小惑星「2024 RW1」の落下予測に成功! 事前予測は史上9例目、太平洋側では初

世界では1日に数百万個の流星が地球へと降り注ぎ、そのうち10個から50個は隕石として地表や海に到達していると推定されています。しかし、天体の落下が事前に予測されること、つまり落下前の宇宙空間で「小惑星」として発見されることはほとんどありません。

2024年9月(※1)、そのような珍しい事例が報告されました。推定直径約1mの小惑星「2024 RW1」(暫定名CAQTDL2)は、9月4日の発見直後に落下の可能性が高いことが示され、約11時間後の9月5日1時39分に、予測された地点であるフィリピン海へと落下しました。

小惑星が地球大気圏に突入する前に宇宙空間で発見され、衝突することが予測されたのは、観測史上9例目となります(※2)。また、太平洋側、及び東アジア地域への落下を観測したのは観測史上初です。今回は石垣島天文台で観測に成功しましたが、日本の天文台が事前に予測された小惑星落下の観測に成功したのも史上初です。

※1…以下、特に記載がない限りは日本時間で日時を表します。

※2…観測データが不十分であるために小惑星として正式な登録がされていない「A106fgF」と「DT19E01」、落下の約10分前に撮影されていたものの事後解析によって判明した「CNEOS 20200918」の3事例を除きます。

図1: フィリピン、ルソン島、アパヤオ州で撮影された2024 RW1の落下。
【▲ 図1: フィリピン、ルソン島、アパヤオ州で撮影された2024 RW1の落下。真夜中0時過ぎ、街明かりもない場所にも関わらず、空の雲が視認できるほど明るくなりました。(Credit: Jomar M.)】

■落下前の小惑星を見つけるのは困難

太陽系には大小さまざまな天体や塵が無数に存在し、その一部は地球へと落下します。小さなものは「流星」として毎日数百万個も降り注ぎますが、特に大きく明るい流星は「火球」として観測され、一部の破片は地表や海へと落下していると考えられています。天体の破片が採集されれば、それは「隕石」と呼ばれます。

地表に隕石を残すほどの大きさの天体が落下する頻度は1日10~50個であると推定されています。もしこのような天体が、大気圏突入前の宇宙空間で発見されていれば、それは「小惑星」と呼ばれます。現在の観測体制で見つけることができる小惑星の大きさの下限は約1mであり、これは約2週間に1回程度落下していると推定されています。

しかし、2週間に1回という頻度にも関わらず、天体の落下が事前に予測されること、つまり事前に宇宙空間で小惑星として発見される事例はほとんどありません。これは観測の難しさが関係しています。地球で小惑星を発見するには、大体視等級にして20等級が必要です。しかし直径数mの小惑星がこの視等級に達するのは、条件が良くても衝突の24時間前を切っています。

このような小惑星を地球から見ると、正面衝突の形となるためにほとんど動いて見えません。小惑星の見た目の位置の変化は、小惑星の公転軌道、つまり地球に衝突するかもしれないことを判断する重要な情報となりますが、この変化が分かりづらければ見逃しの素となります。しかも小惑星の落下は昼夜関係なく起こりますが、昼間はもちろん、朝や夕方の薄明でも観測の邪魔となります。このためたまたま真夜中にそのような条件を満たした小惑星のみが、事前に落下を予測できるのです。

ただし、観測技術の向上に伴い、小惑星の落下が事前に予測できる頻度も段々と増しています。初めての観測事例は世界時2008年10月7日に落下した「2008 TC3」の観測事例であり、その後しばらくは数年に1回のペースで同様の観測事例がありました。しかしその後は1年に1~2回観測するケースが4例連続しています。今回の落下以前の事例は、世界時2024年1月21日に落下した「2024 BX1」のケースです。

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■9例目となる「2024 RW1」はフィリピン海へと落下

図2: スペースフラックスネットワークで撮影された2024 RW1(中央の光点)
【▲ 図2: スペースフラックスネットワークで撮影された2024 RW1(中央の光点)。(Credit: E. Guido, M. Rocchetto, J. Ferguson & S. Dal Dosso)】

