
宇宙産業の調査・コンサルティングで40年以上の実績を持つNovaspace(旧Euroconsult)が、年次報告書「Space Economy Report」第12版を発表しました。ロケットや衛星の製造から通信・測位・地球観測データの活用まで宇宙産業を幅広くカバーする同レポートによると、世界の宇宙経済は2025年に6264億ドル(約94兆円)に達し、2034年には1兆ドルを超える見通しです。

宇宙経済6264億ドルの内訳
Novaspaceのレポートでは、宇宙経済を「宇宙市場(Space Market)」と「衛星活用ソリューション(Satellite Enabled Solutions)」に区分しています。
「宇宙市場」はロケットや衛星の製造・打ち上げ・地上設備など宇宙産業が直接関わる領域で、2025年の規模は2360億ドル。2034年には3230億ドルへの拡大が見込まれています。
いっぽう、「衛星活用ソリューション」は、衛星測位サービスや衛星通信、地球観測データの提供など、宇宙インフラを活用して間接的に生み出される経済価値の総体で、3290億ドルとなっています。
※…レポートでは2つの大区分を軸に示されていますが、周辺カテゴリの扱い(集計範囲の違い等)により、本文で挙げた数字の単純合算は総額と一致しません。
政府支出と防衛の存在感
各国政府の宇宙関連支出は2025年に1370億ドルに達しました。
なかでも防衛関連の支出は740億ドルに上り、全体の半数以上を占めています。米国の「Golden Dome」構想や欧州の安全保障向け衛星通信システム「IRIS²」など、宇宙を国家安全保障の基盤インフラとして位置づける動きが世界的に加速しています。
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)は2025年の閣僚級会合で、2026〜2028年の予算として260億ドルを承認。前回から約30%増となり、欧州としても宇宙への投資姿勢を強めています。
民間投資は2021年ピーク以降で最大の回復
民間投資は2025年に90億ドルに達し、2021年のピーク以降で最大の年間増加を記録しました。ただし資金の流れには明確な偏りがあるとみられています。Novaspaceは、レイトステージ(成熟段階)の企業に集中している点を指摘しており、アーリーステージ(創業初期の技術開発段階)のスタートアップに対しては投資家の姿勢は依然として慎重だとしています。
その裏側では業界再編も進んでいます。2025年にはM&A(合併・買収)が54件成立し、さらに16件が進行中です。衛星通信大手SESによるIntelsatの買収(31億ドル)はその象徴的な案件で、業界は「数を増やす段階」から「統合して競争力を高める段階」へ移行しつつあります。いっぽうでVirgin OrbitやAstraなど、事業継続が困難になった企業の淘汰も進みました。
2025年という転換点
Novaspaceはレポートの中で、2025年を宇宙産業の「構造的転換点」と位置づけています。急速な拡大期を経て、産業全体がより成熟し安定した構造へ移行する節目だという見方です。
打ち上げ能力の進化(大型機の開発進展や試験の積み重ね)、衛星通信の多軌道化、地球観測のデータ統合プラットフォーム化といった成熟が、この転換を後押ししています。
日本はこの波に乗れるか?「成長を制約し合う構造」からの脱却
世界の宇宙経済が94兆円規模に膨らむ中、日本の宇宙産業の規模は宇宙基本計画(2023年閣議決定)の基準値で約4兆円。世界全体に占める割合はおよそ4%です。政府は2030年代早期に8兆円への倍増を目標に掲げ、2025年度の宇宙関連予算は9365億円と10年で約3倍に拡大。2026年度(令和8年度)には初の1兆円超えとなる1兆446億円が計上されました。
しかし、仮に8兆円を達成しても、Novaspaceが見通す2034年の世界の宇宙経済規模(約152兆円)に対するシェアは約5%にとどまり、現在とほとんど変わりません。8兆円はあくまで出発点であり、世界の成長速度を上回らなければ日本の存在感は薄まるいっぽうです。
経済産業省は2026年1月の宇宙産業小委員会(第6回)で、日本の宇宙産業が「宇宙利用・衛星製造・打ち上げ機会が相互に成長を制約し合う構造」にあると指摘しています。打ち上げ回数は2014年の4回から2024年の5回とほぼ横ばいで、同期間に米国は22回から153回、中国は18回から66回へ急増しました。この差は年を追うごとに広がっています。
政府はこの構造を「自律的に成長し続ける構造」へ転換するため、宇宙戦略基金(経産省分累計約3000億円)の第3期公募や、人工衛星・ロケット部品の経済安全保障上の重要物資指定(支援基金146億円)、宇宙分野のR&D税制優遇といった施策を打ち出しています。数値目標として2030年代早期に「年間約30回の打ち上げ」「30以上の衛星データサービスの社会実装」を掲げました。
この目標が実現すれば、量産によるコスト低下が保険料率の改善や民間投資の呼び込みにつながり、さらなる打ち上げ需要を生む好循環が期待できます。逆に達成できなければ、構造的な制約が固定化し、世界との差は開くいっぽうです。
世界では防衛需要を背景に政府支出が1370億ドルに達し、民間投資も2021年以降で最大の回復を見せています。日本はこの「自律的に成長し続ける構造」への転換に向けて動き出したばかりです。
※…本記事で紹介しているSpace Economy Reportの内容は、Novaspaceが無料公開しているブログ記事およびSpaceNewsのプレスリリースをもとに構成しています。レポート本体(Space Economy Report 第12版)は有料となります。
文・編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Novaspace - Global Space Economy 2025: From Expansion to Execution
- SpaceNews - Global Space Economy Reaches $626 Billion, Marking a New Phase of Growth
- 第6回 産業構造審議会 製造産業分科会 宇宙産業小委員会 資料3「民間のイノベーション力を最大限に生かした宇宙産業政策」(2026年1月30日)
























