地球のような惑星は「岩石惑星」と呼ばれる通り、その表面にはケイ酸塩を主体とする岩石が多く存在しますが、中心部には主に金属の鉄とニッケルで構成された「核(コア)」が存在すると考えられています。

地球の核は2層構造をしていて、外側にある液体の「外核」と、中心側にある固体の「内核」に分かれていると考えられています。もちろん、余りにも深すぎる地球の中心部の様子を直接見ることはできませんが、このような構造は地球の内部を通過した地震波を分析することで推定することができます。地震波には密度や固体と液体の違いなど、通過する物質の物性によって変化する性質があるからです。これはちょうど、妊婦の胎内を超音波で見ることと似ています。

さて、地球以外の岩石惑星も、地球と同じような構造をしているのでしょうか?理論的には、ある程度大きな岩石惑星は、中心部に金属核があると推定されています。しかし、理論はあくまでも理論なので、実際の天体の内部がどのような構造をしているのかは不明でした。

岩石惑星の内部構造の違いは、惑星の形成の仕方や環境の差を反映している可能性もあるため、非常に興味深いデータとなります。これまでに地震波で内部構造が推定された地球以外の天体は月だけですが、月はジャイアントインパクトという特殊な形成過程を経たと考えられているため、地球との単純な比較はできません。

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このような現状を改善し得るのは「火星」の探査です。NASA(アメリカ航空宇宙局)が2018年から2022年まで運用した火星着陸船「インサイト」は、火星の地震を高感度で捉え、内部構造を推定するためのデータを取得することが目標の1つでした。インサイトは、火星の地震を正確に計測した初の火星探査機です (※)

※…過去の事例として、NASAの「バイキング1号」と「バイキング2号」 (1976-1980) にも地震計が搭載されていましたが、1号は地震計の固定解除に失敗し、計測ができませんでした。2号は地震と思われる振動を計測できたものの、本体の固定が不十分であること、1号との比較ができなかったため、風による振動の可能性を排除できませんでした。

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【▲ 図: 今回解析された2つの地震波は、いずれも火星の中心部を通過している。これにより、火星の核は全体が液体であることが判明した。 (Image Credit: NASA/JPL & Nicholas Schmerr.) 】
【▲ 図: 今回解析された2つの地震波は、いずれも火星の中心部を通過している。これにより、火星の核は全体が液体であることが判明した(Credit: NASA/JPL & Nicholas Schmerr.)】

ブリストル大学のJessica C. E. Irving氏などの研究チームは、インサイトが検出した「S0976a」および「S1000」と名付けられた2つの地震波に注目し、解析を行いました。これらの地震波は、いずれもインサイトの着陸地点のほぼ反対側で発生した地震であると考えられています。地震波は震源から火星の中心部を通ってインサイトに到達した可能性があるため、火星中心部の様子を探るのに適していると考えられます。

解析の結果、火星の核の性質が明らかにされました。核の推定半径は1780kmから1810kmであり、火星全体の半分程度の大きさであると考えられます。また、火星の核はほぼ全体が液体であり、地球のように中心部に固体の核が存在する可能性は低いことも判明しました。地球よりも小さな天体である火星は地球よりも速やかに内部が冷え固まってしまう可能性があることを考えると、現在でも全体が融けているというのは意外な発見です。

さらに、火星の核には鉄やニッケルと比べて軽い元素が豊富に含まれており、重量比で20%から22%に達する可能性が高いことも判明しました。地球の核では10%未満と推定されていることと比較すれば、これは大きな違いです。軽い元素の約4分の3は硫黄が占めていて、残りは少量の酸素、炭素、水素で構成されていると推定されます。水の上に油が浮くのと同じように、軽い元素は天体の表面に浮きやすく、中心部には沈み込みにくいことを考えると、火星の核に軽い元素が多いことは興味深いデータです。

今回示された軽い元素の豊富さは、太陽系誕生時における惑星形成過程の違いを反映している可能性があります。また、誕生から46億年経った現在でもプレートテクトニクスや強い磁場を保持している地球に対し、火星ではどちらも乏しい理由を説明できる1つの答えが得られる可能性もあります。

地球と火星の内部構造の比較は、岩石惑星の形成過程に関する共通点や異なる点を知る手掛かりとなり、金星など他の岩石惑星の内部構造を推定する上でも重要なデータとなります。インサイトの運用は終了しましたが、未解析のデータは大量に残されており、さらなる研究によって火星やその他の惑星の内部構造がより明らかになるかもしれません。

 

Source

  • Jessica C. E. Irving, et.al. “First observations of core-transiting seismic phases on Mars”. (Proceedings of the National Academy of Sciences)
  • Georgia Jiang. “Scientists Detect Seismic Waves Traveling Through Martian Core for the First Time”. (The University of Maryland)

文/彩恵りり

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