「暗黒光子」は“暗黒世界”を照らし出すか?
【▲ 図1:暗黒物質とガスからなるフィラメント構造「コズミックウェブ(宇宙の"クモの巣")」。宇宙全体に広がるこの編み目構造では暗黒光子が飛び交っているかもしれません(Credit: Springel et al. (2005))】

宇宙には目に見える世界のほかに“暗黒世界”とでも呼ぶべきものが潜んでいるかもしれません。というと、まるでSFかファンタジーのようですが、これは最新の宇宙物理学の予言です。

われわれの宇宙は“見える物質”、すなわち光(電磁波)で観測できるものばかりで形作られているわけではありません。ほかにも重力だけがその存在を指し示す“見えない物質”、すなわち「暗黒物質(ダークマター)」が大量にあるとされます。

現在の宇宙論にもとづくと、暗黒物質の量は宇宙の全質量の85%にも達します。つまり、原子や分子からなるわれわれ自身や身のまわりの物質は、宇宙全体から見ればマイノリティといえるのです。

【▲ 図1:暗黒物質とガスからなるフィラメント構造「コズミックウェブ(宇宙の"クモの巣")」。宇宙全体に広がるこの編み目構造では暗黒光子が飛び交っているかもしれません(Credit: Springel et al. (2005))】

しかし、現時点では暗黒物質の正体はまったくわかっていません。かつては、遠方の惑星やブラックホールのように、電磁波による観測が困難な天体が暗黒物質候補として考えられたこともありましたが、それらの全質量を多めに見積もっても、暗黒物質の理論上の総質量にはまるで足りませんでした。現在では、こうした天体の代わりにWIMPs(ウィンプス※1)やアクシオン(※2)といった未知の粒子を暗黒物質とする見方が強くなっています。しかし、数十年にわたる観測や実験でもこれらの粒子は発見されていません。

そこでいま、暗黒物質を解明する鍵として注目されているのが「暗黒光子(ダークフォトン)」です。暗黒光子というのはなんとも逆説的な名称で、「暗黒なのに光とは?」と聞き返したくなります。しかし、暗黒光子は暗黒物質の世界とわれわれの世界の架け橋になる可能性を秘めているらしいのです。

 

※1…WIMPs(ウィンプス=Weakly Interacting Massive Particles)
質量をもち、弱い力(原子内の粒子を別種の粒子に変える力)の作用を受ける仮想上の粒子。素粒子の標準モデルには含まれない。

※2…アクシオン
強い力(クォークどうしを結合させる力)に関する理論が予言する仮想上の粒子。理論上は電子よりはるかに軽い。WIMPsと同じく標準モデルに含まれない。