【速報・更新】「イプシロンS」ロケット第2段が地上燃焼試験中に爆発
【▲ イプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中に発生した爆発直後の様子。2023年7月14日に能代ロケット実験場の実験場外見学場で撮影(Credit: JAXA)】

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の能代ロケット実験場では2023年7月14日午前、開発中の新型ロケット「イプシロンS」の第2段モータ(固体燃料ロケットエンジン)の燃焼試験が行われましたが、点火から57秒後に爆発が発生しました。人的被害は報告されていないものの、実験場内の建物などに物的被害が生じた模様です。JAXAは原因の調査を進め、イプシロンSの開発に反映していくとしています。【2023年7月14日10時初出・2023年7月17日11時更新】

【▲ イプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中に発生した爆発直後の様子。2023年7月14日に能代ロケット実験場の実験場外見学場で撮影(Credit: JAXA)】
【▲ イプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中に発生した爆発直後の様子。2023年7月14日に能代ロケット実験場の実験場外見学場で撮影(Credit: JAXA)】

イプシロンSは前身となる「イプシロン」ロケットを発展させた3段式の固体燃料ロケットです。JAXAによれば、イプシロンSでは第1段を新型基幹ロケット「H3」の固体燃料ロケットブースターと共通化することなどによる相乗効果や、衛星受領から打ち上げまでの期間をイプシロンの3分の1程度となる10日以内にするなどの改良を行うことで国際競争力を高め、小型衛星打上げ市場で競争可能な価格帯を実現するとともに、契約から1年以内・年2回の打ち上げ機会提供を目指すとされています。

打ち上げ能力は高度500kmの低軌道(LEO)に1400kg以上、高度350~700kmの太陽同期軌道(SSO)に600kg以上とされています。初打ち上げは2024年度の予定で、ベトナムの地球観測衛星「LOTUSat-1」が搭載されます。

関連:NECが受注したベトナムの衛星、イプシロンSロケット実証機で打ち上げへ(2020年6月15日)

【▲ イプシロンSロケットの想像図(Credit: JAXA)】
【▲ イプシロンSロケットの想像図(Credit: JAXA)】

イプシロンSロケットの第2段モータはイプシロンロケットの2号機から使われてきた強化型第2段モータをサイズアップしたもので(直径は2.5mのまま全長が4.0mから4.3mへ)、真空中推力が3割ほど増加。イプシロンの強化型第2段モータやイプシロンSの第1段「SRB-3」の開発成果を活用することで、高い信頼性と低コスト化を追求するとされています。

今回の燃焼試験はイプシロンSロケット第2段モータの各種特性、推力方向制御(TVC)システムの性能、振動・衝撃等の環境に関する「技術データを取得し、設計妥当性を確認し、必要に応じて実機設計に反映する」(JAXA資料より)ことを目的に、能代ロケット実験場の真空燃焼試験棟で行われました。第2段モータの点火時刻は日本時間2023年7月14日9時ちょうどで、燃焼時間は約120秒間の予定でした。

【▲ イプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中の様子。この後間もなく爆発が発生した。2023年7月14日に能代ロケット実験場の実験場外見学場で撮影(Credit: JAXA)】
【▲ イプシロンSロケット第2段モータの地上燃焼試験中の様子。この後間もなく爆発が発生した。2023年7月14日に能代ロケット実験場の実験場外見学場で撮影(Credit: JAXA)】

7月17日10時30分にJAXAが発表した地上燃焼試験の第二報によると、点火20秒後あたりから燃焼圧力の値が予測値から乖離し始め(※報道によれば予測よりも高くなっていった)、点火約57秒後の時点で第2段モータが爆発しました。ただ、爆発時の第2段モータ燃焼圧力は約7.5MPaだったものの、最大使用圧力(8.0MPa)および耐圧試験の圧力(10.0MPa)以下だったとされています。

国内のロケット打ち上げ等のライブ配信を行うネコビデオビジュアルソリューションズ(NVS)が公開した第2段モータ地上燃焼試験の映像を見ると、第2段モータの噴射が始まってから1分近くが経った頃に爆発が発生し、試験棟の屋根がめくれ上がると同時に、第2段モータもしくは建物の破片らしきものが海岸の方向へ複数飛散していく様子が確認できます。

JAXAによると、真空燃焼試験棟とその内部設備の損壊や、実験場内の隣接する建物の窓ガラスや扉等の破損といったJAXAの設備の損傷はあったものの、人的被害および第三者物的被害は報告されていないということです。爆発した第2段モータの大部分は真空燃焼試験棟の内外に飛散し、試験棟外の一部飛散物については安全の観点から回収が行われました。7月17日の第二報配信の時点では、推定原因は検討中とされています。

JAXAはデータ詳細評価や映像等の詳細確認、試験に用いた第2段モータの検査記録の確認などを進めており、今後は原因の調査を進めるとともにイプシロンSの開発に反映していくということです。

 

※更新にあわせて記事タイトルと本文を変更しました。

 

Source

  • JAXA - イプシロンSロケット第2段モータ地上燃焼試験について(第二報)
  • JAXA - イプシロンSロケット第2段モータ地上燃焼試験について(第一報)
  • NHK - 「イプシロンS」燃焼試験の途中で爆発 JAXA 原因究明急ぐ
  • NVS(nvs-live.com) - イプシロンSロケット第2段モータ地上燃焼試験 / Epsilon S rocket 2nd stage motor firing test(YouTube)
  • NVS(nvs-live.com) - イプシロンSロケット第2段モータE-21地上燃焼試験に爆発(編集版)(YouTube)

文/sorae編集部