約84%の隕石の起源を新たに特定 これまでの約6%から大幅に増加

宇宙から地球へと落下する「隕石」は、宇宙に出なくても宇宙のことを知ることができる数少ない手掛かりです。しかし、隕石の大半はその起源が特定されておらず、起源が正確に特定されているのはこれまでわずか約6%でした。

CNRS(フランス国立科学研究センター)、ESO(ヨーロッパ南天天文台)、カレル大学の3人の研究者が率いる国際研究チームは、小惑星同士が衝突した後に発生する破片の飛び散り方をコンピューターモデルで探索し、これまでに調べられている隕石の年代との比較を行いました。また、望遠鏡によって観測された、無数の小惑星の表面組成や公転軌道などの観測データとの比較も行いました。

図1: Lコンドライトの代表的な隕石である「NWA 869」の外観と断面。
【▲ 図1: Lコンドライトの代表的な隕石である「NWA 869」の外観と断面。(Credit: H. Raab)】

その結果、隕石全体の約80%を占める「普通コンドライト」と、約4%を占める「炭素質コンドライト」について、起源となる小惑星の族(ファミリー)を特定することに成功しました。特に普通コンドライトのほとんど、隕石全体でも約70%を占める「Hコンドライト」と「Lコンドライト」は、ごく最近に起きたたった3回の小惑星同士の衝突で飛び散った破片に由来することが分かりました。

今回の研究により、既に知られているものも含め、全体の約90%の隕石の起源が特定されたことになります。これまではわずか約6%であったことを考えれば大幅な進歩です。また、普通コンドライトや炭素質コンドライトは、太陽系誕生時の物質を含んでいることから良く研究されていますが、今回の研究は、隕石のサンプルには大きなバイアスがかかっていることを示しています。宇宙には無数の小惑星があることを考えると、小惑星の接近探査や直接サンプルを持ち帰るサンプルリターンは、サンプルの偏りを無くすために重要な科学的調査であると言えます。

隕石の起源はわずか6%しか分かっていなかった

地球には毎日のように宇宙から天体が降り注ぎ、10個から50個ほどは「隕石」として地表に到達していると見られています。多くの隕石は、小惑星の一部が砕けて飛び散った破片に由来すると見られているため、隕石の破片の元となった母天体は、その大半が今でも宇宙にあると考えられています。

特に、隕石全体の79.4%(※1)を占める「普通コンドライト」と、4.4%を占める「炭素質コンドライト」は、約45億6000万年前の太陽系誕生時に母天体となる小惑星が形成された後、ほとんど変質していないと考えられています。地球で見つかる最古の物質よりも年代が古い物質も見つかっていることから、隕石は太陽系誕生時の情報を持つタイムカプセルと見ることができます。従って、隕石がどこからやってきたのかを知ることは、隕石というサンプルの情報にどの程度のバイアスがかかっているのかを知る上で重要です。

しかし、長年の研究にも関わらず、隕石の起源の特定作業は難航していました。起源と思われる小惑星は、火星と木星の間にある小惑星帯に位置すると考えられているため、小惑星探査機や望遠鏡で得られた観測データだけで絞り込みを行うのが難しかったからです。

このため、これまで起源が特定された隕石は「月」に由来する月隕石、「火星」に由来する火星隕石、および4番小惑星「ベスタ」に由来するHED隕石(※2)だけでした。これらはいずれも、熱や圧力による大きな変質を受けた隕石である「エイコンドライト(アコンドライト)」であり、太陽系誕生時の初期情報は消去されています。また、これらは比較的珍しい隕石であり、全てを足し合わせても隕石全体の6.0%(※3)を占めるに過ぎませんでした。

起源特定のシミュレーションを実行

CNRSのPierre Vernazza氏、ESOのMichaël Marsset氏、カレル大学のMiroslav Brož氏が主導する国際研究チームは今回、Nature誌に2本、Astronomy & Astrophysics誌に1本と、合計3本にまたがる論文を投稿しました。この3本の論文では、隕石全体の83.8%を占める、普通コンドライトと炭素質コンドライトの起源について説明しています。

研究で注目されたのは、隕石に刻まれた衝撃の年代です。小惑星は高エネルギーの宇宙線を受け、それ以外の作用では生じにくい珍しい放射性同位体を生じます。また、岩石を構成する元素も、崩壊して放射性同位体を生じます。放射性同位体は年代を測定するのに使えますが、小惑星同士の衝突のような熱が加わると蒸発してしまい、時計がリセットされてしまうものもあります。また、小惑星同士の衝突は無数の破片を生じ、大量の隕石を地球にもたらすため、この方法を使えば、隕石の起源となった小惑星の衝突年代が分かります。

