【更新・追記】JAXA「イプシロンS」ロケット第2段の地上燃焼試験で異常発生

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は開発中の新型ロケット「イプシロンS」の第2段モータ(固体燃料ロケットエンジン)再地上燃焼試験を鹿児島県の種子島宇宙センター竹崎地上燃焼試験場で日本時間2024年11月26日に実施しましたが、燃焼中に異常が発生した模様です。

2024年11月26日に種子島宇宙センター竹崎地上燃焼試験場で行われたイプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験で異常が発生した瞬間。
【▲ 2024年11月26日に種子島宇宙センター竹崎地上燃焼試験場で行われたイプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験で異常が発生した瞬間。映像右側に設置された第2段モータは映像左側に向かって燃焼ガスを噴射していたが、点火数十秒後に何かが左方向へ弾け飛んでいく様子が捉えられた。NVSのライブ配信から引用(Credit: NVS)】

JAXAが日本時間2024年11月26日12時15分に発表した第1報によると、同日8時30分に点火した第2段モータで点火約49秒後に燃焼異常が発生しました。人的被害、および第三者物的被害の状況はなしとされており、第1報発表時点では推定原因は不明です。なお、燃焼試験は120秒程度が予定されていました。

ロケット打ち上げ等のライブ配信を行うネコビデオビジュアルソリューションズ(NVS)が配信した映像を確認すると、点火から数十秒後に海側(映像左側)へ向かって何かが弾け飛んでいった後、試験場一帯が白煙に包まれていく様子が捉えられています。NHKの報道によると、試験場では火災が発生し、消火活動が行われたということです。

イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験については新しい情報が発表され次第お伝えします。【2024年11月26日12時35分】

イプシロンSロケットとは

イプシロンSロケットの想像図
【▲ イプシロンSロケットの想像図(Credit: JAXA)】

イプシロンSは前身となる「イプシロン」ロケットを発展させた3段式の固体燃料ロケットです。JAXAによれば、イプシロンSでは1段目を「H3」ロケットの固体燃料ロケットブースター(SRB)と共通化することなどによる相乗効果や、衛星受領から打ち上げまでの期間をイプシロンの3分の1程度となる10日以内にするなどの改良を行うことで国際競争力を高め、小型衛星打上げ市場で競争可能な価格帯を実現するとともに、契約から1年以内・年2回の打ち上げ機会提供を目指すとされています。

イプシロンSの第2段モータ燃焼試験は2023年7月に秋田県の能代ロケット実験場で行われましたが、点火57秒後に爆発が発生しました。原因を調査・特定したJAXAは、第2段モータのイグナイタ(点火装置)を構成するイグブースタと呼ばれる部品の一部が溶融・飛散してモータケースと推進剤の隙間に侵入し、熱負荷が増大したことでモータケースが破壊するに至ったと述べています。その後、対策を施したイグブースタやイグナイタの燃焼試験が良好に完了したことから、第2段モータの設計妥当性を検証するために今回の再地上燃焼試験が計画・実施されていました。

参考画像:イプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中に発生した爆発直後の様子。2023年7月14日に能代ロケット実験場の実験場外見学場で撮影
【▲ 参考画像:イプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中に発生した爆発直後の様子。2023年7月14日に能代ロケット実験場の実験場外見学場で撮影(Credit: JAXA)】

【追記】JAXAは2024年12月5日にイプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験での燃焼異常に関する記者説明会を開催し、原因調査チームのチーム長を務める岡田匡史さん(宇宙輸送技術部門長/理事)と、原因調査班の井元隆行さん(イプシロンプロジェクトマネージャ)が原因の調査状況説明と質疑応答に臨みました。

それによると、今回の爆発後に回収されたイグナイタ・イグブースターは溶融していないことが確認されました。前述の通りイグブースターの溶融は能代ロケット実験場で発生した爆発の原因とされており、前回の事象を受けた対策はしっかり取れていたという認識が示されています。

ただ、燃焼圧力データは前回の試験時と同様に点火約20秒後から予測値より乖離し始め、最大使用圧力(8.0MPa)や保証耐圧試験圧力(8.8MPa)に比べれば低かったものの、爆発直前には予測値と比べて1MPaほど高い約7MPaに到達していました。その一方で、前回の能代での爆発時とは大きく異なる点として、爆発直前に燃焼ガスと推定される気体がノズル以外の部分から漏洩している様子が、試験中の第2段モータを捉えた映像に記録されていたことが明らかにされました。

また、正式に決定してはいないものの、残り4か月を切った2024年度中のイプシロンS実証機打ち上げは現実的には不可能だという見解も示されました。今後は当面の計画として試験データの詳細な評価、回収した破片による事象の把握、設計・製造・検査の各データの確認などを通じて、燃焼圧力が予測値から乖離した原因と燃焼異常に至った原因を調査するとともに、あらゆる可能性を考慮して検討を進めるということです。【最終更新:2024年12月5日18時40分】

イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験で爆発が発生した時の様子。 2024年11月26日に種子島宇宙センター竹崎局で撮影(Credit: JAXA)
【▲ イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験で爆発が発生した時の様子。 2024年11月26日に種子島宇宙センター竹崎局で撮影(Credit: JAXA)】
イプシロンS第2段モータ地上燃焼試験時の燃焼圧力予測値と実際のデータを示した図。黒:予測値、青:能代での燃焼試験時(2023年7月、前回)、オレンジ:種子島での再燃焼試験時(2024年11月、今回)。JAXAの記者説明会配布資料から引用(Credit: JAXA)
【▲ イプシロンS第2段モータ地上燃焼試験時の燃焼圧力予測値と実際のデータを示した図。黒:予測値、青:能代での燃焼試験時(2023年7月、前回)、オレンジ:種子島での再燃焼試験時(2024年11月、今回)。JAXAの記者説明会配布資料から引用(Credit: JAXA)】

 

Source

  • JAXA - イプシロンSロケット第2段モータ(E-21)再地上燃焼試験の実施について
  • JAXA - イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験について(第一報)
  • JAXA - イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験における燃焼異常原因調査状況に関する記者説明会 (YouTube)
  • NVS - イプシロンSロケット第2段モータ再地上燃焼試験(無人固定カメラ)(YouTube)
  • NHK - 小型ロケット「イプシロンS」燃焼試験で異常 火災発生

文/sorae編集部 速報班 編集/sorae編集部

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