小惑星「2024 UQ」(A11dc6D)を落下前に観測 前回の同様事例からわずか1か月半後

地球へと落下する天体が、落下前に宇宙空間で「小惑星」として観測されることはほとんどありません。しかし観測技術の向上などを理由として、落下前に観測される小惑星の事例が報告される頻度は段々と多くなっています。

2024年10月22日(※1)、小惑星「2024 UQ」(暫定名A11dc6D)が地球に落下しました。落下前に観測された小惑星は観測史上10例目となります(※2)。残念ながら今回は様々な悪条件が重なり、落下を目撃した人はいないかもしれません。しかし落下前に発見された小惑星は、2024年では「2024 BX1」と「2024 RW1」に次いで3例目であり、前回からわずか1か月半で次の観測事例が報告されたことになります。これはこれまでで最短の間隔となります。

※1…本記事では日時を世界時で記述します。表記された時間を9時間進めると日本時間になります。

※2…観測データが不十分であるために小惑星として正式な登録がされていない「A106fgF」と「DT19E01」、落下の約10分前に撮影されていたものの事後解析によって判明した「CNEOS 20200918」の3事例を除きます。

落下前の小惑星を発見する頻度は増加傾向

図1: 地球外から落下する天体は、その発見状況によって分類が変化します。上空100kmより上で見つかれば小惑星、大気圏落下中の発光は流星や火球、地上で破片が見つかれば隕石と呼ばれます。
【▲ 図1: 地球外から落下する天体は、その発見状況によって分類が変化します。上空100kmより上で見つかれば小惑星、大気圏落下中の発光は流星や火球、地上で破片が見つかれば隕石と呼ばれます。(Credit: 島宮七月)】

太陽系には大小さまざまな天体や塵が無数に存在し、その一部は地球へと落下します。小さなものは「流星」として毎日数百万個も降り注ぎますが、特に大きく明るい流星は「火球」として観測され、一部の破片は地表や海へと落下していると考えられています。天体の破片が採集されれば、それは「隕石」と呼ばれます。

地表に隕石を残すほどの大きさの天体が落下する頻度は1日あたり10~50個であると推定されています。もしこのような天体が、大気圏突入前の宇宙空間(上空100kmより上)で発見されていれば、それは「小惑星」として分類されます。現在の観測体制で見つけることができる小惑星の大きさの下限は約1mであり、この大きさの小惑星は約2週間に1回程度落下していると推定されています。

2週間に1回という頻度にも関わらず、天体の落下が事前に予測されること、つまり事前に宇宙空間で小惑星として発見されることはほとんどありません。これは落下の24時間以内にならないと観測できるほどの明るさにならないこと、夜間以外には観測できないこと、軌道予測が難しいことなどが関係しています。

それでも、観測技術が向上したこと、軌道シミュレーションが高速化したこと、情報を速やかに共有できるようになったことなどを理由として、発見事例は増加しています。初めての観測事例は世界時2008年10月7日に落下した「2008 TC3」であり、しばらくの間は数年に1回の出来事でしたが、最近では数か月に1度の頻度となっています。前回は2024年9月4日に発見・落下した「2024 RW1」の事例でした。

様々な悪条件が重なった10例目「2024 UQ」

2024年10月22日、地球近傍天体を発見するシステムである「小惑星地球衝突最終警報システム(ATLAS)」が新しい天体、暫定名「A11dc6D」を発見しました。A11dc6Dは、ジェット推進研究所(JPL)の地球近傍天体危険評価システム「スカウト(Scout)」と欧州宇宙機関(ESA)の衝突危険警告システム「ミーアキャット(Meerkat)」によって、落下する可能性が高いことが予測されました。

ただし今回は様々な悪条件が重なっており、落下前に観測することに成功はしたものの、落下を事前に予測するという目標の達成には事実上失敗したと言えます。なぜなら、A11dc6Dの発見は落下のわずか1時間46分前であり、落下予測を行うシステムに情報が届く前に実際に落下していたためです。このため上述した落下予測も、実物の落下後に情報が発信されました。

