こちらは、NASA(アメリカ航空宇宙局)のチャンドラX線宇宙望遠鏡などが観測した、ある銀河団の様子。きりん座の方向、地球から約15億5000万光年先にあります。
画像の中央でピンク色に着色された線が、音楽の「ト音記号」のような形を描いているのがわかりますでしょうか?

銀河団とは、数百以上もの銀河と大量の高温ガスを抱える、宇宙でも最大級の構造です。画像の中央に広がる青紫色の雲は、チャンドラと、X線観測衛星「Spektr-RG」に搭載されたX線望遠鏡「eROSITA」が捉えた、数百万度を超える高温のガスです。
そこに重なるピンク色の部分は、ヨーロッパ各地の電波望遠鏡からなる低周波干渉計「LOFAR」が観測した電波源「VLSS J0318.9+5755」です。研究チームはその不思議な形にちなんで、この電波源に「Treble Clef(ト音記号)」という愛称を付けました。
天の川銀河のガスや塵に隠されていた銀河団
イタリア国立天体物理学研究所(INAF)のAndrea Botteon氏を筆頭とする研究チームは、この謎めいた構造の成り立ちを解明することに挑みました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Astronomy & Astrophysics」への掲載が受理されており、プレプリントが「arXiv」で公開されています。
“ト音記号”ことVLSS J0318.9+5755は、地球からは天の川銀河のガスと塵(ダスト)が濃く集まって見える天の川の向こう側に見えます。ガスや塵は天体からの光をさえぎってしまいますが、チャンドラとeROSITAの観測で高温ガスが捉えられたことで、この構造が銀河団の中にあることがわかりました。
また、研究チームによる分析の結果、この銀河団は合体しつつある2つの銀河団で構成されていることも突き止められました。
正体は“ブラックホールが吹き出した荷電粒子と磁場の雲”?
研究チームは、“ト音記号”が2つの段階を経て形づくられた可能性が高いと結論づけました。
まず、銀河団の中心部に位置する超大質量(超巨大)ブラックホールが過去に爆発的な活動を起こし、荷電粒子と磁場からなる雲を光速に近い速さで吹き出したとみられます。超大質量ブラックホールはほとんどの大きな銀河の中心に存在し、その質量は太陽の数十万倍~数百億倍にも達するとみられています。当初、ブラックホールの活動によって吹き出した雲は電波を強く放っていたものの、粒子がエネルギーを失うにつれて電波は弱くなっていったと考えられています。
その後、このブラックホールを含む銀河団ともうひとつの銀河団が衝突しました。研究チームによると、衝突で雲が押し縮められたり、粒子が再びエネルギーを得たりしたことで、雲は再び電波を強く放つようになったとみられます。“ト音記号”として観測されているのは、こうして再び強く放たれるようになった電波だというわけです。
研究チームは今回の結果について、天の川銀河のガスや塵にさえぎられて可視光線やX線では見つけにくい銀河団を、低い周波数の電波で探し出せることを示したものだと述べています。謎めいた“ト音記号”は、これまで見過ごされてきた巨大な銀河団と、そこで起きた衝突の歴史を物語る存在だと言えそうです。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Chandra X-ray Center - NASA's Chandra Breaks Down 'Treble Clef's' Galaxy Cluster Collision
- Botteon et al. - The Treble Clef radio phoenix and its old nonthermal filaments (arXiv)























