「ベテルギウス」には未知の伴星 “ベテルバディ” がいるかもしれない

オリオン座の1等星「ベテルギウス(オリオン座α(アルファ)星)」は、恒星の寿命の末期に当たる「赤色超巨星」であり、もう間もなく超新星爆発(II型超新星)を起こすと考えられています。しかし、それがいつであるかについては議論があり、議論の決着には、ベテルギウスにある2種類の変光周期(明るさの変化)の理由を解明する必要があります。

ベテルギウス(黄色の円盤)の周りを周回する伴星 “ベテルバディ” (白色の点)の想像図。
【▲ 図1: ベテルギウス(黄色の円盤)の周りを周回する伴星 “ベテルバディ” (白色の点)の想像図。 “ベテルバディ” からの放射は塵を押しのけるため、部分的に薄くなった箇所ではベテルギウスからの光が多く通るようになります。(Credit: Lucy Reading-Ikkanda(Simons Foundation))】

サイモンズ財団フラットアイアン研究所のJared A. Goldberg氏、ワイオミング大学のMeridith Joyce氏、そしてコンコリー天文台のLászló Molnár氏らの研究チームは、ベテルギウスの長い周期の明るさの変化は、今まで観測されたことのない未知の伴星が関与しているとする説を発表しました。

研究チームから愛称として “ベテルバディ(Betelbuddy)” と呼ばれているこの未知の伴星は、ベテルギウスを周回しながら、周りを覆う塵を押しのけます。塵は光を遮るため、押しのけられた領域が見た目上明るく見え、これが変光のように見える、と研究者は考えています。もしこの説が正しい場合、ベテルギウスは数百年以内という差し迫った超新星爆発を起こす可能性は低いことになります。

この研究は、この記事の執筆時点ではプレプリントですが、2024年11月末頃にThe Astrophysical Journal誌に掲載される予定です。

「ベテルギウス」はもうすぐ超新星爆発を起こすのか?

図2: ALMA望遠鏡によって撮影されたベテルギウスでは、表面には明るさの違いがあることが分かります。
【▲ 図2: ALMA望遠鏡によって撮影されたベテルギウスでは、表面には明るさの違いがあることが分かります。(Credit: ALMA(ESO, NAOJ & NRAO), E. O’Gorman & P. Kervella)】

オリオン座の「ベテルギウス」は、冬の1等星の代表的な存在ですが、近代天文学でも注目を集めています。まず、ベテルギウスは太陽以外では最も見た目の大きさが大きい恒星であり、近代の望遠鏡の精度とデータ処理能力の向上により、表面の細かい明るさの違いも観察することが可能です。太陽以外の恒星の様子を詳細に観測することで、太陽の性質に何か特異なものがないかをテストすることができます。

次に、ベテルギウスは恒星の寿命の末期に差し掛かっており、表面が膨張した「赤色超巨星」となっています。ベテルギウスの直径は10億kmを超えており、太陽系の中心に置けば小惑星帯すら飲み込まれてしまいます。また、質量は太陽の約18倍と推定されており、その質量から超新星爆発を起こすと予測されています。ベテルギウスを観察すれば、超新星爆発のメカニズムや前兆現象を深く理解することができるかもしれない、という意味でも大きな注目を集めています。数週間にわたって昼間でも見える超新星は、一般の人々の関心も集めることになるでしょう(※1)

※1…なお、ベテルギウスの超新星爆発で放出される電磁波や物質が、地球環境や文明社会に悪影響を及ぼす可能性は考えられていません。

では、ベテルギウスはいつ頃超新星爆発を起こすのでしょうか? その時期については大きな議論があり、主に2つの説がありました。この背景には、ベテルギウスの変光周期をどのように解釈するかの問題が絡んでいます。ベテルギウスのように寿命が末期となった恒星は、周期的に明るさを変化させる「脈動変光星」となります。ベテルギウスも、観察する時期によって視等級が0.0~1.6等級と変化します。

長年の観察により、ベテルギウスの変光周期は416日周期(約1.14年)と2170日周期(5.94年)の2種類あることが分かっています。ベテルギウスの寿命を推定するには、どちらの周期が脈動変光星としての基本であるかを示す必要があり、そのためにはもう片方の変光が別の理由で起きていることを説明する必要があります。

ベテルギウスに関する多くの研究では、416日周期を基本としています。これは他の脈動変光星と比較し、妥当な水準の周期の長さだからです。もしこの場合、ベテルギウスの超新星爆発は、少なくともここ数十万年以内には起きないだろうと推定されます。天文学的には十分に差し迫っているものの、人間の時間スケールとしては長いでしょう。

