。1つ目は、次にJuice探査機のシステムが自動的にリセットされる14日後を待つ方法。2つ目は、探査機が存在すべき方向に目隠し状態でコマンドを送信し続け、予備として機能する低利得アンテナが受信するのを期待する方法です。
金星スイングバイが6週間半ほど後に迫っていたこの時、運用チームは2つ目の方法を選択しました。とはいえ、Juice探査機は約2億km(地球から太陽までの平均距離の約1.3倍)離れたところを飛行していたので、通信には片道だけでも11分かかり、コマンドが受信されたかどうかを確かめるにはさらに11分が必要です。
光の速度にもどかしさを感じてしまいそうな状況の下、通信システムを手動で起動する復旧作業は夜通し行われ、約20時間にわたって継続。ついにコマンドを受信したJuice探査機が信号増幅器を起動して通信が再開されるとともに、探査機の状態は良好であることが確認されました。
原因はソフトウェアのバグ
ESAによると、今回のトラブルの根本的な原因はソフトウェアのバグでした。
Juice探査機の信号増幅器は、タイマーに従ってソフトウェアがオンとオフを切り替えています。タイマーは常にカウントアップし続けていますが、16か月ごとに自動的なリセット操作が行われてゼロから再スタートしています。
ところが、再スタートの瞬間にタイマーが使用されていた場合、信号増幅器がオフのままになってしまうバグが潜んでいました。同様のトラブルが再発しないようにするため、最善の解決策を複数の選択肢から検討しているということです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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