広告
広告
“ピンクの惑星”「GJ 504 b」には “塩類の雲” が浮かんでいる ウェッブ宇宙望遠鏡の観測で判明

2013年にすばる望遠鏡の撮影画像から発見された「GJ 504 b」は、写真に写った光の成分を表すものとして、 “ピンクの惑星” という通称があります。しかし、GJ 504 bは本当に惑星なのかなど、謎な点が多数あります。これは、GJ 504 bが暗い天体であり、大気成分を調べるのに必要なスペクトルデータが取得できていなかったためです。

カリフォルニア大学サンディエゴ校のAneesh Baburaj氏などの研究チームは「JWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)」によるGJ 504 bの観測データからスペクトルデータを入手し、分析を行いました。その結果、GJ 504 bは惑星に近い天体である可能性が高いと分かりました。

また、大気には“塩類の雲(salt cloud)” と表現される雲があることが推定されました。研究者は、雲は硫化亜鉛と塩化カリウムでできていると推定しています。

GJ 504 bは本当に “ピンクの惑星” か?

図1: すばる望遠鏡で撮影されたGJ 504 b(右上の白い点)。中央は主星であるGJ 504があり、光をさえぎるコロナグラフのため黒くなっている。(Credit: 国立天文台)
【▲ 図1: すばる望遠鏡で撮影されたGJ 504 b(右上の白い点)。中央は主星であるGJ 504があり、光をさえぎるコロナグラフのため黒くなっている。(Credit: 国立天文台)】

2013年に発見された「GJ 504 b」(グリーゼ504b、おとめ座59番星b)は、その変わった性質から注目を集めている天体です。地球から約57光年離れた位置にあるGJ 504 bはすばる望遠鏡によって2011年に撮影された画像から発見され、当初は木星の約4倍の質量を持つ惑星と推定されていました。

明るい恒星のすぐ近くにある暗い太陽系外惑星を写真に収めることは難易度が高い上に、木星の約4倍という推定質量は、当時としては直接撮影できた太陽系外惑星としては最も軽いことから、 “第2の木星” という通称と共に注目を集めました。

図2: 天体物理学の世界では、一般的には、木星の13倍と80倍の質量を境目として、軽い順に惑星、褐色矮星、恒星と分類します。しかしGJ 504 bのように、これらに単純に当てはまらない天体も見つかっています。(Credit: Textures by Björn Jónsson, FarGetaNik, cubicApocalypse & Planetkid32(元画像)に矢印や文字を追加)
【▲ 図2: 天体物理学の世界では、一般的には、木星の13倍と80倍の質量を境目として、軽い順に惑星、褐色矮星、恒星と分類します。しかしGJ 504 bのように、これらに単純に当てはまらない天体も見つかっています。(Credit: Textures by Björn Jónsson, FarGetaNik, cubicApocalypse & Planetkid32(元画像)に矢印や文字を追加)】

しかしその後の研究で、木星の4倍という質量は軽すぎるのではないかと考えられるようになりました。新しい推定では、GJ 504 bの質量は木星の20~30倍であり、この数値だけをみれば、GJ 504 bは惑星ではなく、惑星と恒星の間の天体である「褐色矮星」に分類されます。少なくとも “第2の木星” からは離れた性質を持っていることは間違いありません。

しかし天文学者は、GJ 504 bは単純に褐色矮星と分類できない天体だと考えてきました。褐色矮星の表面温度は年齢と質量によって決まりますが、GJ 504 bは理論的な温度よりかなり低温であることが分かっているためです。このため、天文学者はGJ 504 bを、惑星とも褐色矮星とも言い切れない天体の分類「惑星質量天体」に分類しています。

また、熱放射に由来する光の成分を表す表現として “ピンクの惑星” と呼ばれることもあります。ピンクというのは、実際の色よりもわかりやすくするための比喩表現という側面があるものの、肉眼的な色合いが赤っぽい色に見えるであろうことは事実です。

GJ 504 bにまつわるこのどっちつかずの状況は、観測データの質によって発生しています。表面温度や化学組成といった天体の詳しい性質を知るには、天体からの光を波長ごとに分析するスペクトルデータが必要です。しかしGJ 504 bは、かろうじて望遠鏡で撮影できる程度の暗い天体であるため、スペクトルデータが入手できていませんでした。

この状況を大きく変えたのが、2022年から稼働を開始した「JWST(ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡)」です。JWSTの観測波長は、スペクトルデータとして入手したい波長を含んでいます。また、巨大な鏡を持つ宇宙望遠鏡であるため、これまで取得することができなかった弱い光でも詳しく観測することができます。

大気に “塩類の雲” を発見!

