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超大質量ブラックホール「いて座A*」周辺で新たな星を発見 ブラックホールの自転測定に期待

パリ天文台のKarim Abd El Dayem氏を筆頭とする研究チームは、天の川銀河の中心部に存在する超大質量(超巨大)ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」のごく近くを周回する新たな星を発見したとする研究成果を発表しました。

今回の発見は、ブラックホールの自転そのものを初めて直接測定するための手がかりになると期待されています。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature」に掲載されています。

超大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」周辺の2021年7月から2025年7月までの観測データを示した図。新たに見つかった星「S301」の公転軌道が描かれている(Credit: ESO/GRAVITY collaboration)
【▲ 超大質量ブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」周辺の2021年7月から2025年7月までの観測データを示した図。新たに見つかった星「S301」の公転軌道が描かれている(Credit: ESO/GRAVITY collaboration)】

ブラックホールの自転の測定はなぜ難しい?

ブラックホールは質量・自転(スピン)・電荷という3つの性質によって特徴づけられます。天体としてのブラックホールは通常ほとんど帯電しておらず、実質的に重要になるのは質量および自転とされています。

このうち質量に関しては理解が進んでいます。たとえば、いて座A*が太陽の約430万倍の質量を持つことは、周囲の星の運動をもとに確認されています。また、ブラックホールの質量がもたらす「近点移動」という現象も、「S2」と呼ばれる星の観測をもとに確認されています。

通常、天体は同じ楕円軌道を繰り返し描きますが、強い重力場の下では近点(軌道上で中心天体に最も近づく位置)が公転のたびに少しずつズレていきます。軌道が閉じた楕円にならず、軌道全体が重なり合う花びらのような模様を描きながら少しずつ回転していくこの現象が近点移動で、アインシュタインの一般相対性理論で予言されていました。

身近な例では水星の近点移動が知られていますが、S2の近点移動が観測されたことで、超大質量ブラックホールであるいて座A*の周辺という極限環境でも一般相対性理論が成り立っていることが裏付けられています。

【▲ S2の近点移動を示した動画(Credit: ESO/L. Calçada)】

一方、ブラックホールの自転については、まだ理解が進んでいません。

自転する天体は、周囲の時空そのものを引きずって回転させる現象を引き起こします。水を張ったカップの中でスプーンを回すと周りの水も一緒に引きずられて渦を巻く様子に似たこの効果は、予測した物理学者の名にちなんで「レンス・ティリング効果」と呼ばれます。もしもレンス・ティリング効果による影響を捉えることができれば、ブラックホールの自転周期といった情報を得ることができるはずです。

ただ、レンス・ティリング効果は距離の3乗に反比例して急激に弱まってしまいます。いて座A*の自転そのものの影響としてこの効果を捉えるには、S2など既知の星々よりもさらに接近する星を観測しなければならず、これまでは直接測定する手段がありませんでした。

【▲ レンス・ティリング効果によってブラックホール周囲の時空が回転する様子を示した動画(ESO/M. Kornmesser)】

いて座A*を約8.7年で一周

研究チームはESO(ヨーロッパ南天天文台)の干渉計「VLTI(Very Large Telescope Interferometer=VLT干渉計)」を使用して、いて座A*周辺の観測を行いました。VLTIはESOが運営するパラナル天文台の「VLT(超大型望遠鏡)」を構成する口径8.2mの大型望遠鏡4基と、口径1.8mのVLTI補助望遠鏡4基を使用する干渉計です。

観測の結果、研究チームは2023年春にいて座A*の近くで新たな星を発見し、「S301」と名付けました。過去のデータを遡って解析したところ、S301は2021年と2017年の観測時にも捉えられており、8年以上にわたる軌道のデータが得られました。

研究チームが分析したところ、S301は約8.7年周期でいて座A*を公転していることが明らかになりました。これまでは約12年周期の「S55」が最も短い周期でいて座A*を公転する星として知られていましたが、S301はこの記録を更新しています。

また、S301の軌道は非常に細長く、近点ではいて座A*から約12天文単位(太陽から地球までの距離の約12倍)まで接近します。この時の速度は光速の8%以上に相当する毎秒約2万5000kmに達するといい、研究チームによれば天の川銀河で最も速く動く既知の星となりました。

研究チームは、S301はもともと別の星と連星を成していたものの、いて座A*の潮汐力によって片方が弾き飛ばされてしまい、S301だけが残ったと考えています。

【▲ いて座A*を周回するS301の動きを示したタイムラプス(Credit: ESO/GRAVITY collaboration/L. Calçada)】

ブラックホールの自転測定を目指す

ここまでいて座A*に接近するS301は、近点移動だけでなく、先述のレンス・ティリング効果がもたらすごくわずかな影響を捉えられる可能性があるといいます。

いて座A*に関する業績で2020年ノーベル物理学賞を受賞したマックス・プランク地球外物理学研究所のReinhard Genzel氏は、S301の発見によって天の川銀河中心の極限環境における時空の性質を探る新たな窓が開かれたとコメントしています。

研究チームは今後10年ほどかけて観測を積み重ね、いて座A*の自転を初めて直接測定することを目指すということです。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典