小惑星「2024 XA1」(COWEPC5)を落下前に観測 前回の同様事例からわずか42日後

地球へと落下する天体が、落下前に宇宙空間で「小惑星」として観測されることはほとんどありません。しかし観測技術の向上などを理由として、落下前に観測される小惑星の事例が報告される頻度は段々と高くなっています。

2024年12月3日(※1)、小惑星「2024 XA1」(暫定名COWEPC5)が地球に落下しました。これは落下前に観測された観測史上11例目の小惑星となります(※2)。落下前に発見された小惑星は、2024年では「2024 BX1」「2024 RW1」「2024 UQ」に次いで4例目です。前回からわずか42日後と、これまでで最短の間隔での観測事例となりました。

※1…本記事では日時を世界時で記述します。表記された時間を9時間進めると日本時間になります。

※2…観測データが不十分であるために小惑星として正式な登録がされていない「A106fgF」と「DT19E01」、落下の約10分前に撮影されていたものの事後解析によって判明した「CNEOS 20200918」の3事例を除きます。

図1: ロシアのオリョークミンスクで撮影された2024 XA1の火球。現地は真夜中の1時14分であるにも関わらず、周辺の家並みが分かるほど明るくなっています。(Credit: Наблюдательная астрономия)
【▲ 図1: ロシアのオリョークミンスクで撮影された2024 XA1の火球。現地は真夜中の1時14分であるにも関わらず、周辺の家並みが分かるほど明るくなっています。(Credit: Наблюдательная астрономия)】

地球への落下前に小惑星を発見する頻度は増加傾向

図2: 地球外から落下する天体は、その発見状況によって分類が変化します。上空100kmより上で見つかれば小惑星、大気圏落下中の発光は流星や火球、地上で破片が見つかれば隕石と呼ばれます。(Credit: 島宮七月)
【▲ 図2: 地球外から落下する天体は、その発見状況によって分類が変化します。上空100kmより上で見つかれば小惑星、大気圏落下中の発光は流星や火球、地上で破片が見つかれば隕石と呼ばれます。(Credit: 島宮七月)】

太陽系には大小さまざまな天体や塵が無数に存在し、その一部は地球へと落下します。小さなものは「流星」として毎日数百万個も降り注ぎますが、特に大きく明るい流星は「火球」として観測され、一部の破片は地表や海へと落下していると考えられています。天体の破片が採集されれば、それは「隕石」と呼ばれます。

地表に隕石を残すほどの大きさの天体が落下する頻度は1日あたり10~50個であると推定されています。もしこのような天体が、大気圏突入前の宇宙空間(上空100kmより上)で発見されていれば、それは「小惑星」として分類されます。現在の観測体制で見つけることができる小惑星の大きさの下限は約1mであり、この大きさの小惑星は約2週間に1回程度落下していると推定されています。

2週間に1回という頻度にも関わらず、天体の落下が事前に予測されること、つまり事前に宇宙空間で小惑星として発見されることはこれまでほとんどありませんでした。これは落下の24時間以内にならないと観測できるほどの明るさにならないこと、夜間以外には観測できないこと、軌道予測が難しいことなどが関係しています。

それでも、観測技術が向上したこと、軌道シミュレーションが高速化したこと、情報を速やかに共有できるようになったことなどを理由として、発見事例は増加しています。初めての観測事例は世界時2008年10月7日に落下した「2008 TC3」であり、しばらくの間は数年に1回の出来事でしたが、最近では数か月に1度の頻度となっています。前回は2024年10月22日に発見・落下した「2024 UQ」の事例でした。

十分な余裕をもって予測された11例目「2024 XA1」

図3: アラブ首長国連邦のMohammad Shawkat Odeh氏によって撮影された2024 XA1(黄色丸囲み中の交点)。(Credit: Mohammad Shawkat Odeh)
【▲ 図3: アラブ首長国連邦のMohammad Shawkat Odeh氏によって撮影された2024 XA1(黄色丸囲み中の交点)。(Credit: Mohammad Shawkat Odeh)】

2024年12月3日5時55分、キットピーク国立天文台(アメリカ、アリゾナ州)にあるボーク望遠鏡(90インチ望遠鏡)の地球近傍天体サーベイシステムにて、推定直径約70cmの新しい小惑星、暫定名「C0WECP5」が発見されました(※3)。この観測報告後、ジェット推進研究所(JPL)の地球近傍天体危険評価システム「スカウト(Scout)」と欧州宇宙機関(ESA)の衝突危険警告システム「ミーアキャット(Meerkat)」によって、落下する可能性が高いことが予測されました。

