
私たちの宇宙は約138億年前に始まったとされていますが、終わりはあるのでしょうか? あるとすれば、それはいつなのでしょうか?
現在の主流の説では、物質の密度が限りなく薄くなる一方で、宇宙そのものは永遠に膨張し続けるため、宇宙そのものには終わりがないとするシナリオが一般的です。
しかし、ドノスティア国際物理センターのHoang Nhan Luu氏などの研究チームは、最新の観測結果を元に推定した結果、この宇宙の寿命は約333億年であり、今から約195億年後には1点に潰れて終わる「ビッグクランチ」を迎えてしまうとする研究結果を公表しました。
ただし現時点では、将来を悲観するのは早すぎな段階であり、文字通りの杞憂に終わる可能性もあります。この研究の元になった数値に現状では大きな幅があるため、ビッグクランチに至るという結論も決定的なものではないためです。私たちの宇宙の運命がはっきりと分かるのは、まだもう少し先になるでしょう。
宇宙が丸ごと潰れる「ビッグクランチ」は古い説?

私たちの宇宙は、決して不変の存在ではなく、膨張し続けていることが知られています。この膨張を逆回しにすると、宇宙は約138億年前に1点からスタートしたことになります。これは「ビッグバン」宇宙論として知られています。
では、この宇宙の膨張は今後どうなっていくのでしょうか?
およそ30年前まで、科学者は宇宙の膨張に関与する力は重力しか知らなかったため、宇宙の膨張速度は段々と減速するだけであると予想していました(※1)。その場合、宇宙の膨張は停止するか、もしくは収縮に転じるかの2通りの運命が考えられます。
このうち、収縮に転じる宇宙は、ビッグバンの逆回しであるかのように1点に潰れてしまうことが予測されています。これは「ビッグクランチ」と呼ばれており、宇宙の終わり方の1つに数えられています(※2)。
※1…力以外では、宇宙の曲率(宇宙の “形” )も膨張速度を加速・減速させることが理論的に示されています。しかし、宇宙の曲率は測定不能なほど小さく、影響度はほぼゼロであることが分かっています。
※2…ビッグクランチの後、再び反転する「ビッグバウンス」を予測する宇宙論もあるため、宇宙そのものは終わりを迎えないという考え方もありますが、今回は「私たちが今いる宇宙」に絞って話を進めます。

ところが1998年になり、宇宙の膨張は減速しているどころか、途中から加速していることが観測により示されました。このような現象を説明するためには、重力よりずっと強く、重力と反対向きに作用している力の存在を仮定しなければなりません。この力の源として提案されているのが「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」です。
暗黒エネルギーの詳細な性質に関する解説は、過去に配信した『暗黒エネルギーは弱くなっている? 宇宙を膨張させる不思議な力の最新事情』をご覧ください。今回の解説に必要な要点は以下の通りとなります。
これまで、暗黒エネルギーによる力の強さは、膨張する宇宙では強くなっても弱くなることはないと予測されていました。これは、宇宙の膨張は暗黒エネルギーの総量を増やし、宇宙全体での暗黒エネルギーによる力を強くするためです。
この場合、宇宙の膨張は永遠に続き、時間と共に加速していくことでしょう。一方で、宇宙の中の物質同士の距離は広がり、限りなく薄くなるため、最終的にはスカスカな宇宙が出来上がります。
物質の最終的な運命は様々な説がありますが、一般的には「1の後に0が100個ほど付く年数が経過すると、それ以上の変化が起きない宇宙になる」と予測されています。この場合、宇宙の中身には時間的な終わりがありますが、宇宙という存在そのものに終わりはないと捉えることができます。
いずれにしても、宇宙の加速膨張が発見されて以降、ビッグクランチという終焉は、宇宙物理学の主要な議題には載らない、古い仮説としての扱いを受けてきました。
今の宇宙の残り時間は195億年?


