
こちらは、ポンプ座の方向・約82光年先の「UPM J1040-3551」を、後述する最近の研究成果をもとに描いた想像図です。

UPM J1040-3551は、2つの赤色矮星からなる連星と、2つの褐色矮星からなる連星が、重力で結びついている四重連星ではないかと予想されている星系。
手前(右側)に描かれているのが褐色矮星の連星で、奥(左側)に拡大図付きで描かれているのが赤色矮星の連星となります。
赤色矮星はM型星とも呼ばれる恒星で、太陽よりも小さくて暗く、天の川銀河ではありふれた星。褐色矮星は赤色矮星よりも小さく、恒星と惑星の中間的な性質を持つ天体で、そのなかでも温度が高いものはL型、低いものはT型に分類されます。
2つの連星が10万年以上の周期で公転し合っている可能性
南京大学の張曽華(Zenghua Zhang)教授をはじめとする国際研究チームがセロ・トロロ汎米天文台(チリ)の望遠鏡で観測を行ったところ、UPM J1040-3551が四重連星である可能性が示されました。
今回の研究では個々の星を識別するために、赤色矮星は「UPM J1040-3551 Aa」「同Ab」、褐色矮星は「同Ba」「同Bb」と呼ばれています。赤色矮星の連星は「UPM J1040-3551 Aab」、褐色矮星の連星は「UPM J1040-3551 Bab」となり、四重連星としては「UPM J1040-3551 AabBab」とも呼ばれます。
このように、4つの星からなる可能性がある星系といっても、UPM J1040-3551をなしているのは暗い星ばかり。赤色矮星の連星とみられるAabでも視等級は14.6等で、北極星の可視光線での明るさの10万分の1ほどしかありません。ちなみに、十分に暗い空のもとでも肉眼で見えるのは6等が限界とされています。
また、褐色矮星の連星とみられるBabからは、可視光線がほとんど放射されません。近赤外線で観測しても、Aabと比べて1000分の1程度の明るさしかないといいます。
研究チームの分析の結果、Aabは表面温度約2900℃の赤色矮星からなる連星で、Babは表面温度約550℃と約420℃のT型褐色矮星からなる連星と予想されています。AabとBabは約1600天文単位(地球から太陽までの平均距離の約1600倍)離れているため、公転周期は10万年以上と推定されています。
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などによる今後の観測に期待
ただし今回の研究では、Aabの過剰な光度やBabのモデルを用いた分析をもとに、それぞれが連星だと予想しているに留まります。研究チームはジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)がBaとBbを分離できる可能性に期待を寄せており、本当に四重連星であるかどうかを確かめるのは今後の観測に委ねられています。
もしも分離して観測できた場合、Babからは褐色矮星の研究にとって重要な情報が得られるかもしれません。
恒星のように継続的な核融合反応で輝かない褐色矮星は、誕生してから時間が経つほど冷えていきます。軽いものほど速く、重いものほど遅く冷えていくのですが、極端に表現すれば、ある温度の褐色矮星には「軽くて若い褐色矮星」あるいは「重くて老いた褐色矮星」の両方の可能性があることになります。その褐色矮星が軽くて若いのか、それとも重くて老いているのかは、追加の情報がなければ区別できません。
UPM J1040-3551の場合、Aabから放射される特定の波長の光(Hα線)をもとに、形成されてから3億~20億年と比較的若い可能性が示されています。そのため、Babは低温の大気モデルを較正する基準として、さらには連星としての軌道をもとに進化モデルを検証する質量の基準として利用できる可能性があるとして、研究者は注目しています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部