図3: JWSTによって撮影されたGJ 504 b(右側)。左側は、主星であるGJ 504からの光を処理する前の画像。(Credit: Aneesh Baburaj, et al.)
【▲ 図3: JWSTによって撮影されたGJ 504 b(右側)。左側は、主星であるGJ 504からの光を処理する前の画像。(Credit: Aneesh Baburaj, et al.)】

カリフォルニア大学サンディエゴ校のAneesh Baburaj氏などの研究チームは、JWSTによるGJ 504 bの観測データを分析し、そのどっちつかずの性質に迫りました。分析の元となる観測データは、JWSTの観測性能の高さにより、わずか2時間ほどで入手できています。過去の望遠鏡は一晩中GJ 504 bを観測してもデータの入手に失敗したことを考えれば、いかに性能が高いかが分かるでしょう。

得られたスペクトルを分析した結果、GJ 504 bの性質が見えてきました。特に興味深いのは、大気に含まれる成分の分析結果です。大気からは水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン、アンモニア、硫化水素が検出されました。特にアンモニアは、GJ 504 bのようなタイプの天体では3例目となる珍しい検出報告です。

ただしスペクトルデータをよく見ると、これらの分子だけでは説明できない信号が含まれていました。Baburaj氏は、この信号は光を通しにくい雲によって説明できると考えています。雲の成分についてモデルを組んで分析を行った結果、雲は硫化亜鉛と塩化カリウムでできている可能性が最も高いことが分かりました。化学的にはどちらも塩類(※)であることから、研究者はこれを “塩類の雲” と表現しています。

※…ここでいう塩類とは、いわゆる「塩(しお)=塩化ナトリウム」のことではなく、化合物としての「塩(えん)」を指します。ただし、塩化カリウムは食塩に含まれていることがある成分です。

また、表面温度は約290℃、質量は木星の約25倍であることも観測データから推定されました。そして、大気に含まれる重い元素の割合は、恒星よりも惑星に近い値であることが推定されました。

これらの性質から、GJ 504 bは褐色矮星というよりも、惑星に近い性質の天体であることが示唆されます。ただし今回の研究では、惑星に近い可能性が高いとしながらも、褐色矮星である可能性が完全に排除されたわけではないと結論付けています。

GJ 504 bがかなり巨大な惑星に近い天体であることと、表面温度と質量が判明したことを合わせることで、GJ 504 bの年齢も推定できます。このような惑星質量天体は、誕生直後は熱く、その後どんどん冷えていくことから、冷め具合から年齢を逆算できるからです。今回の研究では、GJ 504 bが誕生から25億~40億年経過していることを示唆しています。

JWSTが見せてくれた新たな世界

図4: 今回の研究結果は、GJ 504 bが塩類の雲を持つ “ピンクの惑星” であることを示しています。(Credit: NASA, Goddard Space Flight Center)
【▲ 図4: 今回の研究結果は、GJ 504 bが塩類の雲を持つ “ピンクの惑星” であることを示しています。(Credit: NASA, Goddard Space Flight Center)】

今回の研究により、GJ 504 bは本当に “ピンクの惑星” である可能性が高く、塩類の雲が存在する世界であることが明らかにされました。

これまでスペクトルが観測できた天体は、低くても500℃ほどの温度がありましたが、今回調査されたGJ 504 bは約290℃です。これはJWSTの性能が高いことを示す一例であり、他の天体も詳細に観測され、大気の様子が調べられる可能性があるでしょう。

例えば、太陽系最大の惑星である木星は、-120℃の表面温度を持ち、アンモニアの雲があることが分かっています。太陽系の外でこれほど低温な天体を観測した例はありませんが、そのような天体が観測できる日は少しずつ近づいていることになります。

ひとことコメント

ピンクソルトを思わせる結果だけど、実際の味は苦みやえぐみといった感覚に近いかもね(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

関連記事

参考文献・出典