宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2月29日、2月17日に種子島宇宙センターからH-IIAロケット30号機で打ち上げられた、X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)について、ロケットから衛星が分離した後に衛星の一連の健全性を確立する「クリティカル運用期間」が正常に終了したと発表した。
クリティカル運用期間では、衛星の太陽電池パドル等の展開、姿勢制御機能、冷却システム立ち上げ完了、軟X線分光検出器の試験動作、伸展式光学ベンチの伸展、また衛星を追跡管制する地上系設備の機能の確認など、重要なシーケンスが実施された。
現在、衛星の状態は正常だという。
また打ち上げ後2月17日より、軟X線分光検出器の冷却システムを試験運用のため動作させ、2月22日に、絶対温度50ミリ度(摂氏マイナス273.1度)に到達したことを確認したとしている。
JAXAによると、今後は衛星搭載機器の初期機能確認を約1か月半かけて行い、その後衛星に搭載された観測機器の個性を把握し、観測精度を高めるために、これまでによく観測されてきた天体などを観測する「キャリブレーション(較正)観測」を約1か月半かけて実施する予定だとしている。
「ひとみ」はJAXAを中心に、米航空宇宙局(NASA)や欧州宇宙機関(ESA)、国内外の大学などが共同で開発した衛星で、X線という人間の目では見えない光で宇宙を見ることを目的としている。たとえば超新星爆発、ブラックホール、活動銀河核、銀河間の高温のプラズマは激しく活動をしており、数百万度から数億度と非常に温度が高くなっている。X線はこうした温度の高い領域から出ており、これらを観測することで多くの謎が解明されることが期待されている。
衛星の全長は14m、打ち上げ時の質量は2.7トンと、JAXAの科学衛星の中で最も大きく、その中には最先端の技術で開発された高性能なX線望遠鏡が搭載されている。また機体が大きくなったことで、従来のJAXAの科学衛星と比べ、冗長系も十分に確保されている。
「ひとみ」は打ち上げ後、高度約575km、軌道傾斜角31度の軌道を回りながら観測を実施する。運用期間は3年を目標としている。
日本は1979年に打ち上げられた「はくちょう」から、衛星を使ったX線による宇宙の観測を続けており、ASTRO-Hは2005年に打ち上げられた「すざく」の後継機となる。また、世界で最も進んだX線天文衛星でもあり、世界中の研究者から大きな期待が寄せられている。
日本は1979年に打ち上げられた「はくちょう」に始まり、長年X線天文衛星を打ち上げ続けてきた。ASTRO-Hは2005年に打ち上げられ、2015年に運用を終了した「すざく」の後継機となる。
Image Credit: JAXA
■X線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)のクリティカル運用期間の終了について
http://www.jaxa.jp/press/2016/02/20160229_hitomi_j.html