理由としては、A11dc6Dが約1mとあまりに小さく、暗いこともありますが、発見したATLASの技術的な理由もあります。ATLASは4つの望遠鏡の観測情報を組み合わせて小惑星を発見していますが、観測する夜空の領域は望遠鏡ごとに異なっています。発見時のA11dc6Dはちょうど観測領域の境界部に位置しており、観測自体が通常よりも遅くなってしまいました。総合的には、ATLASによる観測回数はわずか6回に留まりました。

また、情報を受けて記録を見直すと、別の地球近傍天体発見システムである「カタリナ・スカイサーベイ」にもA11dc6Dが撮影されていることも分かりました。ただし、ATLASより前に撮影できていたものの、カタリナ・スカイサーベイによる観測回数はわずか3回であり、これだけで詳細な予測を行うことができません。結局のところカタリナ・スカイサーベイによる撮影報告は、落下後の事後報告となってしまいました。

とはいえ、ATLASとカタリナ・スカイサーベイの観測情報があったことにより、小惑星として認定される重要な要素である公転軌道の決定ができました。小惑星を管轄する「小惑星センター」が、A11dc6Dが正式に小惑星として認められたことを示す仮符号「2024 UQ」を付与したことを、小惑星電子回報(MPEC)で公表したのは、落下から1日以上経った23日16時56分になってからでした。

とはいえ、落下の事前予測の失敗という評価は、2024 UQと同じ大きさの小惑星が2週間に1個落下していると推定されている背景も考慮しないといけません。それほどの頻度で発見報告がされていないということは、そもそも大半は観測自体がされていないことを意味します。落下の事前予測に失敗したと言っても、観測ができたこと自体に意義があると言えます。

図2: 事前に落下が予測された小惑星の観測事例(仮符号が付与された物のみ)。2024 UQは10例目であり、2024年では3例目、そして前回から約1か月半後の観測事例です。
【▲ 図2: 事前に落下が予測された小惑星の観測事例(仮符号が付与された物のみ)。2024 UQは10例目であり、2024年では3例目、そして前回から約1か月半後の観測事例です。(タップまたはクリックで拡大 / Credit: 彩恵りり)】

2024 UQのように、落下前に観測することに成功した小惑星は観測史上10例目です。また、2024 UQの観測は、前回の事例である2024 RW1から約1か月半後のことでした。これはこれまでで最短の間隔となります。また、2024年中では3例目となる落下前に発見された小惑星であり、同じ年中に3例目が記録されたのは史上初めてです。

この話題のニュースバリューが無くなるのは良い傾向?

2024 UQの落下場所は北緯30.0度・西経136.0度、上空38.2kmであると推定されており、これは太平洋の東側、アメリカのハワイ諸島とカリフォルニア州の間に当たります。最寄りの陸地から1000km以上も離れた遠洋で火球を目撃した人がいた可能性はかなり低いと思われます。

図3: 2024 UQが落下したと推定される地点。最寄りの陸地から1000km以上も離れた海上であると推定されます。
【▲ 図3: 2024 UQが落下したと推定される地点。最寄りの陸地から1000km以上も離れた海上であると推定されます。(Credit: Tony Dunn)】

ただし幸いにして、人間ではない “目撃者” はいました。ESAのMarco Micheli氏は、アメリカ海洋大気庁(NOAA)が運用する気象衛星の1つ「GOES-West」の撮影画像から、東太平洋上空の発光を発見しました。発光の位置と撮影日時は、2024 UQの推定落下場所および時刻と一致しており、2024 UQによる火球である可能性が高いと見られています。

図4: 気象衛星GOES-Westが撮影した画像には、2024 UQによる火球と推定される発光が撮影されていました。
【▲ 図4: 気象衛星GOES-Westが撮影した画像には、2024 UQによる火球と推定される発光が撮影されていました。(Credit: NOAA, GOES-West(RAMMB) & CIRA (The Watchers))】

直径1mの小惑星は文字通り無数にあり、2024 UQは落下前に発見されたという点以外に際立った特徴はありませんし、地上に落下してごく小さな破片をもたらす以上の “被害” も考えられません。発見頻度の増大は、見逃しが減っていることを意味しており、このような観測事例は(筆者としては残念なことに)どんどんニュースバリューが無くなっていくでしょう。ただしこのことは、本当に見逃してはならない、災害をもたらす巨大な小惑星の落下を事前に予測できる可能性が着実に上がってきたことを意味しています。

 

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文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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最終更新日:2024/11/14