
こちらは、かじき座の方向、地球から約16万光年先にある輝線星雲「タランチュラ星雲(Tarantula Nebula)」(かじき座30、30 Doradus)です。ハッブル宇宙望遠鏡、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、それにチャンドラX線宇宙望遠鏡の観測データを使って作成されました。

タランチュラ星雲は天の川銀河の衛星銀河(伴銀河)のひとつ「大マゼラン雲(大マゼラン銀河)」に位置する星形成領域です。無数の若い星々が、複雑に入り組んだ広大なガスと塵(ダスト)の構造に包まれています。
色の重なりが描く星雲の姿
この画像は、3つの宇宙望遠鏡で取得した観測データに赤・緑・青の3色を割り当てることで作成されました。
赤はウェッブ宇宙望遠鏡が捉えた赤外線のデータです。無数の若い星々や、将来新たな恒星や惑星の材料となる低温の塵を示しています。緑はハッブル宇宙望遠鏡が捉えた可視光線のデータです。ウェッブ宇宙望遠鏡が捉えるものよりも温度の高い水素ガスや、星雲越しに見える個々の星の姿が映し出されています。
そして、青はチャンドラX線宇宙望遠鏡が捉えたX線のデータです。若い大質量星から吹き出す恒星風によって数百万度にまで加熱された高温のガスが捉えられています。3つのデータが重なる中心部では様々な色が入り混じり、鮮やかな領域として描かれています。
星雲の中心で輝く巨大な星団「R136」
タランチュラ星雲の中心部には、誕生から100万~200万年しか経っていない大質量の星団「R136」があります。R136には質量が太陽の100倍を超える大質量星が数多く存在し、星雲の全体を形作る主なエネルギー源となっています。
なかでも「R136a1」と呼ばれる星は既知の恒星の中で最も質量が大きいとされており、誕生時の質量は太陽の250倍以上に達したと見積もられています。タランチュラ星雲の複雑な姿は、こうした桁外れに重い星々が放つ強烈な恒星風が、ガスや塵の雲を刻むことで作られているのです。
消えたエネルギーの行方を追う
冒頭の画像は、オハイオ州立大学のJennifer Rodriguez氏を筆頭とする研究チームの論文がもとになっています。
タランチュラ星雲のように大質量星が密集する領域では、恒星風のエネルギーの多くはガスの加熱に費やされると考えられてきました。ところが、加熱されたことでX線を放つようになった高温ガスを観測したところ、その量は理論から予想される量よりもずっと少ないことがわかっています。星から放出されたエネルギーは、まるでどこかに消えてしまったように見えるのです。
研究チームは総露光時間571時間におよぶチャンドラのX線データに、ハッブル宇宙望遠鏡とウェッブ宇宙望遠鏡のデータ、さらに運用を終えたスピッツァー宇宙望遠鏡のデータを組み合わせて、消えたエネルギーの謎に迫りました。その結果、高温ガスは主に3つの経路でエネルギーを失っているとみられることが明らかになったといいます。
1つ目は、ガスと塵が作る殻状の構造の壁を通り抜けて、高温ガスの最大半分程度が星雲の外へ漏れ出す経路。2つ目は、殻状構造周辺の低温ガスと混ざり合うことで、高温ガスの温度が下がるという経路。3つ目は、高温ガスに直接接触した低温ガスへと熱が伝わることで温度が均一化する経路です。
つまり、恒星風のエネルギーは一箇所に留まらず、漏出・混合・伝導という3つの経路を通じて、じわじわと星雲から拡散していることが考えられるのです。Rodriguez氏らの成果は、大質量星が周囲の環境をどのように作り変えていくのかを解き明かす手がかりになると期待されています。
冒頭の画像はチャンドラX線宇宙望遠鏡を運用するCXC(チャンドラX線センター)から2026年8月11日付で公開されています。
文/ソラノサキ 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- CXC - NASA Telescopes Create Colorful 'Craft' From Nearby Nebula
- Rodriguez et al. - Taming the Tarantula: How Stellar Wind Feedback Shapes Gas and Dust in 30 Doradus (The Astrophysical Journal)
