しかし今回、ドノスティア国際物理センターのHoang Nhan Luu氏などの研究チームは、古い仮説であったはずのビッグクランチが復活するかもしれないという研究結果を発表しました。この研究の基盤となっているのは、2025年3月に発表された「暗黒エネルギー分光装置(DESI; Dark Energy Spectroscopic Instrument)」による観測結果です。
DESIは宇宙の銀河の分布を詳細に観測し、その分布構造から暗黒エネルギーの強さを推定します。DESIによる観測の結果、現在の宇宙の暗黒エネルギーの強さは、約45億年前(宇宙誕生から約93億年後)と比べて約10%も弱くなっていることが示唆されました。つまり、暗黒エネルギーは決して弱くならないという従来の考えは、実際には間違っている可能性があります。
Luu氏らはこのDESIの結果を踏まえ、暗黒エネルギーが弱くなることを説明する理論の構築と、宇宙の運命を予測した2本のプレプリントを発表しました。特に、宇宙の運命に言及した2本目のプレプリントはとても興味深い内容です。また、この2本目のプレプリントは、本記事の執筆時点で査読付きの学術誌『Journal of Cosmology and Astroparticle Physics』誌への掲載が承認されています。
DESIによる観測結果と、暗黒エネルギーが弱くなる理論的背景を組み合わせると、暗黒エネルギーの強さはこの先もどんどん弱くなるとLuu氏らは考えています。このまま行けば、宇宙の膨張速度は減速するだけでなく、いつかは収縮するでしょう。

Luu氏らは、私たちの宇宙は今から約110億年後(宇宙誕生から約248億年後)までは膨張し続けると予想しています。この時、宇宙の大きさは現在の約1.69倍(直径約1兆5700億光年)まで拡大しているでしょう。
その後の宇宙は急速に収縮し、今から約195億年後(宇宙誕生から約333億年後)にビッグクランチを迎えるとLuu氏らは予想しています。つまり、私たちの宇宙は丸ごと終わりを迎える可能性があり、しかもその時期は案外早いかもしれないということです。
滅亡の心配はまだ時期尚早
とはいえ、今のところは200億年後の滅びを心配するには早すぎます。人類は無事に22世紀を迎えられるのかという直近の問題もありますが、Luu氏らが示したこの “黙示録” はまだ決定事項であるとは言えず、文字通り杞憂で終わる可能性があるためです。
確かに、DESIによる観測結果は精度が高く、「暗黒エネルギーは少しずつ弱くなっている」ことを示す最も確度の高い証拠です。ただしその確かさは、この研究分野において確定と言える水準には達しておらず、覆される余地も十分にあります(※3)。このため、私たちの宇宙がビッグクランチを迎えるかどうかについて、Luu氏らは不確実であることを認めています。
※3…標準偏差で言えば、少なくとも5σを満たす必要があります。しかし、2025年3月のDESIによる結果は2.8~4.2σに留まります。
いずれにしても、この未来予測が正しいのか、それとも的外れであるかどうかは、今後の研究で決定されます。DESIを始めとして、いくつかの観測プロジェクトが、暗黒エネルギーの性質を正確に探ることに利用されます。今後数年の観測によって、暗黒エネルギーの性質がさらに理解され、そしておそらくは、この宇宙がビッグクランチを迎えるかどうかについてもはっきりと分かるようになるでしょう。
ひとことコメント
今は200億年後の心配をするよりも、目の前にある課題の解決に取り組んだ方が良いと思う!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Hoang Nhan Luu, Yu-Cheng Qiu & S.-H. Henry Tye. “The Lifespan of our Universe”.(arXiv)
- Hoang Nhan Luu, Yu-Cheng Qiu & S.-H. Henry Tye. “Dynamical dark energy from an ultralight axion”.(arXiv)
- Mark Thompson. “If Dark Energy is Decreasing, is the Big Crunch Back on the Menu?”.(Universe Today)