今年も宇宙開発や天文学に関する注目のニュースが相次ぎました。2021年にsoraeがお伝えしたニュースのなかから注目すべきニュースをピックアップしてご紹介。今回は前半の「宇宙開発ニュース編」です!
※本記事は2021年12月28日時点での情報をもとにしています
>後半の天文ニュース編こちらです。
■火星探査機・探査車の軌道投入や着陸が相次ぐ
2021年は、前年に打ち上げられたアメリカ・中国・アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機や火星探査車が相次いで火星に到着した年となりました。
まずは2月10日、UAEの火星探査機「HOPE」(アル・アマル)と中国の火星探査機「天問1号」が火星周回軌道へ入ることに成功しました。HOPEは2020年7月20日に日本の「H-IIA」ロケット42号機で打ち上げられた、UAE初の火星探査ミッションにおける探査機です。いっぽう、天問1号は中国初の火星探査ミッションにおける探査機で、7月23日に同国の「長征5号」ロケットで打ち上げられました。5月15日には天問1号に搭載されていた火星探査車「祝融」(しゅくゆう、中国の古代神話における火の神に由来)がユートピア平原へ着陸することにも成功しています。
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続いて2月19日には、アメリカ航空宇宙局(NASA)の火星探査車「Perseverance(パーセベランス、パーシビアランス)」がジェゼロ・クレーターへの着陸に成功しました。PerseveranceはNASAと欧州宇宙機関(ESA)が共同で進めている火星サンプルリターンミッションにおけるサンプル採取の役割を担う探査車です。Perseveranceは最終的に合計30本ほどの岩石サンプルを採取する予定で、12月27日までに5本の岩石サンプルを採取済み。保管容器に密封されたサンプルは、後に送り込まれる探査機によって回収され、2030年代に地球へ持ち帰ることが計画されています。
また、Perseveranceとともに火星へ到着した小型の電動無人ヘリコプター「Ingenuity(インジェニュイティ)」は、4月19日に火星の空を初飛行しました。この飛行は人類史上初の「地球以外の天体における航空機による制御された動力飛行」として歴史に刻まれています。当初、Ingenuityのミッションは数か月間で5回の実証飛行を行う計画でしたが、12月までに合計18回の飛行に成功しており、2022年も運用が続けられる見込みです。
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■新たに始まった宇宙探査ミッション
火星探査機・探査車の到着ラッシュとなった2021年は、新たな宇宙探査ミッションも始まっています。
10月16日にはNASAの小惑星探査機「Lucy(ルーシー)」が打ち上げられました。ルーシーは木星トロヤ群(※)を含む8つの小惑星を12年かけて探査する長期間のミッションです。ルーシーの打ち上げは順調に行われたものの、2基搭載されている太陽電池アレイの片方が完全に展開されていない(展開率は75~95パーセントと推定)とみられています。ただし、NASAによると発電量はルーシーの状態を維持するのに十分とされており、現状維持も含めて対策が検討されています。
※…太陽を周回する小惑星のグループのひとつ。太陽と木星の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のうち、木星の公転軌道上にある「L4点」(公転する木星の前方)付近と「L5点」(同・後方)付近に分かれて小惑星が分布している
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また、11月24日にはNASAの探査機「DART」が打ち上げられました。DARTは「Double Asteroid Redirection Test」(二重小惑星方向転換試験)の略で、小惑星「ディディモス」(65803 Didymos、直径780m)の衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径160m)に探査機を衝突させて、小惑星の軌道変更を試みるミッションです(DARTミッションについては「後半:天文編」でもご紹介します)。
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そして2021年も残すところ1週間となった12月25日には、新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」が打ち上げられました。ジェイムズ・ウェッブは六角形の鏡を18枚組み合わせた直径6.5mの主鏡を持ち、赤外線の波長で天体を観測する宇宙望遠鏡で、地球と太陽の重力や天体にかかる遠心力が均衡するラグランジュ点のひとつ「L2」(地球からの距離は約150万km)まで移動して観測を行います。
当初の予定から様々な理由で打ち上げが延期され続け、最終的に14年遅れで宇宙へと飛び立ったウェッブ宇宙望遠鏡は、初期宇宙で誕生した宇宙最初の世代の星(初期星、ファーストスター)や最初の世代の銀河の観測、太陽系外惑星の大気観測などを通して宇宙の謎に迫ることが、世界中の研究者から期待されています。
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■「民間」の存在感が増す宇宙開発
