ポルトガル天体物理・宇宙科学研究所(IA)のJoão Fariaさんを筆頭とする研究グループは、太陽から最も近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」を公転する新たな太陽系外惑星の候補に関する研究成果を発表しました。プロキシマ・ケンタウリではこれまでに2つの系外惑星が報告されており、今回の成果はプロキシマ・ケンタウリにおける3個目の系外惑星発見につながるかもしれません。
関連記事:太陽系に最も近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」へのバーチャルツアー
最小質量は地球の約4分の1と推定、視線速度法で検出された惑星では最軽量か
プロキシマ・ケンタウリは「ケンタウルス座」の方向約4.24光年先にある赤色矮星で、太陽に似た2つの恒星「ケンタウルス座アルファ星A」「ケンタウルス座アルファ星B」とともに三重連星を成しています。プロキシマ・ケンタウリの質量は太陽の約0.12倍と軽く、表面温度も摂氏約2700度という低温で小さな恒星です。
この星では2016年にハビタブルゾーンを公転する系外惑星「プロキシマ・ケンタウリb」が見つかっており、2020年にはその外側を公転しているとみられる別の系外惑星「プロキシマ・ケンタウリc」が報告されています。
推定される質量は地球と比べてプロキシマ・ケンタウリbが約1.29倍以上、プロキシマ・ケンタウリcが7倍前後。公転周期はプロキシマ・ケンタウリbが約11.2日、プロキシマ・ケンタウリcが約5.2年とされています。
関連記事:太陽に一番近い恒星「プロキシマ・ケンタウリ」で新たにスーパーアースを発見
惑星候補は「プロキシマ・ケンタウリd」
今回報告された新たな系外惑星候補は「プロキシマ・ケンタウリd」と呼ばれています。研究グループによると、推定されるプロキシマ・ケンタウリdの最小質量は地球の約0.26倍。この質量は「とびうお座」の方向約35光年先にある系外惑星「L 98-59b」(質量は地球の約40パーセント)を下回っており、「視線速度法」(ドップラーシフト法とも、詳しくは後述)を用いて検出された系外惑星としては、これまでで最も軽い可能性があります。
関連記事:35光年先の系外惑星を詳細に観測、ハビタブルゾーン内に新たな惑星が存在か
実は、プロキシマ・ケンタウリdが存在する可能性は、研究グループが過去に実施した観測でも示されていました。2019年にヨーロッパ南天天文台(ESO)の「超大型望遠鏡(VLT)」に設置されている分光観測装置「ESPRESSO」を使ってプロキシマ・ケンタウリを観測した研究グループは、その3年前に報告されたプロキシマ・ケンタウリbの存在を再確認すると同時に、その内側を5日強で公転する別の惑星の存在を示唆する信号を見出していたのです。
関連:地球に似た系外惑星プロキシマ・ケンタウリb、発見当時の4倍の精度で再観測
今回の成果は、ESPRESSOを用いた追加観測に支えられています。観測データを分析した研究グループは、検出された信号がプロキシマ・ケンタウリ自身の活動に由来するものではなく、約5.12日周期で公転するプロキシマ・ケンタウリdの影響によるものであると結論付けました。小さな惑星が主星にもたらす影響はわずかなもので、発表によると、公転するプロキシマ・ケンタウリdの影響によるプロキシマ・ケンタウリの視線方向の移動速度は、秒速約40cm(時速1.44km)とされています。
ただし、プロキシマ・ケンタウリdはまだ系外惑星候補の段階であるため、今後の追加観測による確認が待たれます。なお、プロキシマ・ケンタウリdはハビタブルゾーンよりも内側を公転しており、表面の平衡温度が摂氏約90度に達する可能性を研究グループは指摘しています。
太陽系外惑星の名前のアルファベットが示すもの
ちなみに、系外惑星の名前は主星の名前に小文字のアルファベットを付与することで命名されています(※)。アルファベットは主星からの距離や発見された順番に応じて「b」から順に「c」「d」「e」……と付与されていくのですが、同じ星系で後から別の系外惑星が見つかっても命名済みの名前は変更されないため、アルファベットの順番と主星からの距離が必ずしも一致するとは限りません。
今回報告されたプロキシマ・ケンタウリdは、プロキシマ・ケンタウリで3番目に見つかった系外惑星なので「d」が付与されています。が、先に見つかっていたプロキシマ・ケンタウリbよりも内側を公転しているとみられるため、少しややこしいのですが、プロキシマ・ケンタウリに近いものから順に惑星を並べると「d」「b」「c」となります。
※…一部の系外惑星には国際天文学連合(IAU)が世界各国から募集した名前が付けられています(例:系外惑星HD 145457 bの名称「Chura(ちゅら)」)
関連:太陽系外惑星命名キャンペーン結果発表。恒星は「カムイ」系外惑星は「ちゅら」に
「視線速度法」や「トランジット法」とは
「視線速度法(ドップラーシフト法)」とは、系外惑星の公転にともなって円を描くようにわずかに揺さぶられる主星の動きをもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。
惑星の公転にともない主星が揺れ動くと、光の色は主星が地球に近付くように動く時は青っぽく、遠ざかるように動く時は赤っぽくといったように、周期的に変化します。こうした主星の色の変化は、天体のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)を得る分光観測を行うことで検出することができます。
▲系外惑星の公転にともなって主星のスペクトルが変化する様子を示した動画▲
(Credit: ESO/L. Calçada)
もう一つの「トランジット法」とは、系外惑星が主星(恒星)の手前を横切る「トランジット(transit)」を起こした際に生じる主星の明るさのわずかな変化をもとに、系外惑星を間接的に検出する手法です。アメリカ航空宇宙局(NASA)の系外惑星探査衛星「TESS」などは、この手法を用いて系外惑星の探査を行っています。
繰り返し起きるトランジットを観測することで、その周期から系外惑星の公転周期を知ることができます。また、トランジット時の主星の光度曲線(時間の経過にあわせて変化する天体の光度を示した曲線)をもとに、系外惑星の直径や大気の有無といった情報を得ることも可能です。
▲系外惑星のトランジットによって恒星の明るさが変化する様子を示した動画▲
(Credit: ESO/L. Calçada)
Source
- Image Credit: ESO/L. Calçada
- ESO - New planet detected around star closest to the Sun
- IAC - A sub-Earth confirmed in the planetary system of the closest star to the Sun
- Faria et al. - A candidate short-period sub-Earth orbiting Proxima Centauri
文/松村武宏
Last Updated on 2024/10/18