将来地球での分析が計画されている火星の岩石サンプルを初めて採取することに、ついに成功しました。アメリカ航空宇宙局(NASA)は現地時間9月6日、火星探査ミッション「マーズ2020」の探査車「Perseverance(パーセべランス、パーサヴィアランス)」による2回目の岩石サンプル採取が成功し、サンプルを収めた容器の密閉・保管処理が完了したことを発表しました。

■火星の岩石サンプルが入った最初の保管容器が密閉される

この画像は、Perseveranceの車体に搭載されているカメラ「CacheCam」によって9月6日に撮影されたサンプル保管容器266番の内部です。画像の中央に見えているのが、今回史上初めて採取に成功した火星の岩石のサンプルです。長さ15cmほどのチューブ状の保管容器の奥に入っているサンプルにカメラの焦点が合わせられているため、黄金色の明るいリングとして写っている保管容器の開口部はぼやけています。

PerseveranceのCacheCamが撮影した密閉前の保管容器266番の内部。中央に採取された岩石のコアサンプルが見えている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ PerseveranceのCacheCamが撮影した密閉前の保管容器266番の内部。中央に採取された岩石のコアサンプルが見えている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

既報の通り、このサンプルは運用チームから「Rochette」(ロシェット)のニックネームで呼ばれているブリーフケース程度の大きさの岩石から、現地時間2021年9月1日に採取されたものです。採取直後にPerseveranceのマスト(頭に例えられる部分)に搭載されているズーム対応カメラ「Mastcam-Z」を使って撮影した画像では、掘削を行うコアリングビットの開口部を通して採取された岩石サンプルを確認することができました。

ただ、保管容器の開口部の縁から残留物をふるい落とすためにコアリングビットを振動させる操作を実施した後に撮影された画像では、サンプルが見えなくなっていました。サンプルは外部に落ちてしまったわけではなく、振動によって容器の底へ移動したため見えなくなったものと推測されていましたが、Perseveranceを運用するNASAのジェット推進研究所(JPL)の運用チームは念のため画像の再撮影を計画しており、この時点では採取成功と断言することはできませんでした(サンプル採取直後の様子や採取の流れについては以下の関連記事を御覧下さい)。

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その後、再撮影された画像でサンプルが保管容器内部に残存していることが確認されたため、運用チームは容器の密閉・保管処理を進めることを決定。米東部夏時間9月6日12時34分、Perseveranceは保管容器をロボットアーム先端のコアリングビット内部から車体内部へと移しました。サンプルの測定と画像撮影が行われた後に容器は密閉され、Perseveranceの車体下部に保管されています。

金属キャップで密閉された後のサンプル保管容器266番(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 金属キャップで密閉された後のサンプル保管容器266番(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

なお、Perseveranceによるサンプル採取の実施はこれが2回目となります。1回目は現地時間8月6日に試みられたものの、対象の岩が細かく砕けてしまったため、容器へ収めることができませんでした。

関連:NASA火星探査車「Perseverance」初のサンプル採取では岩がもろくて砕けてしまった可能性

■早ければ10年後に人類が手にする火星地表の岩石サンプル

探査活動を行うPerseveranceを描いた想像図。地表にはサンプルを収めた保管容器が置かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 探査活動を行うPerseveranceを描いた想像図。地表にはサンプルを収めた保管容器が置かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

マーズ2020ミッションの主な目的は火星に存在していたかもしれない微生物の痕跡を現地で探索することですが、NASAは欧州宇宙機関(ESA)と共同で火星からのサンプルリターンを計画しており、Perseveranceは火星探査史上初めて地球に運ばれる火星のサンプルを採取するという重要な役割も担っています。

火星からのサンプルリターンは複数のローバーや探査機によるリレーのような三段構えのミッションです。最初のミッションは現在実施されているマーズ2020で、Perseveranceは火星に持ち込んだ43本の保管容器のうち30本ほどを使って岩石サンプルを採取します。サンプルを収めた容器は密閉後に火星の地表に置かれ、回収される時を待つことになります。