2021年は宇宙開発における「民間」の存在感がいっそう増した一年でもありました。
大きな注目を集めたのはアメリカの民間宇宙企業スペースXの動向です。スペースXは同社の「ファルコン9」ロケットの第1段やロケット先端のフェアリングを回収・再使用することに成功していますが、同社はファルコン9の運用と並行して完全再使用型の宇宙船「スターシップ」とブースター「スーパーヘビー」の開発を進めています。
スターシップは全長50m、直径9mという大型の宇宙船で、全長70mのスーパーヘビーと組み合わせた場合、旅客輸送用のクルー型なら100名を、貨物輸送用のカーゴ型なら100トンのペイロード(人工衛星や貨物などの搭載物)を地球低軌道に打ち上げる能力を備えています。
スターシップは軌道上で推進剤を補給することで月や火星にも飛行可能とされており、スペースXのイーロン・マスクCEOはスターシップによる火星への飛行を2020年代に実施する目標を掲げています。また、NASAが推進する有人月面探査計画「アルテミス」では、月着陸船「HLS」(Human Landing System、有人着陸システム)としてスターシップの派生型が採用されています。
スターシップは2020年12月から無人試験機を用いた高高度飛行試験を行ってきました。一連の試験では最高高度到達後の降下までは成功していたものの、ソフトランディングには4回連続で失敗しており、いずれも機体が失われていました。しかし、5月6日に実施された試験機「SN15」による飛行試験ではソフトランディングにも成功し、機体を喪失することなく試験を完了。2021年のスターシップ高高度飛行試験はSN15が最後で、スペースXはスーパーヘビーを用いたスターシップ初の軌道飛行試験を2022年に予定しています。
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スペースXは従来型の有人宇宙船「クルードラゴン」の運用を2020年から本格的に開始しています。2021年には8名の宇宙飛行士がクルードラゴンで国際宇宙ステーション(ISS)へと輸送された他に、9月には民間人だけのクルーで構成された初の宇宙飛行ミッション「Inspiraton4」もクルードラゴンを使って実施されました。
2021年に実施された宇宙旅行はInspiration4だけではありません。7月にはヴァージン・グループ創業者のリチャード・ブランソンさんがヴァージン・ギャラクティックの宇宙船「スペースシップツー」に、Amazonのジェフ・ベゾスCEOがブルー・オリジンの宇宙船「ニューシェパード」にそれぞれ乗り込み、自社の宇宙船を使ったサブオービタル宇宙飛行に成功しました。
ニューシェパードは10月と12月にも有人飛行を実施しており、10月の「NS-18」ミッションにはSF作品「スター・トレック」シリーズのカーク船長役で知られる俳優のウィリアム・シャトナーさんが参加しました。
今年は2009年以来となる民間人の国際宇宙ステーション滞在も行われています。10月には女優のユリア・ペレシルドさんと監督のクリム・シペンコさんが国際宇宙ステーションで映画撮影を実施し、12月には前澤友作さんと平野陽三さんが12日間の宇宙旅行に参加。2021年は民間宇宙旅行の本格的な幕開けを印象付ける出来事が相次いだ一年でした。
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いっぽう、今年は日本の宇宙ベンチャーにも動きがありました。観測ロケット「MOMO」シリーズの開発・打ち上げを行うインターステラテクノロジズ(IST)は、7月と8月に「ねじのロケット(MOMO7号機)」および「TENGAロケット(MOMO6号機)」の打ち上げを相次いで実施し、いずれも成功しました。
「ねじのロケット」は同社が1年かけて取り組んだMOMOの改良型「MOMO v1」初の打ち上げで、高度約100kmに到達。続く「TENGAロケット」では高度約92kmに到達し、日本国内の民間企業としては初めて宇宙空間からのペイロード放出および洋上回収にも成功しています。
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また、スペースデブリ(宇宙ゴミ)除去の事業化を目指すアストロスケールは、8月に技術実証衛星「ELSA-d」による模擬デブリの再捕獲実験に成功しました。
ELSA-dは捕獲衛星本体とデブリを模した模擬デブリ衛星の2機で構成されており、増加し続けるスペースデブリの捕獲・除去に必要な技術の実証を目的として3月に打ち上げられました。今回は一連の技術実証の第一歩として、捕獲衛星から模擬デブリ衛星を一旦切り離してからキャッチする試験に成功したことになります。今後はELSA-dによる回転状態の模擬デブリ衛星をキャッチする試験などが予定されています。
なお、同社は宇宙航空研究開発機構(JAXA)の商業デブリ除去実証プロジェクトの一環として、商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の打ち上げを2022年度中に計画しています。ADRAS-Jは打ち上げ後に地球を周回し続けている日本由来の大型デブリ(H-IIAロケットの第2段が候補)に接近して状態を確認する予定です。
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文/松村武宏