
こちらは、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した銀河団「Abell(エイベル)1689」。おとめ座の方向、地球から約22億光年先にあります。

見えない物質を可視化した「質量マップ」
漆黒の宇宙空間に浮かぶ、数え切れないほどの銀河たち。その集団の中心を、紫色のもやが覆っています。
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)によれば、この紫色は実際にこう見えるものではなく、電磁波では直接観測できないダークマター(暗黒物質)の分布を示したもの。銀河団は銀河の集団ですが、そこには目に見えないダークマターもまた大量に集まっているのです。
紫色で示されたダークマターの分布を眺めてみると、その中心に対して弧を描くような細長い光が、いくつも写っているのがわかります。これは、重力レンズ効果(※)によって像が引き伸ばされた、Abell 1689のさらに遠くにあるいくつもの銀河からの光です。Abell 1689のような銀河団には途方もない質量があり、時空間をゆがめて重力レンズ効果を生み出すのです。
※…手前にある天体の大きな質量によって周囲の時空間がゆがみ、その背後にある遠方の天体から発せられた光の経路が曲げられることで、遠方天体の像がゆがんだり拡大して見えたりする現象。
宇宙を押し広げる「ダークエネルギー」に迫る
この画像を作成するのに使われたのは、ハッブル宇宙望遠鏡の「ACS(掃天観測用高性能カメラ)」で取得したデータです。このデータは、美しい天体画像を作りだすだけでなく、現代宇宙論における最大の謎に挑むうえで重要なものとなりました。
2010年に学術誌「Science」に掲載された論文では、Abell 1689の重力レンズ効果による光のゆがみが精密に分析されました。光がどのように曲げられるかは、レンズの役目を果たす銀河団の質量分布だけでなく、光が通過してきた宇宙空間そのものの幾何学的な広がり方にも依存します。
この宇宙は、ダークエネルギー(暗黒エネルギー)と呼ばれる未知の力によって、膨張する速度が加速していると考えられています。研究チームは、重力レンズがもたらしたゆがみをもとに、画像の紫色で示されたダークマターの質量マップを作成しました。さらに、光の軌道を逆算することで、ダークエネルギーが宇宙の広がりに与える影響を幾何学的に測定することに成功しています。
宇宙の歴史をのぞき込む「天然のレンズ」
Abell 1689は、その後も天文学者たちの研究対象として注目され続けています。2014年には、ハッブル宇宙望遠鏡の観測データをもとに、Abell 1689の重力レンズ効果を“天然のレンズ”として利用することで、背後にある初期宇宙の小さな銀河や星団の姿を次々と捉えることに成功したとする研究成果が発表されています。
Abell 1689は、ダークエネルギーの謎への挑戦や、はるか昔の宇宙をのぞき込むための窓として、天文学の最前線で貢献し続けているのです。
冒頭の画像はESA/Hubbleから2010年8月19日付で公開されたもので、ESAのHubble公式SNSアカウントが2026年6月11日に改めて紹介しています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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