三菱電機は2024年12月10日、新型宇宙ステーション補給機「HTV-X」1号機のサービスモジュールを報道関係者に公開しました。HTV-X 1号機のミッションは国際宇宙ステーション(ISS)への物資輸送やISS離脱後の技術実証を目的としており、2025年度に「H3」ロケットで打ち上げられる予定です。
HTV-Xとは
HTV-Xは2020年まで運用されていた宇宙ステーション補給機「HTV(こうのとり)」の後継機として開発された無人補給機で、主にISSへの物資輸送を行います。HTVが質量4トン・容積49立方mの貨物を搭載できたのに対し、HTV-Xでは質量5.82トン・容積78立方mと1.5倍ほどに向上しています。
ISSへの物資補給ミッションにおける係留期間は最長6か月間ですが、HTV-XはISS離脱後も最長1.5年間にわたって単体で飛行可能。物資補給を終えた後は技術実証や実験に対応する軌道上実証プラットフォームとしてのミッションを行えるように設計されており、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の担当者は「二刀流」と表現しています。
2025年度打ち上げ予定のHTV-X 1号機ではISSへの物資補給をはじめ、ISS離脱後には超小型衛星放出、展開型軽量パネルの挙動・構造特性計測および平面アンテナの通信実験、小型リフレクターを用いた衛星レーザー測距の実証実験が行われます。
機体の構造はHTVから大きく変化しました。外観が飲料缶にも例えられたHTVでは前方から順に「与圧部(ISS船内向けの貨物を搭載する部分)」「非与圧部(ISS船外向けの貨物を搭載する部分)」「電気モジュール」「推進モジュール」に分かれていて、28基の姿勢制御スラスターと4基のメインエンジン、それに太陽電池パネルが機体全体に分散配置されていました。
後継機のHTV-Xでは非与圧部が廃止され、電気モジュールと推進モジュールの機能を集約した「サービスモジュール」の一部として「曝露カーゴ搭載部」を機体前方に設置。与圧部を引き継いだ「与圧モジュール」は機体後方に配置されています。また、分散配置されていたスラスターと太陽電池はサービスモジュール本体に集中配置されており、技術的にはサービスモジュール単体でも飛行可能な設計に進化しています。
印象的なのは、羽ばたく鳥の翼のように傾いた状態で展開される2基の太陽電池パドルです。概念検討段階では垂直に展開される構想でしたが、HTV-Xの実機では展開後の太陽電池パドルに30度の傾き(キャント)が設けられています。
前述の通りHTV-XはISS離脱後も最長1.5年間の単独飛行が可能ですが、太陽光が入射する角度は季節に応じて変化します。垂直に展開される太陽電池パドルの場合、機体の上から太陽光が入射する時期であれば十分な電力を生み出しますが、横から入射する時期には発電効率が低下してしまいます。
一方、傾いて展開される太陽電池パドルの場合、機体の横から太陽光が入射する時期でも発電効率が低下しにくいというメリットがあります。地球を指向し続けながら大電力を必要とする技術実証を行う際などに、太陽光の入射角に依存せず電力を確保できるように工夫されているというわけです。
HTV-X 1号機のサービスモジュール本体を公開
今回公開されたのは、HTV-X 1号機のサービスモジュール本体(電気系搭載部と推進系搭載部)です。全長は3.0mで、HTV-Xの全長8.0mの半分以下ですが、ここには宇宙機としての機能が集約。与圧モジュールがトレーラーだとすれば、サービスモジュールはトレーラーを牽引するトラクター(トレーラーヘッド)と言えます。
まず目立つのは、赤いカバーが被せられたスラスター。HTV-Xでは合計24基のスラスターが6基ずつ4群に分けて搭載されています。太陽電池パドルは畳まれているので目立ちませんが、展開後の幅は18mにもなります。
正面に見える突起がある丸い構造物は、ISSのロボットアームで掴むためのグラップルフィクスチャ(把持ポイント)。HTV-XはHTVと同様にISSと相対速度を合わせるランデブーを行った後に、ISSのロボットアームを使って把持・結合される方法を採用しているため、グラップルフィクスチャが搭載されています。
また、ISSとの相対位置を知るためのランデブーセンサー、ISS・中継衛星・地上局と通信を行うための各種アンテナ、機体の姿勢を知るためのスタートラッカーといった重要な機器もサービスモジュールに搭載されています。
将来は月周回有人拠点「Gateway」や商業宇宙ステーションへの物資補給も?
三菱電機によると、HTV-Xは今回サービスモジュールが公開された1号機の他にも、2号機と3号機のサービスモジュールも製造と試験が進められています。
初飛行となる1号機に続いて注目されるのは2号機です。ISSは2030年で運用を終了する予定であるため、HTV-Xはアメリカ主導で建設が予定されている月周回有人拠点「Gateway(ゲートウェイ)」や、地球低軌道に建設される民間の商業宇宙ステーションへの物資補給事業に参画する可能性があります。こうした将来のミッションに備えて、HTV-X 2号機では曝露カーゴ搭載部にドッキング機構を取り付けて自動ドッキング技術の実証が行われる予定です。
また、将来宇宙ステーションの一部として活用できるような発展性を持たせるために、HTV-Xのサービスモジュールの中心には人間が通り抜けられるサイズの円筒構造が設けられています。現状は端が塞がれているものの、構造上は機体の中心軸に沿って前方から後方まで貫通した内部空間を確保することも可能です。
旧ソ連/ロシアでの事例ですが、冷戦時代に大型の宇宙船として開発された「TKS」と呼ばれる宇宙機から宇宙ステーション用のモジュールが派生し、「Mir(ミール)」宇宙ステーションで複数のモジュールが運用されたことがあります。現在のISSロシア区画を構成する基本機能モジュール「Zarya(ザーリャ)」や多目的実験モジュール「Nauka(ナウカ)」も、その系譜に連なります。
日本ではアメリカの商業宇宙ステーションに結合する日本モジュールの概念検討を行う事業者として、2023年にJAXAが三井物産を選定しました。この日本モジュールはISSの日本実験棟「きぼう」の後継機となるもので、HTV-Xをベースに開発することが検討されています。将来のHTV-Xは補給機や実証プラットフォームに留まらない活躍の場を得ることになるかもしれません。
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文・編集/sorae編集部
#HTV-X #新型宇宙ステーション補給機