火星サンプルリターンのコンセプト。着陸機(右上)が回収役のローバー(左下)からサンプルの保管容器を受け取っている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 火星サンプルリターンのコンセプト。着陸機(右上)が回収役のローバー(左下)からサンプルの保管容器を受け取っている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

次はNASAが開発する着陸機とESAが開発するローバーによるミッションで、サンプル保管容器の回収と火星地表からの打ち上げが実施されます。Perseveranceが地表に置いていった保管容器は回収役のローバーによって拾い集められ、ローバーとともに火星へ降り立った着陸機に渡されます。

着陸機にはMars Ascent Vehicle(MAV)という小さなロケットが搭載されます。MAVの先端には保管容器を収めるバスケットボールサイズの球形コンテナが搭載されていて、ローバーが集めた保管容器はこのコンテナに移し替えられた上で火星の周回軌道上へと打ち上げられます。

火星サンプルリターンのコンセプト。保管容器を搭載したMAVが着陸機から打ち上げられる様子が描かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 火星サンプルリターンのコンセプト。保管容器を搭載したMAVが着陸機から打ち上げられる様子が描かれている(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

最後はESAが担当する地球への帰還ミッションです。帰還用の探査機は火星の周回軌道上で待機し、MAVによって打ち上げられたコンテナをキャッチします。サンプル保管容器が収められたコンテナは大気圏再突入用の回収カプセルに移され、探査機が火星から地球まで運びます。地球の研究者が火星地表のサンプルを手にするのは早ければ2031年が予定されており、それほど遠い将来の話ではありません。

火星サンプルリターンのコンセプト。サンプル保管容器はMAV先端に搭載された球形のコンテナに移し替えられた状態で火星の地表から打ち上げられ(左)、軌道上で帰還用の探査機がキャッチ(中央)。コンテナは回収カプセルに収容され、探査機によって地球まで運ばれる(右)(Credit: ESA/ATG Medialab)

【▲ 火星サンプルリターンのコンセプト。サンプル保管容器はMAV先端に搭載された球形のコンテナに移し替えられた状態で火星の地表から打ち上げられ(左)、軌道上で帰還用の探査機がキャッチ(中央)。コンテナは回収カプセルに収容され、探査機によって地球まで運ばれる(右)(Credit: ESA/ATG Medialab)】

今回採集に成功した岩石サンプルは約30本の採取が予定されているうちの1本目であり、今後もPerseveranceによるサンプル採取の旅は続きます。

2021年2月に火星のジェゼロ・クレーターへ着陸したPerseveranceは、着陸地点から見て南側の地域において数百ソル(1ソル=火星の1太陽日、約24時間40分)に渡る最初の探査活動を行っています。JPLによると、この活動を終えて着陸地点に戻る頃にはPerseveranceの総走行距離が2.5~5kmに達し、8本程度の保管容器がサンプルで満たされる可能性があるといいます。その後、Perseveranceは着陸地点から再び移動し、古代に形成された三角州における次の探査活動を開始します。

NASA科学ミッション本部副本部長のThomas Zurbuchen氏は「アポロ計画では他の天体で採取したサンプルを地球で分析することの揺るぎない科学的価値が実証されましたが、火星サンプルリターンの一環であるPerseveranceが採取したサンプルでも同じことが行われます。洗練された地上の研究設備を用いることで、火星に存在していたかもしれない生命の探求も含め、幅広い科学分野での驚くべき発見がもたらされることを私たちは期待しています」とコメントしています。

打ち上げ前にJPLのクリーンルームで撮影されたサンプル保管容器266番。火星で採取された初の岩石サンプルを収めたこの容器は、早ければ10年後に地球へ戻ってくる予定だ(Credit: NASA/JPL-Caltech)

【▲ 打ち上げ前にJPLのクリーンルームで撮影されたサンプル保管容器266番。火星で採取された初の岩石サンプルを収めたこの容器は、早ければ10年後に地球へ戻ってくる予定だ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

 

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Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏

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