JAXA月探査機SLIM続報 6回目の越夜後も応答なし/NASA月周回衛星が再帰反射器からのレーザー光検出に成功
【▲ 小型月着陸実証機「SLIM」から放出された探査ロボット「LEV-2(SORA-Q)」のカメラで撮影された画像。大きく傾きつつ接地した状態のSLIMが右奥に写っている。画像は試験画像で、もう1機の探査ロボット「LEV-1」経由の試験電波データ転送により取得されたもの(Credit: JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学)】

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2024年7月29日(日本時間・以下同様)、X(旧Twitter)の小型月着陸実証機「SLIM」プロジェクト公式アカウントにて、6回目の夜を越したとみられるSLIMとの通信を試みたものの、電波を受信できなかったことを明らかにしました。【最終更新:2024年7月31日14時台】

■2024年5月と6月に続いて7月も応答なし 今後の運用は議論中

【▲ 参考画像:小型月着陸実証機「SLIM」から放出された探査ロボット「LEV-2(SORA-Q)」のカメラで撮影された画像。大きく傾きつつ接地した状態のSLIMが右奥に写っている。画像は試験画像で、もう1機の探査ロボット「LEV-1」経由の試験電波データ転送により取得されたもの(Credit: JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学)】
【▲ 参考画像:小型月着陸実証機「SLIM」から放出された探査ロボット「LEV-2(SORA-Q)」のカメラで撮影された画像。大きく傾きつつ接地した状態のSLIMが右奥に写っている。画像は試験画像で、もう1機の探査ロボット「LEV-1」経由の試験電波データ転送により取得されたもの(Credit: JAXA/タカラトミー/ソニーグループ(株)/同志社大学)】

SLIMは2024年1月20日0時20分頃に日本の探査機として初めて月面へ軟着陸することに成功しましたが、2基搭載されているメインエンジンの1基で着陸直前に生じたトラブルによって想定外の速度や姿勢で接地することになったため、機体は太陽電池を西に向けて逆立ちしたような姿勢で安定しています。

着陸直後に電力を得られなかったSLIMは一旦休眠状態に置かれましたが、太陽光が西から当たって太陽電池から電力を得られるようになった2024年1月28日以降は「マルチバンド分光カメラ(MBC)」による岩の観測が行われ、着陸地点が夜を迎えることから1月31日に再び休眠状態に入りました。MBCは月のマントルに由来するかんらん石(橄欖石)を含んだ岩の分光観測(電磁波の波長ごとの強さであるスペクトルを得るための観測)を目的としてSLIMに搭載された観測装置で、実際にかんらん石を示すデータが得られていたことが明らかになっています。

【▲ 参考画像:SLIMのマルチバンド分光カメラ(MBC)で電力回復後に取得された月面スキャン画像(モザイク合成)。観測候補の岩石に付けられた愛称が示されている。2024年2月1日公開(Credit: JAXA、立命館大学、会津大学)】
【▲ 参考画像:SLIMのマルチバンド分光カメラ(MBC)で電力回復後に取得された月面スキャン画像(モザイク合成)。観測候補の岩石に付けられた愛称が示されている。2024年2月1日公開(Credit: JAXA、立命館大学、会津大学)】

その後、SLIMは2024年2月25日に1回目の越夜(夜を越すこと)に成功し(3月1日未明から休眠)、3月27日には2回目の越夜に成功(3月30日未明から休眠)、4月23日には3回目の越夜に成功(4月29日未明から休眠)したことがそれぞれ確認されています。

しかし、4回目の越夜を終えて電力が回復したと想定される2024年5月24日夜から27日夜にかけての運用ではコマンドの送信に対してSLIMからの応答はなく、5月の運用はそのまま終了。続いて5回目の越夜を終えた2024年6月21日夜から27日夜にかけて再度通信が試みられたものの、SLIMからの電波は確認されていませんでした。

SLIMプロジェクトによると、6回目の越夜を終えた2024年7月24日と7月25日にも改めて通信を試みたものの、SLIMからの電波は受信されませんでした。SLIMはもともと越夜を想定して設計されてはおらず、目標としていたデータは最初の夜を迎える前にすべて取得することができたとされています。今後のSLIMの運用については議論中だということです。

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■NASA月周回衛星がSLIMのレーザーリトロリフレクターで反射したレーザー光を検出

また、アメリカ航空宇宙局(NASA)は2024年7月29日付で、NASAの月周回衛星「Lunar Reconnaissance Orbiter(LRO、ルナー・リコネサンス・オービター)」のレーザー高度計「LOLA」がSLIMに搭載されたレーザーリトロリフレクター(再帰反射器)「LRA(Laser Retroreflector Array)」に反射されたレーザー光を検出することに成功したと発表しました。

【▲ SLIMに搭載されたものと同じアメリカ航空宇宙局(NASA)のレーザーリトロリフレクター(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)】
【▲ SLIMに搭載されたものと同じアメリカ航空宇宙局(NASA)のレーザーリトロリフレクター(Credit: NASA’s Goddard Space Flight Center)】

SLIMプロジェクトによると、レーザーリトロリフレクターはNASAとの国際協力の一環として搭載されたもので、NASAがクッキーサイズと表現する直径5cmのフレームに8つのコーナーキューブプリズムが組み込まれています。

取り付け位置は背面の太陽電池の隣で、2段階着陸が予定通り行われた場合には着陸地点の天頂方向に面する場所です。しかし、前述の通りSLIMは逆立ちするような姿勢になっているため、レーザーリトロリフレクターも太陽電池と同じ西を向いていることになります。加えて、LROのLOLAは月面の標高を計測して詳細な地形を調査するために開発された機器であり、クレーターや岩を検出することには向いているものの、小さなレーザーリトロリフレクターにレーザー光を当てることには不向きです。

【▲ SLIMのレーザーリトロリフレクター搭載位置を示した図(Credit: JAXA)】
【▲ SLIMのレーザーリトロリフレクター搭載位置を示した図(Credit: JAXA)】

そこで、LROのチームはJAXAと協力してSLIMの正確な位置と姿勢を特定し、LOLAのレーザービームがSLIMのレーザーリトロリフレクターに到達する可能性が最も高い軌道を予測。1回目から8回目までの試みは上手く行かなかなったものの、2024年5月24日にSLIMの上空約70kmから2回レーザー光を照射したところ、反射したレーザー光を検出することに成功したということです。

なお、SLIMに搭載されたものと同じレーザーリトロリフレクターは2023年8月に月へ着陸したインド宇宙研究機関(ISRO)の月着陸機「Vikram(ビクラム、ヴィクラム)」にも搭載されていて、LROのLOLAは2023年12月12日以降4回のレーザー光検出に成功しています。レーザーリトロリフレクターそのものは電力やメンテナンスが不要なので、今後数十年にわたって信頼性の高いビーコンとして機能することが期待されています。

 

Source

  • 小型月着陸実証機SLIM (X)
  • NASA - NASA, JAXA Bounce Laser Beam Between Moon’s Surface and Lunar Orbit
  • NASA - Laser Instrument on NASA’s LRO Successfully ‘Pings’ Indian Moon Lander

文・編集/sorae編集部