世界では毎日数百万の流星があり、そのうち10個から50個は隕石として地表や海に到達していると推定されています。しかし、隕石の落下が事前に予測されることはほとんどありません。

天体は小さいほど太陽系における総数が増え、地球に落下する確率は高くなりますが、そうした小さな天体を宇宙空間で観測することは困難を極めます。小さな天体は見た目の明るさが極めて暗く、観測自体が困難です。また、観測できる頃には地球にかなり接近しているため、見た目の移動速度が急激に変化し、複数の観測記録を1つの天体の記録として結びつけることも難しくなります。そして太陽が昇る日中はもちろん、夕方や早朝の薄明かりも、小さな天体の観測では妨げとなります。

例えば、10年前の2013年2月15日にロシアのチェリャビンスク州に落下した隕石は、大気圏突入前の大きさが17mであったと推定されていますが、落下前に観測はされていませんでした。このサイズの天体はたとえ地球に接近しても、大半は観測に掛からず見逃されたり、そのまま衝突したりしていると考えられています。

このような困難な状況の中でも、地球に衝突する前に天体が観測された事例は複数あります。これらの天体は定義上「小惑星」であるため、識別するために小惑星としての仮符号が与えられます。地球衝突前に観測された最初の事例は、2008年10月7日にスーダンのヌビア砂漠に落下した小惑星「2008 TC3」でした。

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【▲ 図1: 2023 CX1の最初の観測記録。画像中央やや下から上に向かって、1つの点が段々明るくなりながら移動していることが分かる。 (Image Credit: Krisztián Sárneczky) 】
【▲ 図1: 2023 CX1の最初の観測記録。画像中央やや下から上に向かって、1つの点が段々明るくなりながら移動していることが分かる(Credit: Krisztián Sárneczky)】

2023 CX1」は、このような極めて珍しい小惑星の最新の観測例です。この小惑星は協定世界時2023年2月12日20時12分に、ハンガリーのピスケーシュテテー観測所でKrisztián Sárneczky氏によって初めて観測されました。発見時点での地球から2023 CX1までの距離はすでに地球と月の平均距離の約6割を切る23万5000kmとなっており、また小惑星は観測者に対してほぼまっすぐに進んでいたため、見た目の動きがほとんどありませんでした。

しかし、それから約30分間の観測で軌道計算に必要なデータが得られたことで、発見から約6時間半後には地球に落下する軌道に乗っていることが判明しました。この時点ではまだ小惑星として正式に登録される前の段階であり、小惑星センターが付与する仮符号も付けられていませんでした。そのため、この天体は小惑星センターのNEOPC (Near-Earth Object Confirmation Page) の登録名「Sar2667」の名前で呼ばれ、ESA (欧州宇宙機関) のTwitter公式アカウントがこの名称で一般に観測を呼びかけるなどの動きがありました。

【▲ 図2: 2023 CX1の落下地点の事前予測。イギリス海峡付近に2時35分から3時27分までの間に落下すると予測された。実際の落下時刻は2時59分21秒と予想の範囲内である。 (Image Credit: ESA / PDO) 】
【▲ 図2: 2023 CX1の落下地点の事前予測。イギリス海峡付近に2時35分から3時27分までの間に落下すると予測された。実際の落下時刻は2時59分21秒と予想の範囲内である(Credit: ESA / PDO)】

クロアチアのヴィシュニャン天文台は同日21時頃から行った観測でSárneczky氏の発見をフォローアップし、実際に地球に衝突することが確認されました。その後も約20の天文台が落下のわずか13分前となる翌2月13日2時46分まで観測を行いました。

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【▲ 図3: フランスのパリにて30秒露光で撮影された、2023 CX1の落下によって生じた火球。 (Image Credit: Wokege/Wikimedia Commons) 】
【▲ 図3: フランスのパリにて30秒露光で撮影された、2023 CX1の落下によって生じた火球(Credit: Wokege/Wikimedia Commons)】

そしてSar2667は、事前に予測された範囲内である2月13日2時59分21秒にイギリス海峡へ落下し、沿岸のフランスやイギリスをはじめ、ベルギー、オランダ、スペインで多数の人々に目撃されました。国際流星機構に観測が報告された件数だけでも60にもなります。Sar2667に正式な小惑星の仮符号である2023 CX1が付与されたのは、落下後の2月13日4時13分のことでした。

2023 CX1は直径わずか1mの小惑星であると推定されており、観測された最も小さな天体の1つとなりました。また、2023 CX1は、落下前に宇宙空間で観測された史上7番目の小惑星でもあります。天文台の多いヨーロッパに落下したこともあって、発見から落下までの数時間で264回もの観測が報告されました。これは過去の事例と比較しても極めて多い部類となります。数多くの観測によって落下前の正確な軌道が割り出されたことで、2023 CX1は地球と火星の公転軌道を横切るアポロ群の小惑星であること、少なくとも1900年代から今回の衝突までの間に地球や火星の約400万km以内 (※) には接近していない可能性が高いことも判明しました。

※…この距離は地球と月の平均距離の10倍である。一般にこの距離以内に入るのが小惑星や彗星の接近遭遇と見なされ、天文学的には非常に小さな距離であると言える。

また、2023 CX1の予測されたサイズから、一部が地表に到達するという事前の予想通り、落下後約半日で隕石が見つかりました。落下が予測された小惑星のうち、地表で隕石が見つかったのは、2008 TC3=アルマハータ・シッタ隕石と、2018 LA=モトピ・パン隕石に次いで3例目です。

【▲ 図4: 落下が事前に観測されたことのある小惑星の一覧。この表には、正式に小惑星として登録されている7例に加え、小惑星として登録されていない3例が含まれている。 (Image Credit: 彩恵りり) 】
【▲ 図4: 落下が事前に観測されたことのある小惑星の一覧。この表には、正式に小惑星として登録されている7例に加え、小惑星として登録されていない3例が含まれている(Credit: 彩恵りり)】
【▲ 図5: 地表に到達した2023 CX1の破片の1つ。 (Image Credit: FRIPON/Vigie-Ciel) 】
【▲ 図5: 地表に到達した2023 CX1の破片の1つ(Credit: FRIPON/Vigie-Ciel)】

2008 TC3以来、落下前の小惑星の観測は数年に1回程度の珍しいイベントでしたが、前回は2022年11月19日の2022 WJ1、前々回は2022年3月11日の2022 EB5と相次いでいます。このことは、小惑星の観測体制が年々充実していることを示しています。今後も落下前の小惑星の観測事例は増えていくことでしょう。

 

Source

文/彩恵りり

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