アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年12月5日付で、アメリカが主導する有人月探査計画「Artemis(アルテミス)」のスケジュールが変更されたことを発表しました。
それによると、Artemis計画初の有人飛行として4名のクルーが月周辺を飛行する「Artemis II(アルテミス2)」ミッションは2025年9月から2026年4月に、同計画初の有人月面着陸が行われる「Artemis III(アルテミス3)」ミッションは2026年9月から2027年半ばに、それぞれ目標時期が延期されています。
Artemis Iで確認された耐熱シールドの予想外の損失について技術的原因を特定
今回の延期は、地球と月周辺の往復飛行に使用されるNASAの有人宇宙船「Orion(オリオン、オライオン)」の耐熱シールドで確認されていた問題の技術的な原因が特定されたことを受けて決定されました。
NASAによると、2022年11月~12月に無人で実施されたArtemis計画最初のミッション「Artemis I(アルテミス1)」では、帰還したOrion宇宙船の耐熱シールドの一部が予想以上に損失していた問題が確認されていました。詳細な調査の結果、大気圏再突入中に「AVCOAT」と呼ばれる耐熱シールドのアブレーション材料(※気化することで機体を熱から保護する材料)の内部に熱が蓄積したことで発生したガスが予想通りに放出・消散されず、透過性のないアブレーション材料内部の圧力が高まったことで、耐熱シールド表面の亀裂や炭化した部分の剥離に至ったことが特定されました。
Artemis Iミッションで発生した耐熱シールドの予想外の損失は、Orion宇宙船で採用されている「Skip Entry(スキップエントリー)」と呼ばれる再突入方法に関連しています。
月周辺から帰還したOrion宇宙船は大気圏に再突入してそのまま着水するのではなく、揚力を利用して一旦上昇してから再び降下するという飛行経路を辿ります。2段階の再突入を行うスキップエントリーでは飛行距離は長くなりますが、上昇時に高度を調整して飛行距離をコントロールすることで目標海域へピンポイントに着水できる、宇宙飛行士の身体にかかる加速度や宇宙船の加熱を抑えることができるといったメリットがあります。
- NASA「アルテミス計画」最初のミッションでテストされるオリオン宇宙船の再突入方法(2021年4月14日)
Orion宇宙船の耐熱シールドに使われているアブレーション材料は事前に詳細な地上試験が行われており、透過性のある炭化物が形成・除去されることでガスは放出されていたといいます。しかし、スキップエントリーが行われたArtemis Iミッションで実際にアブレーション材料が受けた加熱は地上試験の時よりも弱く、炭化物の形成プロセスが遅くなる一方で炭化層の内部ではガスが生じ続けたため、透過性のないアブレーション材料で亀裂や剥離が生じることになったとみられています。
前述の通りArtemis Iは無人ミッションでしたが、仮に宇宙飛行士が搭乗していたとしても、Orionの船内温度は快適かつ安全な温度に保たれていたことをデータが示しているとNASAは述べています。すでに組み立てが進んでいるArtemis IIミッション用のOrion宇宙船の耐熱シールドは宇宙飛行士の安全を確保できると判断されていますが、アブレーション材料の損失を考慮して再突入時の飛行経路が変更される見込みです。
また、Artemis IIIミッション向けの耐熱シールドはArtemis Iミッションの教訓がすでに取り入れられており、製造方法を変更することで均一性と一貫性のある透過性を実現しているとされています。
- NASAがアルテミス3ミッションの着陸候補地を発表 月の南極周辺に9か所(2024年11月1日)
- 日本人宇宙飛行士に2回の月面着陸機会 「アルテミス計画」与圧ローバー巡り日米間で署名(2024年4月15日)
- NASAがアルテミス2ミッションに参加する宇宙飛行士を発表 月周辺の有人飛行は半世紀ぶり(2023年4月4日)
Source
- NASA - NASA Shares Orion Heat Shield Findings, Updates Artemis Moon Missions
- NASA - NASA Identifies Cause of Artemis I Orion Heat Shield Char Loss
- SpaceNews - NASA further delays next Artemis missions
文・編集/sorae編集部
#NASA #アルテミス計画 #オリオン宇宙船