2024年9月4日14時43分(世界時4日5時43分)、アメリカ・アリゾナ州のサンタ・カタリーナ山地に設置された「レモン山天文台」で実施されている小惑星探査サーベイ「レモン山サーベイ」の観測データに基づき、同天文台のJacqueline B. Fazekas氏は新しい小惑星、暫定名「CAQTDL2」の発見を報告しました。

発見直後、小惑星センター(MPC)、ジェット推進研究所(JPL)の地球近傍天体危険評価システム「スカウト(Scout)」、欧州宇宙機関(ESA)の衝突危険警告システム「ミーアキャット(Meerkat)」が、CAQTDL2は地球への落下可能性がゼロではないことを示すフラグを立てました。

図3: 2024 RW1が地表部と上空100km(宇宙との境界)それぞれでどの位置に落下する可能性が高いかを表した図。
【▲ 図3: 2024 RW1が地表部と上空100km(宇宙との境界)それぞれでどの位置に落下する可能性が高いかを表した図。最も可能性の高い落下場所は濃いオレンジ色で示された細長い楕円のエリアであり、ルソン島東部のフィリピン海に当たります。(Credit: ESA)】

その後集まった、複数の天文台による観測結果を統合すると、CAQTDL2は9月5日1時46分頃(世界時4日16時46分頃)にフィリピン最大の島であるルソン島東部のフィリピン海に衝突する可能性がほぼ確実であることが分かりました。

CAQTDL2は、発見から約8時間後、衝突予想時刻の約3時間前に仮符号「2024 RW1」が与えられ、正式に小惑星として登録されました(※3)。そして発見から約11時間後の日本時間5日1時39分(フィリピン時間同日0時39分、世界時4日16時39分)、予想より数分早く、2024 RW1は約19.7km/sの速度で地球大気圏に突入し、予測通りフィリピン海へと落下しました

※3…2024 RW1の仮符号は「2024年9月1~15日に発見された47番目の小惑星」という意味です。

落下が予測された当時、フィリピン付近には猛烈な勢力の令和6年台風第11号(国際名ヤギ)が通過中であったため、火球の観測は困難ではないかとする予測もありました。しかし実際には幸いにして、明るい火球の落下と、閃光が夜空を照らす様子が多数の写真や動画で撮影されています。この時に放たれたエネルギーは、TNT火薬200トンの爆発に相当すると見積もられています。

■2024 RW1は珍しい要素を複数持つ小惑星落下事象

図4: 事前に落下が予測された小惑星の観測事例(仮符号が付与された物のみ)。2024 RW1は9例目。
【▲ 図4: 事前に落下が予測された小惑星の観測事例(仮符号が付与された物のみ)。2024 RW1は9例目となります。(Credit: 彩恵りり)】
図5: 石垣島天文台が撮影した2024 RW1の落下で生じた閃光(画像中央やや上の緑色の光)。日本の天文台が事前に予測された小惑星の落下を撮影したのはこれが初めて。
【▲ 図5: 石垣島天文台が撮影した2024 RW1の落下で生じた閃光(画像中央やや上の緑色の光)。日本の天文台が事前に予測された小惑星の落下を撮影したのはこれが初めてです。(Credit: 国立天文台)】

冒頭で言及した通り、小惑星の落下を事前に予測できるのは珍しいことであり、今回の2024 RW1の落下で9例目となります。またこれまでの全ての事例はアフリカ、ヨーロッパ、北アメリカ、及び大西洋に落下しています。2024 RW1はフィリピン海に落下しており、東アジア及び太平洋側での落下の予測は初の事例となります。また、落下場所がフィリピン海であったことから、日本の石垣島天文台でも落下の様子が撮影されました。日本の天文台が、事前に予測された小惑星の落下を撮影したのも今回が初めてです。

これに加え、2024 RW1は他の事例と比較しても珍しい可能性があります。落下前の2024 RW1の公転軌道は、太陽に最も近づく時には金星の公転軌道付近(約1億1000万km)、最も遠ざかる時には木星の公転軌道よりやや内側(約6億4000万km)であったと推定されます。このような大きな楕円軌道は、衝突が事前に予測された小惑星の中では、今回を含め全9例中3例しかなく、比較的珍しいものです(※4)

