やはり金星にはホスフィンが存在する? 40年以上前の観測データを分析した研究成果
プローブを切り離した金星探査機「パイオニア・ヴィーナス2号」を描いた想像図(Credit: NASA/ Paul Hudson)
プローブを切り離した金星探査機「パイオニア・ヴィーナス2号」を描いた想像図(Credit: NASA/ Paul Hudson)

カリフォルニア州立工科大学ポモナ校のRakesh Mogul氏らの研究グループは、1978年に取得されたアメリカ航空宇宙局(NASA)の金星探査機による観測データを再評価したところ、金星の大気中にホスフィンをはじめとした生命活動にも関連した化学物質の存在を示す兆候が見つかったとする研究成果を発表しました。

■2020年に発表されたホスフィンの検出を支持する成果

地球の自然界におけるホスフィン(リン化水素、PH3)は嫌気性の微生物によって生成される生命活動に由来する物質です。木星や土星では高温・高圧な内部で非生物的な過程で生成されたとみられるホスフィンが検出されていますが、地球や金星のような岩石惑星において生物が関与せずにホスフィンが生成される過程は知られていません。

2020年9月、カーディフ大学のJane Greaves氏らの研究グループは金星の大気からホスフィンが検出されたとする研究成果を発表しました。Greaves氏らによると、ハワイの「ジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡(JCMT)」やチリの「アルマ望遠鏡」といった電波望遠鏡で金星を観測したところ、大気中に20ppb(10億分の20)の割合でホスフィンが存在することが判明したといいます。

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金星は地表の温度が摂氏約480度、気圧が約90気圧と過酷な環境ですが、高度50~60km付近の大気中は気温などの条件から生命が存続できるのではないかと考えられています。検出されたホスフィンは未知の非生物的な反応で生成された可能性もあるものの、生命の存在を示しているかもしれないとして注目されています。

今回Mogul氏らは1978年8月に打ち上げられたNASAの金星探査機「パイオニア・ヴィーナス2号」による観測データを分析しました。パイオニア・ヴィーナス2号では金星の大気圏に突入した合計4基(大型1基、小型3基)のプローブと探査機本体による大気の観測が行われており、小型プローブの1基は落下時の衝撃にも耐えて約67分に渡り地表からデータを送信することにも成功しています。

研究グループによると、パイオニア・ヴィーナス2号の大型プローブに搭載されていた中性ガス質量分析器(Neutral Mass Spectrometer)の観測データを分析した結果、金星大気の中層においてホスフィン、硫化水素、亜硝酸、硝酸、シアン化水素、一酸化炭素、エタンといった化学物質の存在を示唆する兆候が見つかったといいます。

2020年9月のGreaves氏らによるホスフィン検出の発表には反証も出されていて、ワシントン大学のAndrew Lincowski氏らはアルマ望遠鏡などによる観測結果がホスフィンではなく二酸化硫黄でも説明できると指摘しています。いっぽうMogul氏らによる今回の研究成果は、金星の大気にホスフィンが存在する可能性を支持するものとなっています。

Mogul氏らは現在NASAで検討されている金星探査ミッション「DAVINCI+」に言及した上で、将来の探査によって金星大気中のガスやエアロゾルの組成が解明されることに期待を寄せています。

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Image Credit: NASA/ Paul Hudson
Source: カリフォルニア州立工科大学ポモナ校 / ワシントン大学 / NASA
文/松村武宏