こちらは「おとめ座(乙女座)」の方向約25億光年先のクエーサー「3C 273」です。どちらも「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」が観測したもので、上はかつて搭載されていた「広視野惑星カメラ2(WFPC2)」で1995年6月に、下は現在も稼働中の「宇宙望遠鏡撮像分光器(STIS)」で2022年9月にそれぞれ取得されました。
初めて確認された歴史的なクエーサーをハッブル宇宙望遠鏡が観測
クエーサー(quasar)とは、銀河中心部の狭い領域から強い電磁波を放射する活動銀河核(AGN)の一種のことで、活動銀河核のなかでも特に明るいタイプを指します。発見当初はその正体がわからず、恒星のように見えるが非常に遠くにある天体として「準恒星状天体」を意味する「quasi-stellar object」と名付けられ、これを縮めて「quasar」と呼ばれるようになりました。
活動銀河核の原動力は超大質量ブラックホール(超巨大ブラックホール)であり、ブラックホールに引き寄せられたガスが周回しながら落下していく過程でエネルギーが解放され高温になって、そこから様々な波長の電磁波が放射されることで活動銀河核として観測されている、と考えられています。3C 273の場合、中心には太陽9億個分に近い質量の超大質量ブラックホールがあるとみられています。
ハッブル宇宙望遠鏡を運用する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によると、3C 273は最初にクエーサーだと確認された天体(1963年)として、天文学の歴史にその名を刻んでいます。3C 273は一般向けの望遠鏡でも観測できる最も遠い天体であり、もしも数十光年まで近付くことができれば地球から見た太陽と同じくらい明るく見えるといいます。
STISによる3C 273の観測を行ったBin Renさん(コート・ダジュール天文台/コート・ダジュール大学)を筆頭とする研究チームは、観測データを分析した結果、ブラックホールから1万6000光年以内にあるフィラメント(ひも)状や塊状、それに謎めいたL字型の構造を発見しました。その一部はブラックホールに落下していく途中の衛星銀河の可能性もあるようです。
ハッブル宇宙望遠鏡のSTISには明るい天体の光を遮ってその周辺を観測しやすくするためのコロナグラフが備わっています。画像のクエーサー中心にある黒い星型がコロナグラフによって隠された部分です。この機能のおかげで、研究チームは強力なクエーサーの近くにある構造をこれまでよりも詳細に調べることができました。今後は「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」による赤外線での観測を通じてより多くの手掛かりが得られるかもしれないとRenさんはコメントしています。
冒頭の画像はSTScIやアメリカ航空宇宙局(NASA)から2024年12月5日付で公開されています。
- “天の川銀河の恒星” だと思われていた天体、実は史上最も明るいクエーサーだったと判明!(2024年3月8日)
- 19億光年先のクエーサーから噴き出すジェットの最深部を捉えることに成功 アルマ望遠鏡など(2022年11月30日)
Source
- STScI - NASA's Hubble Takes the Closest-Ever Look at a Quasar
- NASA - NASA's Hubble Takes the Closest-Ever Look at a Quasar
- Ren et al. - 3C 273 host galaxy with Hubble Space Telescope coronagraphy (Astronomy & Astrophysics)
文・編集/sorae編集部