JAXA「イプシロンS」第2段モータ再地上燃焼試験の爆発原因調査で状況報告 試験場復旧は2025年秋以降か

JAXA=宇宙航空研究開発機構は2025年2月25日、「イプシロンS」ロケット第2段モータの再地上燃焼試験で発生した燃焼異常について、原因調査状況に関する記者説明会を開催しました。

イプシロンSロケットとは

イプシロンSロケットの想像図(Credit: JAXA)
【▲ イプシロンSロケットの想像図(Credit: JAXA)】

イプシロンSは前身となる「イプシロン」ロケットを発展させる形で開発が進められている3段式の固体燃料ロケットです。

JAXAによれば、イプシロンSでは1段目を「H3」ロケットの固体燃料ロケットブースター(SRB)と共通化することなどによる相乗効果や、衛星受領から打ち上げまでの期間をイプシロンの3分の1程度となる10日以内にするなどの改良を行うことで国際競争力を高め、小型衛星打上げ市場で競争可能な価格帯を実現するとともに、1年に2回の打ち上げ機会提供を目指すとされています。

開発完了に向けてイプシロンSの第2段モータ地上燃焼試験が2023年7月14日に秋田県の能代ロケット実験場で行われましたが、点火57秒後に爆発が発生。原因調査と対策を講じた上で2024年11月26日には第2段モータの再地上燃焼試験が種子島宇宙センター竹崎地上燃焼試験場で行われましたが、点火約49秒後に再び爆発が発生しており、JAXAは同日中に原因調査チームを立ち上げてデータの分析を進めています。

FTA(故障の木解析)を通じて要因の絞り込みを進行中

イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験で爆発が発生した時の様子。 2024年11月26日に種子島宇宙センター竹崎局で撮影(Credit: JAXA)
【▲ イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験で爆発が発生した時の様子。 2024年11月26日に種子島宇宙センター竹崎局で撮影(Credit: JAXA)】

2025年2月25日の会見では原因調査チームのチーム長を務める岡田匡史さん(宇宙輸送技術部門長/理事)と、原因調査班の井元隆行さん(イプシロンプロジェクトマネージャ)が状況説明と質疑応答に臨みました。

前回(2024年12月25日)の会見が開催された時点で、第2段モータの再地上燃焼試験では点火約17秒後から圧力が予測値よりも高いほうへと徐々に乖離し始め、点火約48.9秒後に燃焼ガスの漏洩が始まり、その0.4秒後となる点火約49.3秒後に爆発が発生したことが試験データの分析によって把握されていました。加速度と歪の変動はいずれも後方から始まっていることから、燃焼ガスの漏洩と爆発は第2段モータケースの後方で発生したと判断されました。

これを受けて、原因調査チームは「点火約17秒後から燃焼圧力の乖離が高いほうへ徐々に拡大」「点火約48.9秒後に燃焼圧力が下降(燃焼ガスの漏洩)」「点火約49.3秒後に燃焼圧力が急激に下降(爆発)」の3点をトップ事象としたFTA(故障の木解析)を展開し、原因特定に向けた評価を開始しています。今回の会見ではFTAの進展状況が報告されました。

まず、点火約17秒後に始まった燃焼圧力の予測値からの乖離について、事前予測の誤りや製造不良・組立不良が原因ではないと判断されており、推進薬の燃焼面積増加あるいは予測よりも大きかった燃焼速度によって、燃焼中に設計想定外の異常が発生した可能性の検討が続けられています。

次に、点火約48.9秒後に始まった燃焼ガスの漏洩については回収物の分析結果をもとに、燃焼ガスを噴射させる「ノズル」と、モータケースとノズルをつなぐ金属製の部品である「ジョイントホルダ」では漏洩は起こらなかったと判断されました。この2つは今回の会見までに回収されています。ただし、モータケースの口元部の補強およびジョイントホルダとの結合を担う金属製の部品である「ボス」は今回の会見までに回収されておらず、ボスとジョイントホルダの結合面から漏洩した可能性は否定されていません。

イプシロンS第2段モータの後方ドーム周辺の構造を示した図。JAXAの会見配布資料から引用(Credit: JAXA)
【▲ イプシロンS第2段モータの後方ドーム周辺の構造を示した図。JAXAの会見配布資料から引用(Credit: JAXA)】
イプシロンS第2段モータの後方ドーム周辺の構造のうち、モータケースとノズルの結合部を拡大した図。JAXAの会見配布資料から引用(Credit: JAXA)
【▲ イプシロンS第2段モータの後方ドーム周辺の構造のうち、モータケースとノズルの結合部を拡大した図。JAXAの会見配布資料から引用(Credit: JAXA)】

また、モータケース後方ドーム部からの燃焼ガス漏洩について評価を進めたところ、製造不良や組立不良が原因ではないと判断されており、インシュレーション(断熱材)の気密喪失やインシュレーションの端からの燃焼ガス侵入が設計想定外の燃焼ガス漏洩につながった可能性として残されています。

最後に、点火約49.3秒後に発生した爆発について、モータケース後方ドーム部の事前予測の誤りや製造不良・組立不良、それにノズルの破壊・脱落やジョイントホルダの破壊は原因ではないと判断されました。残された可能性は熱に起因する過大な応力や材料強度の低下が招いた設計想定外の爆発で、モータケースの内部や外部から熱が加わることで破壊に至る可能性の検討が進められています。

一方、再地上燃焼試験で使用された第2段モータの後方ドーム非破壊検査の結果を確認したところ、充填された推進薬とインシュレーションの間に長さ約65mmの空隙が一部で生じていたことが確認されました。場所はノズル側からモータケースを見た時の右側(※1)で、イプシロンS実証機(イプシロン7号機)用の第2段モータの後方ドーム非破壊検査でも同様の位置に空隙が確認されています。ただし、空隙と燃焼異常の関係については会見の時点では不明とされています。

こうした空隙はイプシロン2号機から6号機まで使用された強化型第2段モータ(※2)では確認されていないといいます。また、2023年7月に能代ロケット実験場での地上燃焼試験時に爆発した第2段モータでも確認されなかったものの、精度の問題で検出できなかった可能性もあるといいます。

※1…再地上燃焼試験で使用された第2段モータの非破壊検査は、ノズルから見て左を0度とした時に0度・90度・180度・270度の4つの位相(時計回り)で実施されていて、空隙は180度の位相1つのみで確認された。

※2…非破壊検査が行われたのは地上燃焼用と2号機用の2つのみ、3号機~6号機では実施されず。

なお、能代ロケット実験場と竹崎地上燃焼試験場では施設の再建や復旧が進められていますが、JAXAはこのうち竹崎地上燃焼試験場について2025年秋頃の復旧を目指していることも今回の会見で言及されました。ただ、復旧時期は設備の健全性の確認結果にも左右されることから、イプシロンS実証機の打ち上げに欠かせない第2段モータの再度の地上燃焼試験をどこで行うのかはまだ決まっておらず、状況を考慮して適切に判断していきたいということです。

 

Source

  • JAXA - イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験における燃焼異常原因調査状況に関する記者説明会 (YouTube)

文・編集/sorae編集部