また、地球の近くを通過する「地球近傍小惑星」や、落下が目撃された隕石については、物質の組成が分かるとともに、公転軌道も判明します。公転軌道を長期にわたってシミュレーションすれば、ここからも隕石の起源が推測できます。

これに加え、今回の研究では追加のシミュレーション研究も行いました。小惑星同士の衝突で生じた破片は、太陽放射の影響によって(※4)元の軌道を外れ、地球への衝突コースを辿りやすいと考えられます。地球で見つかる隕石の落下年代は、古くても数十万年や数百万年前という単位であることを踏まえると、小惑星同士の衝突があまりにも昔過ぎる場合、隕石の落下年代よりはるか昔に破片が枯渇してしまいます。

一方で、太陽放射の影響を無視できるほどの大きな破片は、公転軌道が大きく変化しないため、似たような公転軌道を持つ複数の小惑星のグループを作ります。これを小惑星の「族(ファミリー)」と呼びます。

今回の研究では、隕石の起源と考えられる小惑星族の候補が、衝突による分裂をいつ頃経験したのかを、小惑星や隕石から得られた公転軌道を元にシミュレーションしました。そしてこの衝突によって生じた破片を元に、地球に届く隕石の量を推測し、現在見つかっている量や割合と矛盾しないかどうかを調べました。

大半の隕石の起源を特定!

研究の結果、いくつもの重大なことがわかりました。まず、小惑星同士が衝突して生じた小さな破片は、長くても数千万年で枯渇してしまうことが分かりました。現在見つかっている、数百万年以内に落下した隕石を説明するには、小惑星同士の衝突が長くても数千万年前に起きる必要があります。

今回の研究でまず焦点を当てたのは、隕石全体の79.4%を占める普通コンドライトです。普通コンドライトは、鉄の量が多い順に「Hコンドライト」「Lコンドライト」「LLコンドライト」に分かれます。LLコンドライトは隕石全体の8.2%しか占めませんが、Hコンドライトは33.4%、Lコンドライトは37.8%と、これだけで隕石全体の71.2%を占めます。

図2: コロニス族に属する小惑星の1つである243番小惑星「イダ」とその衛星「ダクティル」。
【▲ 図2: コロニス族に属する小惑星の1つである243番小惑星「イダ」とその衛星「ダクティル」。(Credit: NASA & JPL)】

最初のHコンドライトは、衝突年代が500万~800万年前と、やや開きがあることが知られていました。今回の研究で、Hコンドライトは580万年前に衝突を経験した「カリン族」と、760万年前に衝突を経験した「コロニス2族」の2つのどちらかに分類されることが分かりました。年代に開きがあるのは、2つの族で衝突年代が違うためであると考えると説明が付きます。また、カリン族とコロニス2族はどちらもさらに大きなグループである「コロニス族」に属するため、組成が似ていることの説明になります。

次にLコンドライトは、4億7000万年前に大規模な衝突を経験し、4000万年前にもこれより小規模な衝突を経験していると考えられています。これに合致するのは6000個以上もの小惑星が属する最大級の小惑星族「マッサリア族」です。特に4億7000万年前という年代は重要です。地球は約4億6600万年前、大規模な天体衝突によって気候が寒冷化したと見られており、地層からはLコンドライトに関連する物質が見つかっているからです。また4000万年前という年代も、大量のLコンドライトを現代の地球に送り込んでいることと矛盾しません。

また今回の研究では、地球近傍小惑星の軌道解析と隕石の量から、LLコンドライトは1500万年前に衝突を経験した弱い証拠のある「フローラ族」を起源とすると推定しています。

そして今回の研究では、上記と同じ研究手法を、隕石全体の4.4%を占める炭素質コンドライトにも当てはめました。その結果、炭素質コンドライトのさらに細かい分類であるCMコンドライトとCRコンドライトは「ヴェリタス族」、CIコンドライトは「ポラナ族」、COコンドライト、CVコンドライト、CKコンドライトは「エオス族」を、それぞれ主な起源とすると推定されることが分かりました。

