金星探査機「あかつき」の観測データをもとに作成された金星の画像(疑似カラー。Credit: PLANET-C Project Team)

【▲金星探査機「あかつき」の観測データをもとに作成された金星の画像(疑似カラー。Credit: PLANET-C Project Team)】

2020年9月、カーディフ大学のJane Greavesさんを筆頭とする国際研究グループは、金星の大気中でホスフィン(リン化水素、PH3)が検出されたとする研究成果を発表しました。地球におけるホスフィンは(人類の文明活動に関連するものを除けば)嫌気性微生物によって生成される生命活動に由来した物質であり、岩石惑星において生命が関与せずにホスフィンが生成されるプロセスは知られていなかった(※)ことから、この発見は金星に生命が存在する可能性を示すのではないかとして注目を集めました。

ホスフィンの発見を巡っては賛否両論あり、過去の金星探査ミッションにおける観測データを再検証したところホスフィンの兆候が捉えられていたとするものや、金星で火山活動が起きていれば非生物的にホスフィンが生成される可能性があるとするもの、金星大気中の二酸化硫黄に由来する信号をホスフィンだと誤って解釈したとするものなどが相次いで発表されています。

※…木星や土星では高温・高圧な内部において非生物的なプロセスで生成されたとみられるホスフィンが検出されています

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金星にホスフィンは存在するのかしないのか、存在するのであればそれは生命に由来するのか。今、その謎に迫るためのミッションが計画されており、打ち上げに向けて準備が進められています。マサチューセッツ工科大学(MIT)のSara Seager教授が主任研究員を務める「Venus Life Finder」は、金星の大気中に生息しているかもしれない生命の兆候を探すことを目的とした金星探査ミッションです。

議論の発端となったGreavesさんの研究にも参加したSeagerさんは、金星の雲を構成する水滴(主成分は硫酸)の内部に微生物が生息すると仮定し、そのライフサイクル(生活環)を予想した研究成果を発表しています。Seagerさんによると、仮想の微生物は硫酸の水滴に含まれる水大気中の元素、金星の表面から舞い上がった塵に含まれるミネラル、豊富な太陽エネルギーを利用して、硫酸の水滴中で増殖している可能性があるというのです。

仮想の微生物のライフサイクルを示した図。1~5の各ステップについては本文を参照(Credit: Seager et al.)

【▲仮想の微生物のライフサイクルを示した図。1~5の各ステップについては本文を参照(Credit: Seager et al.)】

Seagerさんが考える仮想の微生物は、次のようなライフサイクルを繰り返すと想定されています(数字は上の図に対応)。微生物は気温が高い雲の下では乾燥した胞子として休眠しながら漂います(1)。この胞子が気流に乗って上昇(2)すると、胞子を凝結核として水滴の形成がスタート(3)。高度が上がって快適な気温になると微生物は休眠から覚醒し、成長する水滴内で増殖(4)。やがて大きく重くなった水滴が落下すると、微生物は再び胞子を形成して休眠し(5)、気温が高い雲の下から上昇気流に乗って脱する時を浮遊しながら待ち続けます(1に戻る)。

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Seagerさんたちのミッションでは、この仮想の微生物のライフサイクルが考慮されています。「もしも金星に生命が存在するのであれば、それはある種の微生物であり、ほぼ確実に雲の粒子の中にいるはずです」とSeagerさんは語ります。

計画されている最初のミッションでは、重量約15kgのプローブ(突入観測機)が金星の大気圏に突入。3分~10分間という短い時間ではあるものの、プローブは金星の雲を構成する水滴の内部で複雑な化学反応が生じている兆候を探したり、純粋な硫酸であれば球形になるはずだという水滴の形状を測定したりします。

その次以降のミッションでは気球を備えたより大きなプローブを大気圏に突入させ、数日~数か月間に渡って滞空しながら探査活動を行うことも計画されており、将来的には金星大気のサンプルを地球へ持ち帰ることも構想されています。

ロケットラボの「エレクトロン」ロケット(Credit: Sam Toms and Simon Moffatt)

【▲ロケットラボの「エレクトロン」ロケット(Credit: Sam Toms and Simon Moffatt)】

MITによると、気球を持たない小型のプローブを突入させる最初のミッションは2023年の打ち上げが予定されています。打ち上げに使われるのはロケットラボの「エレクトロン(Electron)」ロケットで、約5か月間を要する金星への飛行は同社の小型衛星プラットフォーム「フォトン(Photon)」が担います。また、気球を備えたプローブによる次の探査も2026年に予定されているといいます。

アメリカ航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)は2020年代後半~2030年代初頭にかけて金星探査ミッション「VERITAS」「DAVINCI+」(NASA)や「EnVision」(ESA)の開始を予定していますが、これらのミッションは生命の探査を主軸としたものではありません。

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Seagerさんは、複数の探査ミッションが行われている火星と比較して、特に生命探査の点で金星は注目されていなかったと指摘します。Seagerさんたちのミッションが実施されれば、早ければあと数年で、金星に生命が存在する可能性を論じる上で重要な発見がもたらされることになるかもしれません。

 

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Image Credit: Seager et al.
Source: MIT / RocketLab
文/松村武宏