アメリカや欧州に対抗!? 中国が長期的な宇宙科学計画を策定

GDP(国内総生産)でアメリカに次ぐ世界第2位の中国は、製造業の分野で世界をリードするようになりました。そしていま、宇宙科学と宇宙開発の分野でアメリカに迫り、やがて追い越すことを目指しています。中国はこれまで月の裏側への探査や宇宙ステーション「天宮」(CSS)の運用成功などで成果を上げてきましたが、今回中国初となる、2050年を視野に入れた壮大な宇宙科学および宇宙開発計画を発表しました。

中国宇宙ステーション「天宮」(CSS)の想像図
【▲ 中国宇宙ステーション「天宮」(CSS)の想像図(Credit: China Manned Space)】

中国科学院(CAS)、中国国家航天局(CNSA)、中国有人宇宙機関(CMSA)が2024年10月に発表した「国家中長期宇宙科学発展計画(2024-2050)」は、2024年から2050年までの中長期にわたる宇宙科学および宇宙開発の指針を与えています。

中国の宇宙科学計画で言及された5つの目標

国家中長期宇宙科学発展計画では、以下の5つの目標が掲げられています。

  • 宇宙の極限状態を探る(Extreme Universe)...宇宙の起源と進化を探求し、極限状態(※)の物理法則を明らかにする。
  • 時空の波紋を解明(Space-time Ripples)...低周波の原始重力波を検出し、重力と時空の本質に迫る。
  • 地球と太陽の関係を解き明かす(Panorama of the Earth and Sun)...太陽、地球、太陽圏を探査し、複雑な相互作用を支配する法則を解明する。
  • 居住可能な惑星を探る(Habitable Planets)...太陽系内外の惑星の「ハビタブル」性を評価する。
  • 宇宙での生命の法則を探求(Biological and Physical Space Science)...宇宙環境下での物質運動や生命活動の法則を解明する。

※…ビッグバンが発生したのちの超高密度状態にある宇宙のことを「極限宇宙(Extreme Universe)」と呼ぶ

これらの目標は、中国が宇宙科学および宇宙開発分野で大躍進を遂げるために必要だと位置づけられています。

宇宙科学の分野で最先端を目指す中国

この計画が策定された背景には、国際的な宇宙科学計画の存在がある模様です。CNSAがまとめた「中国宇宙科学活動報告書2022-2024」では、アメリカ科学アカデミーが策定する「Decadal Survey」や欧州宇宙機関(ESA)の「VOYAGE 2025」といった中長期の宇宙科学計画の存在を指摘したうえで、中国もまた同様の宇宙科学計画を策定すべきであると説かれています。

ただし、中国が宇宙科学の最前線に立とうとするために必要な理念や目標を表明するだけでなく、中国の置かれた現実を考慮すべきだといいます。こうしたことから、前述の5つの科学テーマに焦点を当てるべきであると結論付けられたようです。

2050年に向けた3段階のロードマップ

国家中長期宇宙科学発展計画では、2050年までの宇宙科学および宇宙開発の取り組みが3つの段階に分けられています。

まず、第1段階(2024〜2027年)では、現在稼働中の天宮の運用を維持しながら、月への有人ミッションを実施することが目標とされています。この期間中には、「嫦娥」7号および8号の打ち上げが計画されており、これに加えて火星探査ミッションの具体化が進められます。また、この時期には5〜8件の宇宙科学衛星ミッションが承認される予定です。

続く第2段階(2028〜2035年)では、天宮の規模を現在の2倍に拡張し、その運用を継続します。同時に、月面探査がさらに進み、国際月面研究ステーション(ILRS: International Lunar Research Station)の建設が予定されています。この期間中には、合計で15件の宇宙衛星ミッションが展開される計画です。

第3段階(2036〜2050年)では、より大規模な宇宙探査と科学ミッションが予定されています。この期間中には、30件以上の宇宙科学ミッションが実施され、宇宙科学の主要分野において世界をリードする成果を出すことを目指します。

アメリカとの予算面での比較

宇宙産業コンサルティング会社のEuroconsult(現Novaspace)の調査によると、中国政府が2023年に宇宙計画に投資した額は約141億5000万米ドルと推定されています。これに対して、アメリカは同年に約732億米ドルを宇宙計画に投資しており、中国とアメリカの宇宙計画に投資した額は大きな開きがあるようです。もっとも、アメリカ連邦政府が宇宙科学や宇宙開発に投資できるキャパシティには限界があるという見解があり、さらに近年は宇宙開発事業の一部を民間企業に託す動きを示していることから、アメリカが宇宙計画に投資する予算を今後も維持できるかどうかについては不明です。

2022年および2023年に世界の主要国が宇宙計画に対して投資した額
【▲ 2022年および2023年に世界の主要国が宇宙計画に対して投資した額(Credit: Statista Research Department/Euroconsult)】

そのいっぽうで、中国は、月の裏側の探査や独自の宇宙ステーションの建設など、世界に先駆けた宇宙計画にも着手しています。こうしたことから、中国が宇宙科学・宇宙開発分野での存在感をさらに高めていくのかどうかが注目です。

 

Source

  • Universe Today - China Releases its First Roadmap for Space Science and Exploration Through 2050
  • 中華人民共和国国務院 - China releases space science development program for 2024-2050
  • 中国国家航天局 - 国家空间科学中长期发展规划(2024—2050年)
  • Statista Research Department - Government space program spending of the leading countries in the world 2022-2023
  • CAS - Space Science Activities in China- National Report 2022-2024
  • Nova Space - New historic high for government space spending mostly driven by defense expenditures

文/Misato Kadono 編集/sorae編集部