
6月、あじさいが美しく色づき、露を浴びて輝く季節となりました。梅雨に入ると雨の日が増え、星を見る機会は減りますが、晴れた日には彩り豊かな星々を楽しむことができます。
南の空高くを見上げると、オレンジ色の1等星が目に留まります。「うしかい座」のアークトゥルスです。アークトゥルスはギリシャ語に由来し、「熊の番人」という意味を持ちます。「おおぐま座」を追うように見えることから、そう名づけられました。
単体の恒星としては全天で3番目に明るく、特徴的なはっきりとしたオレンジ色は非常に目を引きます。
うしかい座はアークトゥルスを下端として、細長いひし形に星が並び、たくましい肩をした男性の姿をかたどっています。
うしかい座の東西には小さな星座があります。西側にある「りょうけん座」は、3等星のコル・カロリが目印です。コル・カロリとは「チャールズの心臓」という意味で、イングランド王のチャールズ1世を称えて名づけられたとされています。
うしかい座の東側にあるのは「かんむり座」です。半円形の星の並びで、弧のほぼ中央に位置する2等星アルフェッカが目を引きます。
アルフェッカはアラビア語で「欠けたもの」を意味し、半円形に並ぶ星々を欠けた輪にたとえたことに由来する名前です。ラテン語で宝石を意味する「ゲンマ」という美しい別名もあります。
うしかい座の南には、アークトゥルスとは対照的な青白い1等星があります。「おとめ座」のスピカです。優雅に空に横たわる女神が手にする麦の穂に位置しています。「スピカ」はギリシャ語由来の名称で「穂先」という意味です。
おとめ座の足元、東側には「てんびん座」があります。星図で天頂を上にしたとき、3つの星が「>」記号のように並んでいるのが特徴です。
「>」の並びの上端の星はズベンエシャマリ(北の爪)、中央の星はズベンエルゲヌビ(南の爪)という名称で、いずれも3等星です。
これらの恒星名は、古代メソポタミア時代に、てんびん座の領域の星々がさそりの爪とされていたことに由来すると考えられています。

このように、星の名前にはそれぞれ意味があります。星の位置や並びを表すもの、人名や伝承にちなんだものなど、由来も個性的です。星の名前やその意味を覚えれば、星空を見る楽しみがさらに広がることでしょう。
※…星座や天体の見える方角や位置関係は2025年6月15日21時頃のものです
かんむり座T星の増光

「かんむり座」の領域にあるかんむり座T星は、普段は10等星と暗く、肉眼では見ることができません。しかし、約80年周期で爆発により急激に増光し、2~3等星程度まで明るくなります。このような星を「再帰新星(さいきしんせい)」といいます。
前回の増光(1946年)から79年が経過しており、近い将来に再び増光する可能性が高いと予測されています。しかし、正確な時期までは分からないため、かんむり座が見えない季節に起こる可能性もあります。
できることなら、かんむり座が見られる夏の夜空でその光を目にしたいものです。
火星とレグルスの接近
2025年6月17日には、火星は「しし座」の1等星レグルスに接近する様子が見られます。2つの星の角距離は約0.8度、月の視直径の約1.5倍程度です。
この日、レグルスと火星は夕方から夜の遅い時間帯にかけて、西寄りの空で見ることができます。どちらも1.4等級で、青白色のレグルスと赤い火星の対比が楽しめるでしょう。
2025年1月12日に地球との最接近を迎えた火星は、今、地球から離れつつあり、見かけの明るさも低下しています。やがて、火星は地球から見て太陽と同方向となり、地上から観測できなくなります。
この接近は、今期の火星観察のしめくくりにふさわしい見どころといえるでしょう。王の星レグルスと並ぶ火星のふしぎな赤い光を、ぜひ眺めてみてください。
文・編集/sorae編集部