
PSI(惑星科学研究所)のNathan Kaib氏とボルドー大学のSean Raymond氏は、太陽系の長周期彗星の軌道が、過去に太陽系へ接近した恒星「HD 7977」の影響を強く受けているとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「The Planetary Science Journal」に掲載されています。
長周期彗星のふるさと「オールトの雲」と天の川銀河の潮汐力
数十万年~数百万年の周期で太陽を公転する長周期彗星は、太陽系の最外縁部を球殻状に包み込む氷の天体の集まりである「オールトの雲」からやってくると考えられています。PSIによると、長周期彗星のような天体は、主に天の川銀河がもたらす潮汐力(銀河潮汐力)によって軌道が乱されることで、オールトの雲から太陽系の内側へとやってくるようになると考えられてきました。

しかしKaib氏とRaymond氏は、もしも銀河潮汐力が主な要因であれば、初めて太陽系の内側へやってくる新しい長周期彗星の軌道の向き(近日点引数)には、一定の偏りが生じるはずだと指摘しています。
全天での体系的なサーベイ観測が普及した1989年以降の長周期彗星のデータを両名が分析したところ、過去に太陽系の内側へ飛来したことがある彗星には予想通りの偏りがみられたものの、初めて飛来する新しい彗星は予想に反してあらゆる方向からランダムに(等方的に)飛来していることが判明したといいます。
シミュレーションが導き出した「彗星シャワー」の痕跡
ここで両名が注目したのは、カシオペヤ座の方向、地球から約247光年先の太陽に似た恒星「HD 7977」です。
ESA(ヨーロッパ宇宙機関)が運用していた宇宙望遠鏡「ガイア(Gaia)」の観測データから、HD 7977は宇宙の歴史から見ればごく最近である約250万年前に太陽系へ接近したことがわかっています。ただし、最接近時の太陽までの距離は4000〜2万5000天文単位(※)と推定されており、大きな幅がありました。
※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来。
そこで両名は、HD 7977がさまざまな距離で太陽の近くを通過したと仮定して、長周期彗星の軌道がどのように変化するかをシミュレーションしました。その結果、HD 7977が太陽から6000〜1万天文単位という近い距離を通過したと仮定した場合に、前述の長周期彗星のデータと最もよく一致することが明らかになりました。
PSIによれば、HD 7977がこれほど太陽の近くを通過した場合、その重力の影響は一時的に銀河潮汐力を上回り、オールトの雲の天体が太陽系の内側へ向かって次々に押し出される「彗星シャワー」が引き起こされたと考えられています。HD 7977の接近前から太陽系の内側へ飛来したことがある彗星には銀河潮汐力による偏りがみられる一方で、HD 7977の接近後に初めて飛来する彗星に偏りがみられないのは、HD 7977の重力の影響を受けているからだ、というわけです。
ただし、今回のシミュレーションでは、彗星の軌道の大きさがうまく一致しなかったといいます。太陽系の構造や関与する力がモデルで想定されている以上に複雑な可能性があるといい、Raymond氏はPSIのプレスリリースを通じて「重要な物理現象がいくつか見落とされている可能性があります」と述べています。
私たちの太陽系は今も彗星シャワーの渦中にある?
論文によれば、HD 7977の影響を受けて太陽系の内側に飛来する現在の長周期彗星の数は、通常時の平均と比べて約2倍に増加している可能性があります。もしもこれが正しければ、彗星の観測数にもとづいて推定されてきたオールトの雲に存在する天体の総数は、下方修正するべきだということになります。
Kaib氏はPSIのプレスリリースを通じて、「彗星の軌道の分布は、HD 7977の影響を強く受けているというめずらしい時代に、私たちが生きていることを示唆しています。つまり、私たちはかなり強力な彗星シャワーの後期段階を生きていることになります」と述べています。
PSIによると、今後6か月〜12か月以内にガイアミッションの最新データが公開される見込みです。太陽に接近したHD 7977の過去の動きもさらに精査される予定となっており、今回の研究で示された予測の正しさが検証されることに期待が寄せられています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
関連記事
- ハッブル宇宙望遠鏡が偶然観測した彗星「C/2025 K1」崩壊の様子
- 過去の地球の公転軌道は “予想以上” に予測困難 恒星接近を考慮したモデルで検証
- 観測史上初となる彗星の自転の反転を確認か ハッブル宇宙望遠鏡の未解析データから
参考文献・出典
- PSI - Long-Period Comets’ Orbits Reflect Close Passage by Star HD 7977
- Kaib and Raymond - A Potential Signature of HD 7977’s Passage among Observed Long-period Comet Orbits (The Planetary Science Journal)
