特にCMコンドライトの起源とみられるヴェリタス族は、830万年前に経験した衝突で大量の破片を生じたと考えられています。その豊富さと衝突年代の新しさから、計算上は炭素コンドライトは普通コンドライトと同じくらいの数だけ地球に落下しているはずです。この矛盾は、炭素質コンドライトが普通コンドライトと比べて脆いため、大気圏突入に耐え切れずバラバラになってしまうことが関係していると研究チームは考えています。もしその場合、隕石そのものは滅多に見つからないものの、海底に堆積している隕石由来の塵の量から間接的に量を推定できるはずです。これはこれからの検証を待たなければならないでしょう。

隕石サンプルの著しい偏りを証明

今回の研究では、普通コンドライトと炭素質コンドライト、合わせて83.8%の隕石の起源を特定しました。プレスリリースで使用された「特定した(identified)」という表現は、研究内容の確かさに関する自信のほどが伺えます。この研究以前に知られていた隕石も合わせれば、私たちは89.8%の隕石の起源を特定したことになります。

特に、隕石全体の71.2%を占めるHコンドライトとLコンドライトは、ごく最近に起きたたった3回の小惑星同士の衝突によって生じた破片に由来することは驚きです。Lコンドライトの起源と特定されたマッサリア族は、隕石全体の37.8%を占める、最も大きな隕石のグループでもあることになります。

今回の特定は、隕石を通じた研究を行う上では問題となるかもしれません。先述した通り、普通コンドライトは、太陽系誕生時の情報を持つタイムカプセルのような扱いです。しかし、実に約7割の隕石が、たった3つの小惑星族に由来するならば、そのサンプルには著しい偏りがあると考えることができます。宇宙には多種多様な性質を持つ無数の小惑星があることを考えれば、この偏りは無視できません。

隕石は、宇宙に行くというコストをかけずとも、宇宙を知る手がかりを持てる貴重なサンプルです。しかしサンプル自体に偏りがあるとするならば、その偏りを是正するために宇宙へと飛び出すことも考えなければならないかもしれません。この研究は間接的に、小惑星探査機で小惑星のサンプルを持ち帰るサンプルリターン計画を後押しするかもしれません。

小惑星からのサンプルリターンは、これまでにJAXA(宇宙航空研究開発機構)の「はやぶさ」が訪れた「イトカワ」と「はやぶさ2」が訪れた「リュウグウ」、およびNASA(アメリカ航空宇宙局)の「OSIRIS-REx(オサイリス・レックス)」が訪れた「ベンヌ(ベヌー)」のみが成功しています。イトカワはLLコンドライト、リュウグウとベンヌはCIコンドライトに類似していますが、これらはいずれも珍しいタイプの小惑星です。

これまで、サンプルリターンを行う意義は、隕石では避けることが困難な地球の物質による汚染を回避することが主に語られていました。しかし今後は、サンプルの偏りを是正するためという追加の説明が加わるかもしれません。

今回の研究により、起源が未知な隕石は10.2%となりました。研究チームはこの残りの起源についても、5000万年以内に起きた比較的新しい小惑星同士の衝突を焦点に探索を行う予定です。

注釈

※1…論文中では、普通コンドライトの3つのグループの内訳を合計すると79.4%となりますが、直接の合計値としては80.9%という別の数値が示されています。解説では内訳に触れるため、前者の数値を採用しました。

※2…HED隕石の名は、このグループのさらに細かい分類である「ホワルダイト」「ユークライト」「ダイオジェナイト」の頭文字に因みます。

※3…今回の研究の論文では、HED隕石の割合は6.0%とされていますが、月隕石と火星隕石の割合は書かれていません。プレスリリースでは月・火星・ベスタの内訳を示さないまま約6%とのみ書かれています。ただし月隕石も火星隕石も、隕石全体の1%よりかなり少ない割合しか占めておらず、ほぼ無視できる値なため、本文ではこのような表現とさせていただきました。

※4…特に、太陽放射を受けて熱放射をする際に生じる力で軌道がずれる「ヤルコフスキー効果」は、小さな破片の軌道を短期間で変化させます。

 

Source

  • Manon Landurant & Pierre Vernazza. “L’origine de la plupart des météorites enfin révélée”. (Centre national de la recherche scientifique)
  • M. Brož, et al. “Young asteroid families as the primary source of meteorites”. (Nature)
  • M. Marsset, et al. “The Massalia asteroid family as the origin of ordinary L chondrites”. (Nature)
  • M. Brož, et al. “Source regions of carbonaceous meteorites and near-Earth objects”. (Astronomy & Astrophysics)

文/彩恵りり 編集/sorae編集部