「あかつき」の観測データをもとに作成された金星の画像(Credit: JAXA / ISAS / DARTS / Damia Bouic)

金星は「宵の明星」や「明けの明星」として古くから親しまれてきましたが、その地表は気温が摂氏およそ480度気圧がおよそ90気圧と過酷な環境。人間の生存はもちろん、無人の探査機でさえも活動が困難な場所です。いっぽう、中層から下層の雲は気温や気圧が地表ほど過酷ではなく、大気中に生命が存在する可能性も指摘されています。今回、金星の大気に生息するかもしれない生命のライフサイクル(生活環)を想定した研究成果が発表されています。

■金星の雲の中で増殖し、雲の下で休眠する生命体を想定

Sara Seager氏(MIT:マサチューセッツ工科大学)らの研究グループが想定したのは、硫酸を主成分とした金星の雲を構成する水滴の中に生息する仮想の「微生物」のライフサイクルです(あくまでも仮想であり、実際に見つかったわけではありません)。研究グループでは、金星の大気は摂氏25度における相対湿度が約0.07パーセントに相当するほど乾燥していることから、生命が存在するのであれば水滴に含まれる水(体積比で平均15パーセント、残りは硫酸)を利用するだろうと考えています。

仮想の微生物のライフサイクルを示した図。1~5の各ステップについては本文を参照(Credit: Seager et al.)

研究グループが示した仮想の微生物のライフサイクルを簡単に説明すると、以下のようなステップを繰り返すとされています。

1. 金星の雲の下、もやが立ち込める高温の大気中では「胞子」の状態で休眠しながら浮遊。
2. 上昇気流に乗った胞子が増殖に適した気温の層へと運ばれる。
3. 胞子を凝縮核として水滴が形成され始め、条件の整った胞子が休眠から目覚める
4. 目覚めた微生物は成長し続ける水滴の中で増殖する。
5. 大きく成長して重くなった水滴はやがて落下。温度の上昇と水滴の蒸発が細胞分裂胞子の形成を促す。小さな胞子は地表へ落ちることなく、もやの層を浮遊する。

研究グループによると、金星の大気中には地球の生命に欠かせない6種類の元素(水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄)が二酸化炭素、窒素分子、二酸化硫黄などの形で存在しており、不足している金属元素も地表から舞い上がった塵から得られる可能性があるといいます。また、大気中の微生物は太陽からの豊富なエネルギーを利用した光合成を行うはずであり、金星の雲に存在するとされる未知の紫外線吸収物質との関連性を研究グループは指摘しています。

ただし、雲を構成する水滴は成長すると重くなるため落下してしまいます。研究グループによると、金星の高度48~60kmは生命の存続も可能とされているものの、これよりも低い高度では気温の上昇にともない水滴も蒸発してしまうため、何らかの手段で過酷な環境を乗り切る必要があるとのこと。研究グループは乾眠状態に入ることができるクマムシなどの地球の生物を例に、微生物が胞子を形成して高温の大気中を休眠状態のまま浮遊し、上昇気流に乗って再び雲が形成される高度に運ばれるまで待ち続けることを想定しています。

とはいえ、気温や気圧が生命の存続を許す条件だったとしても、硫酸が主成分の雲は酸性度が非常に高い環境であり、水滴中の水も硫酸の分子と強く結びついた状態にあるといいます。もしも金星の大気中に生命が生息していれば、強い酸性の環境非常に少ない水、そして乏しい栄養素という厳しいハードルを乗り越えた存在ということになります。

■金星の地表で誕生した生命が起源の可能性も

研究グループは、今回ライフサイクルを想定した仮想の「金星の大気中に生息する微生物」の起源についても言及しています。地球や火星を含む太陽系内の他の天体から飛来した隕石によってもたらされたり、最初から雲の中で誕生したりすることも考えられるものの、起源として最もあり得るのは「金星の地表で誕生した生命」だといいます。

現在の金星の地表は冒頭で触れたように高温・高圧の環境ですが、場合によってはおよそ7億年前まで地表に生命が生息可能だったかもしれないとする研究成果が2016年に発表されています。過去に地表で誕生した生命の一部が金星の大気中を漂うようになり、環境が変化してからは大気中での生息に適応する可能性がある、というわけです。

研究に参加したSukrit Ranja氏(MIT)はAstronomyに対して「金星における生命体の可能性は検証できる仮説であり、リソースを投じるべきかを論じる価値があります」とコメントを寄せています。

 

Image Credit: Seager et al.
Source: Astrobiology / Astronomy
文/松村武宏

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