一方で、2170日周期が基本である場合はより興味深い結果となります。ベテルギウスは本当に超新星爆発を起こす直前であり、今後数十年から数百年以内に爆発するかもしれないからです。しかしこの場合、長い変光周期を説明するためには、ベテルギウスの直径など、様々なパラメーターを変更しなければならなくなります。

未知の伴星の存在が長い変光周期を説明できる

Goldberg氏ら3氏は、ベテルギウスの基本的な変光周期がどちらであるのか、そして基本ではない変光周期はどのような理由で発生しているのかを検討しました。今回の研究では、ベテルギウス自体や、ベテルギウスと似たような恒星の観測記録を元に様々な仮説を立て、コンピューターモデルでそれぞれの妥当性を検証しました。

まず3氏は、2170日周期は基本的な変光周期ではないことがほぼ確定的であると考えています。これは2170日周期の仮定が、過去数千年に渡るベテルギウスの色の観測記録、ベテルギウスの推定半径、脈動変光星のこれまでの知見と矛盾するためです。

では、2170日周期の変光はどのようにして発生するのでしょうか? そこで、対流、自転、磁場など、9通りのシナリオを仮定し、観測結果との照らし合わせやシミュレーションをしたところ、「ベテルギウスには未知の伴星がある」とする説が、大きな矛盾なく説明できる唯一の説として残りました。

図3: 今回の研究では、 “ベテルバディ” の周回によって塵の薄い部分ができていることが、ベテルギウスの長期的な変光の理由だとしています。
【▲ 図3(クリックで拡大): 今回の研究では、 “ベテルバディ” の周回によって塵の薄い部分ができていることが、ベテルギウスの長期的な変光の理由だとしています。(Credit: Lucy Reading-Ikkanda(Simons Foundation) / トリミングおよび日本語訳の加筆は筆者(彩恵りり)による)】

ベテルギウスは赤色超巨星として膨張しており、大量の塵を宇宙空間へ放出しています。塵は光を吸収するため、ベテルギウスの光は幾分か塵に遮られているはずです。もし、ベテルギウスのすぐ外側を公転する未知の伴星がある場合、放射が除雪車のように塵を押しのけるため、部分的に塵の薄い箇所ができるはずです。3氏は、伴星の公転に伴い、塵の薄い箇所が周期的に地球の側を向くことが、2170日周期の由来であると考えています。

未知の伴星は、最低でも太陽の1.17倍、おそらくは2倍前後の質量を持つと推定され、ベテルギウス自体の大きさ(半径)の約2.4倍、ベテルギウスの中心から13億kmの距離を周回していると考えられます。正体は不明ですが、恒星か、もしくは中性子星(※2)であると考えられています。しかし中性子星の場合、塵との相互作用で強いX線を放射すると考えられるため、現在でも観測されていない理由は謎です。

※2…太陽より重い恒星が超新星爆発を起こした後に残す、収縮した中心核。ベテルギウス自身も、超新星爆発を起こせば中性子星を残すのではないかと考えられています。

ベテルギウスの相棒 “ベテルバディ”

研究チームはベテルギウスの伴星について、あくまで正式な名称ではないものの、「ベテルギウス(Betelgeuse)の相棒(Buddy)」という意味の “ベテルバディ” という愛称で呼んでいます。論文ではより公式名に近いものとして「α Ori B」という名称で呼ばれていますが、このBは伴星を表す記号ではなく(※3)、 “ベテルバディ” の略号です。

※3…通常の連星系の命名では、第1の天体である主星を「A」(あるいは記号なし)とするのに対し、第2の天体である1つ目の伴星を「B」、第3の天体である2つ目の伴星を「C」……とアルファベット順に記号を付けるのが通例です。この命名法は、アルファベットを小文字にする形で太陽系外惑星の命名にも使用されています。

もし “ベテルバディ” が見つかれば、ベテルギウスが数百年以内という短期間で超新星爆発を起こす可能性はほぼ無くなると思われますが、今のところ見つかっていないことから、観測は困難であると見られます。しかし今回の研究が正しい場合、ベテルバディは2024年12月6日に最も観測しやすい位置に来るはずです。もしその場合、塵を押しのけている “ベテルバディ” の姿が、まるで彗星の尾のように観測できるでしょう。

いずれにしても、現在のところ “ベテルバディ” は発見されていません。今回の研究が正しいかどうかは、ベテルギウスの集中観測によって未知の伴星の存在を見つけられるか否かにかかっています。3氏はすでに、実在を示すための観測計画を提案しています。

 

関連記事

 

Source

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

#ベテルギウス #ベテルバディ