※4…2024 RW1のような公転軌道を持つ小惑星は、他に「2019 MO」と「2022 EB5」の2例が該当します。

さらに、落下時の映像を見る限りでは、2024 RW1はすぐに明るさのピークを迎え、その後複数の破片に分かれた後、細く長く続く閃光を残したようです。これは大気圏突入後のかなり早い段階で分裂する、脆い岩石の特徴を表しています。

SETI協会及びアメリカ航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センターのPeter Jenniskens氏は、2024 RW1が脆い特徴を示していること、公転周期が約3.97年と木星のほぼ3分の1であることから、2024 RW1は炭素に富むC型小惑星であり、最も近い成分はマーチソン隕石のようなCM2コンドライトではないかと推定しました。炭素に富む隕石は珍しい存在であることから、そのような性質を持つ2024 RW1の落下はかなり珍しいものです。

ただし残念ながら、落下場所はフィリピン海である可能性がかなり高いと推定されます。仮に燃え尽きずに残った破片があったとしても、それを見つけることはできない可能性が高いでしょう。C型小惑星は太陽系初期の始原的な物質を含んでいるかもしれませんので、この点では少し残念と言えます。

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■惑星防衛の観点において重要な観測事例

今回で9例目であることからも分かる通り、小惑星の落下の事前予測は現在でも珍しいケースです。しかしそれでも、段々とその間隔は短くなっています。これは観測技術の向上が最も大きな理由です。しかしこれに加え、計算能力や精度の向上で落下の予測を素早く立てられるようになったことや、その情報をインターネットを通じて速やかに共有し、世界中の天文台で観測回数を積み重ねることができるようになったのも理由として挙げられます。

2024 RW1と同じくらいの、直径1mの小惑星が落下するのは2週間に1回程度であるという推定からすれば、まだまだ多くの小惑星の落下が見逃されていることになります。しかし、初の観測事例からもうすぐ15年となる現在、観測による落下予測の頻度は数年に1回から数ヶ月に1回となっており、確実に精度は向上しています。そのうち、個々の落下予測はこのような記事を書くほど珍しい出来事にはならなくなるでしょう。

図6: 小惑星の直径別の衝突頻度、落下が受ける影響、及び発見数と割合の推定値。
【▲ 図6: 小惑星の直径別の衝突頻度、落下が受ける影響、及び発見数と割合の推定値。直径10~100mは都市単位の災害となる恐れがある一方で、その大半が未発見であると推定されています。(Credit: ESA)】

とはいえ、ニュースバリューが無くなるほど衝突予測の頻度が高くなることは、「惑星防衛(プラネタリーディフェンス)」の観点からは重要です。例えば、直径が1kmを越える、衝突すれば文明の存続が危うくなるほどの災害をもたらす危険な小惑星の落下は、少なくとも今後1000年間はないことが、多数の小惑星の観測結果とシミュレーションにより予測されています。これとは逆に、今回のような直径数mの小惑星は、地表に小粒の隕石をもたらす以上の被害を生じませんので特に心配はいりません。

しかし、直径10~100mという中程度の大きさの小惑星は、地球の文明を滅ぼすほどの災害にはならないものの、 “当たり所が悪ければ” 都市単位での被害が生じる場合があります。2013年にロシアのチェリャビンスク州で発生した隕石災害は、有史最大のものとして知られていますが、これは直径約17mの小惑星によって引き起こされたと推定されています。このような出来事は100年に1回程度の頻度で起こるのではないかと見積もられています。

中程度の大きさの小惑星もかなり観測が難しい上に、衝突頻度自体が低いため、落下の事前予測の事例はありません。小さな小惑星の落下の事前予測が増え、観測ノウハウや予測の精度向上がなされれば、今後は都市に災害をもたらすような中程度の小惑星の落下も事前予測ができるようになるかもしれません。

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※本記事の内容は、記事執筆時点(2024年9月7日)の情報を元にしています。

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文/彩恵りり 編集/sorae編集部