JAXA、「H3」ロケット“30形態”の燃焼試験を実施予定 固体ロケットブースターを使わない形態

JAXA=宇宙航空研究開発機構は2025年5月8日、「H3」ロケット6号機の燃焼試験に関する記者説明会を開催しました。

固体燃料ロケットブースターを使わない「30形態」の初飛行に向けて

2023年3月に初飛行したH3ロケットは、試験機1号機が搭載衛星の軌道投入に失敗したものの、2024年2月の試験機2号機から2025年2月の5号機まで4回連続で打ち上げに成功しています。これまでの5機はいずれも「H3-22S」と呼ばれる形態(22形態)の、1段目エンジン「LE-9」2基・固体燃料ロケットブースター「SRB-3」2基・ショートフェアリングの構成が採用されていました。

一方、次に打ち上げられる6号機は「H3-30S」の形態(30形態)で打ち上げられます。H3-30Sは1段目エンジン3基・固体燃料ロケットブースターなし・ショートフェアリングという構成です。H3ロケットの機体形態のなかでも最も打ち上げコストが低い形態とされています。

記者説明会で質問に答えるH3プロジェクトチームの有田誠プロジェクトマネージャー。向かって左隣にはH3-30S形態の模型が置かれている。JAXAのライブ配信から
【▲ 記者説明会で質問に答えるH3プロジェクトチームの有田誠プロジェクトマネージャー。向かって左隣にはH3-30S形態の模型が置かれている。JAXAのライブ配信から(Credit: JAXA)】

H3-30Sは日本の大型ロケットとしては初めて液体燃料ロケットエンジンだけでリフトオフする構成であり、実績のあるH3-22Sとは1段目エンジンの数も異なることから、6号機はシステムレベルの刷新をともなう試験機とされています。正式名称は「H3ロケット6号機(30形態試験機)」で、通算6機目であることと、H3-30Sの試験機であることが示されています。

これまでH3-30Sに関しては2020年1月に厚肉タンクステージを用いた燃焼試験「BFT(Battleship Firing Test)」が行われていました。BFTはステンレスを用いた頑丈なタンクを用いる燃焼試験であり、アルミニウム合金を用いる実際のタンクとは異なります。

そこで、2025年度内の打ち上げを前に、JAXAはH3-30S形態1段目の実機型タンクステージを用いた燃焼試験「CFT(Captive Firing Test)」の実施を予定しています。BFTは秋田県にある三菱重工業の田代試験場で行われましたが、CFTは2022年11月の試験機1号機の時と同様に、鹿児島県の種子島宇宙センターで行われます。

2020年1月に実施された「LE-9」エンジン3基形態での1段厚肉タンクステージ燃焼試験の様子
【▲ 2020年1月に実施された「LE-9」エンジン3基形態での1段厚肉タンクステージ燃焼試験の様子(Credit: JAXA)】

地上設備にも新たな機構を採用

初めてのH3-30Sの飛行となる6号機では、1段目エンジンや固体燃料ロケットブースターの数といった機体側の相違点だけでなく、地上設備側にも違いがあります。

錘となる固体燃料ロケットブースターが装着されないH3-30Sでは、移動発射台に機体を固定しておくために「ホールドダウンシステム」と呼ばれる装置が使用されます。ホールドダウンシステムは、機体側の4か所に設けられた金具を押さえつけておくための、発射台側の機構です。1段目エンジンの推力が正常に上昇したことが検知されると、ホールドダウンシステム側で火工品の分離ナットが作動して、機体の拘束が解除されます。CFTでは機体は飛行しませんが、エンジンは実際に点火されるため、機体が飛び上がってしまわないようにホールドダウンシステムで発射台に留めておく必要があります。

また、6号機のCFTでは「機体把持装置」の試験も行われます。機体把持装置はタンクに推進剤を充填する前の軽い機体が風の影響を受けにくくするための装置です。移動発射台に取り付けられていて、1段目の中央部(液体水素タンクと液体酸素タンクの間にあたる部分)を両側からはさみ込むように把持して機体を支えます。推進剤の充填が完了したら把持を解除し、機体把持装置が退避した状態で打ち上げが行われます。H3-30Sの打ち上げに必須の設備ではありませんが、「極低温の推進剤を充填する」ものの「打ち上げを行わない」6号機のCFTにあわせて、試験を行うということです。

超小型衛星の搭載環境向上を目指した取り組みも

試験機である6号機には主なペイロードとして「性能確認用ペイロード(VEP)」が搭載されます。東京科学大学の「うみつばめ(PETLEL)」、静岡大学の「STARS-X」など6機の超小型衛星も搭載される予定ですが、これらは副衛星の位置付けです。

2024年2月に打ち上げられた試験機2号機も性能確認用ペイロードとともに副衛星が搭載されましたが、6号機では副衛星の衝撃環境条件を緩和するために、超小型衛星搭載用のリング形状のアダプタが使用されます。試験機2号機では小型ロケットと比べて衝撃レベルが高かったといい、6号機では複数衛星の搭載に向けた技術知見の獲得も目指すとされています。

なお、H3ロケット6号機の打ち上げは、日本時間2025年6月24日に予定されている「H-IIA」ロケット50号機の打ち上げと、CFT後の機体の再整備を経た後になるということです。

 

文・編集/sorae編集部

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参考文献・出典