株式会社アストロスケール(Astroscale)は2024年12月11日、同社の商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J(アドラスジェイ)」が観測対象のスペースデブリ(宇宙ごみ)に約15mの距離まで接近することに成功したと発表しました。民間企業が宇宙機のRPO(※Rendezvous and Proximity Operations Technologiesの略、ランデブー・近傍運用)を通じて実際のデブリにここまで接近したのは世界初の事例だと同社は述べています。
ADRAS-Jとは
ADRAS-Jはデブリ除去の新規宇宙事業化を目的とした宇宙航空研究開発機構(JAXA)の取り組みである「商業デブリ除去実証(CRD2)」の実証衛星です。CRD2は大型デブリへの接近・近傍制御と情報取得を実証するフェーズIと、大型デブリの除去を実証するフェーズIIの2段階に分かれており、どちらもアストロスケールが契約相手方に選定されています。
現在運用されているADRAS-JはフェーズIを実施するために開発されたもので、日本時間2024年2月18日夜にRocket Lab(ロケットラボ)の「Electron(エレクトロン)」ロケットで打ち上げられました。アストロスケールはフェーズIIの実施に向けて、捕獲用のロボットアームを搭載する実証衛星「ADRAS-J2」の開発も進めています。
観測対象のスペースデブリとは
ADRAS-Jの観測対象であるスペースデブリは、2009年1月に打ち上げられた「H-IIA」ロケット15号機の上段(2段目、全長約11m・直径約4m・重量約3トン)です。H-IIA15号機は2009年1月に温室効果ガス観測技術衛星「いぶき(GOSAT)」の打ち上げに使用されたロケットで、同ロケットの上段は大型デブリとなって地球を周回し続けています。
ADRAS-Jは2024年4月17日に対象デブリの後方数百mまで接近することに成功した後、同年5月23日には後方約50mまで接近することに成功して定点観測を実施。同年7月15日と16日には約50mの距離を保ちながら対象デブリの外観全体を観測する周回観測にも成功しており、CRD2のフェーズIIにおいて捕獲時の対象部位となる「PAF」(Payload Attach Fitting、衛星搭載時の台座にあたる部分)に大きな損傷は見られないことなどが確認されていました。
アストロスケールの独自ミッションとして50m未満の距離まで接近
対象デブリの周回観測に成功したことを受けて、アストロスケールは同社の独自ミッションとして、ADRAS-Jを対象デブリにさらに接近させる運用を行いました。前述の通りCRD2のフェーズIIでは実際に対象デブリの捕獲を試みることになるため、将来の捕獲運用に備えてその直前までのデータをADRAS-Jで収集しようというわけです。
アストロスケールによると、ADRAS-Jは2024年7月17日に対象デブリから約20mまで接近することに成功。同年11月30日にはPAFを地球に向け続けている対象デブリの下方約15mまで接近し、相対的な距離と姿勢を一定時間維持することに成功しました。2回とも最終的にはデブリとの相対姿勢制御の異常が検出されたため、衝突を回避するためにADRAS-Jが自律的に安全な距離まで退避(アボート)して接近を終えており、対象デブリから離れたADRAS-Jは安全な状態を保っているということです。
別の宇宙機とのランデブーやドッキングを想定していないロケット上段のような物体は接近するだけでもリスクを伴うため、ADRAS-Jにはデブリとの衝突を防ぐための回避機能が備えられています。2024年6月19日に試みられた最初の周回観測に続き、今回の独自ミッションでも衝突回避機能が働いたことで、設計の正しさを改めて確認できたとアストロスケールは述べています。
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Source
- Astroscale - アストロスケールのADRAS-Jが宇宙ごみへの歴史的な15メートル接近を達成
文・編集/sorae編集部
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