※3…この観測情報の報告後、約1時間前の4時50分にパロマー天文台のツビッキー突発天体観測施設(ZTF)でも観測されていたことが判明しています。

図4: 落下前に示された、2024 XA1の予測落下位置。緑色は地球と宇宙との境界、黄色から赤色は地表における、それぞれ落下可能性の高い位置を表します。(Credit: ESA, SIO, NOAA, U.S. Navy, NGA & GEBCO)
【▲ 図4: 落下前に示された、2024 XA1の予測落下位置。緑色は地球と宇宙との境界、黄色から赤色は地表における、それぞれ落下可能性の高い位置を表します。(Credit: ESA, SIO, NOAA, U.S. Navy, NGA & GEBCO)】

予測計算では、発見から約10時間後の16時15分(±5分)に、ロシアのサハ共和国にあるオリョークミンスク付近(北緯60.5度/東経119度)に落下することが予測されました。そしてC0WECP5は、予測時間の範囲内である16時14分(現地時間4日1時14分)に、相対速度15.5km/s、対地角度58度にて大気圏に突入しました。十分な時間的余裕をもって予測されたため、火球の写真や映像がSNSなどに多数投稿されました。そして大気圏突入から約2時間後の18時15分、小惑星センターの小惑星電子回報(MPEC)にて、C0WECP5に小惑星としての正式な仮符号「2024 XA1」が付与されたことが公表されました。

2024 XA1のように、落下前に観測することに成功した小惑星は観測史上11例目です。また、2024 XA1の観測は、前回の事例である2024 UQから42日後のことであり、これまでで最短の間隔となります。また、2024年中では4例目となる落下前に発見された小惑星であり、同じ年中に4例目が記録されたのは史上初めてのことです。

2024 XA1の推定直径は約70cmとかなり小粒です。岩石の組成にもよりますが、燃え尽きずに残った破片があるかもしれません。推定落下地点は陸地であるため、もし破片が見つかれば隕石として登録されます。過去には推定直径44cm(※4)の「2024 BX1」が「リベック隕石」として見つかっている事例もあります。

※4…発見当初の2024 BX1の推定直径は約1mでしたが、発見された隕石から、2024 BX1は標準的な小惑星より明るい色をしていることが判明したため、より小さな直径が推定されることとなりました。

なお、2024 XA1の発見前に見つかった、地球に極端に接近した小惑星「2024 XA」は、偶然似た仮符号が振られただけの無関係の天体です。ただし後述する通り、地球に接近する小惑星の観測事例は増え続けています。偶然には違いないものの、多数の観測事例があれば偶然が起こる確率は上がっていると言えるでしょう。

この種の話題のニュースバリューが無くなるのは良い傾向?

図5: 事前に落下が予測された小惑星の観測事例(仮符号が付与された物のみ)。2024 XA1は11例目であり、2024年では4例目、そして前回から42日後の観測事例です。(タップまたはクリックで拡大 / Credit: 彩恵りり)
【▲ 図5: 事前に落下が予測された小惑星の観測事例(仮符号が付与された物のみ)。2024 XA1は11例目であり、2024年では4例目、そして前回から42日後の観測事例です。(タップまたはクリックで拡大 / Credit: 彩恵りり)】

2024 XA1とほぼ同じ、直径1m程度の小惑星は2週間に1個程度の割合で落下していると推定されています。2024年中に観測された落下前の小惑星のうち、2024 RW1、2024 UQ、2024 XA1の発見はそれぞれ約6週間の間隔を挟んでいます。これまでは数か月に1個程度の発見であることを考慮すれば、見逃した小惑星が段々と減っていることを意味します。

直径1m程度の小惑星は文字通り無数にあり、2024 XA1は落下前に発見されたという点以外に際立った特徴はありませんし、地上に落下してごく小さな破片をもたらす以上の “被害” も考えられません。発見頻度の増大により、(筆者としては残念なことに)この種の話題はニュースバリューが無くなっています。日本語のニュースに関して言えば、日本列島で観測できる可能性がある場合を除けば、話題に上ることすらなくなるかもしれません。

ただしこのことは、本当に見逃してはならない、災害をもたらす巨大な小惑星の落下を事前に予測できる可能性が着実に上がっており、災害になり得る “本番” に備えるための訓練であるとも言えます。ニュースバリューが無くなるほど観測頻度が増えることは、小さくて暗い天体でも観測できる技術力、ノイズのような無関係の物体を排除するアルゴリズム、軌道を正確に予測する計算能力など、天文学者を始めとした無数の人々の努力に裏打ちされていることも忘れてはなりません。

 

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文/彩恵りり 編集/sorae編集部

#小惑星 #2024XA1