人類は火星への有人飛行という夢を追い求め続ける中、その是非を問いただすべき時かもしれません。

the surface of Mars
【▲ 画像処理された火星の姿(Credit: Jody Swann/Tammy Becker/Alfred McEwen)】

オーストラリア・カーティン大学のSteven Tingay教授(電波天文学)は、同国のメディアサイトThe Conversationに、「アメリカ航空宇宙局(NASA)は商用火星探査ミッションを追求しているが、人類は今なお火星に赴くことを望むのか?」という題名の論考を寄稿しました。

50を数える火星ミッション

ソビエト連邦(現ロシア)が1960年に「マルス1960A」ミッションで火星へのフライバイを試みて以降、人類は50もの火星ミッションを開始しました。NASAが1965年7月に「マリナー」4号で火星へのフライバイに成功したミッションを含め、31のミッションに成功しています。こうした火星探査ミッションは主に、大気、軌道、地質などに関する情報を地球に送り返すことを目的としており、「マリナー」9号による液体が地表を侵食した痕跡の発見(1971年)、探査車「オポチュニティ」による幅が3cmほどの球体状の形成物「ブルーベリー」の発見(2004年)、その形成物がかつて火星に存在した水によって生み出された可能性など、人々の関心を引く発見をもたらしました。

Martian blueberries
【▲「ブルーベリー」と呼ばれる火星上に存在する球体状の形成物(Credit: NASA/JPL-Caltech/Cornell/USGS)】

その一方で、近年では欧州宇宙機関(ESA)の火星探査機「スキャパレリ」の墜落(2016年)のように、ミッションが失敗に終わったケースもあります。火星探査には1ミッションあたり10億米ドルを超える莫大な予算がかかり、世界の主要な宇宙機関はこれまでに500億米ドル以上を投資してきたといいます。人類を火星に送るためには、さらなる技術向上と莫大な投資が必要です。

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関連記事: 火星着陸機「スキアパレッリ」 機体高度の勘違いが衝突原因 IMUデータに誤り(2016年11月)

NASAジェット推進研究所(JPL)が2024年1月26日にパートナー募集を公表した「Exploring Mars Together」は、Relativity SpaceとImpulse Spaceによる民間火星探査ミッションに続く火星ミッションです。両企業は、2024年に火星に宇宙船を送る民間火星探査ミッションの計画を2022年に発表し、NASAと資金援助を伴わない宇宙法協定(SAA: Space Act Agreement)を締結しました。しかし、2023年3月に3Dプリンタで製造された再利用可能な「Terran R」ロケットが軌道投入に失敗したことで、ミッションは2026年まで延期されました。今回の「Exploring Mars Together」ミッションでは、50kg以下の小型ペイロードの運搬(「相乗り」(ホステッド・ペイロード)オプションの余地あり)や、1250kgほどの大型ペイロードを火星周回軌道へ運搬(相乗りオプションの余地あり)、火星での撮像サービス、および火星と地球間の通信中継サービスへの入札が可能になります。

Mars Exploration Timeline
【▲ 火星への有人探査実現に向けたミッションの数々(Credit: NASA)】

関連記事: 3Dプリント技術を採用したロケット「テラン1」 初打ち上げ実施 軌道到達ならず(2023年3月)

一長一短ある商用火星探査ミッション

Tingay教授は、商用ミッションのもつ潜在能力を認めています。SpaceXのような民間企業が火星への有人飛行を目指していることや再利用可能なロケットの製造や打ち上げに成功していることを例に出し、商用火星探査ミッションが以前よりも実現可能であることを強調しています。また、宇宙開発から派生する技術の経済的、社会的影響が大きいと述べています。

【▲ SpaceXによる火星ミッションの紹介動画】
(Credit: SpaceX)

その一方で同教授は、アメリカ連邦政府が自前で宇宙開発に傾倒しなくなりつつあることを根拠に、NASAの宇宙開発に費やせるキャパシティの衰えを指摘しています。また、火星への有人飛行を2025年に計画していたオランダのMars Oneが2019年に破産したケースを引き合いに出し、民間企業が火星探査ミッションに参画することのリスクの高さを懸念材料として挙げています。

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火星探査の意義についての議論は続いており、一部では宇宙開発よりも地球への注目や持続可能性の重視を訴える声もあります。それでもTingay教授は、これまでの人類の科学的探究が成功してきた歴史を引き合いに出し、熱意と資本さえあれば火星探査は実現可能であると、私たちに対して火星探査への期待を促すような結論で論考を締めくくっています。

 

Source

  • The Conversation - NASA is looking for commercial Mars missions. Do people still want to go to Mars?
  • Ars Thchnica -For the first time NASA has asked industry about private missions to Mars
  • Relativity Space - NEW AGREEMENT WITH NASA PUTS RELATIVITY SPACE ON PATH TO OPERATE ONE OF AMERICA’S LARGEST ROCKET ENGINE TEST FACILITIES
  • NASA - Exploring Mars Together
  • System for Award Management - Exploring Mars Together: Commercial Services Studies

文/Misato Kadono

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