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小惑星「1998 SH2」は彗星だった “地球防衛”にも関係してくる「ダークコメット」の存在

NASA/JPL(アメリカ航空宇宙局ジェット推進研究所)のDavide Farnocchia氏を筆頭とする研究チームは、これまで小惑星として分類されてきた天体「1998 SH2」が、実際には彗星だったことを突き止めたとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文は学術誌「Nature Astronomy」に掲載されています。

短周期彗星のような軌道を公転する小惑星の想像図。こうした小天体の中には大きな摂動を示すものもあり、1998 SH2のように彗星だったことが判明する可能性があるという(Credit: NASA/JPL-Caltech)
【▲ 短周期彗星のような軌道を公転する小惑星の想像図。こうした小天体の中には大きな摂動を示すものもあり、1998 SH2のように彗星だったことが判明する可能性があるという(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

予測された位置に現れなかった1998 SH2

1998年9月に発見された1998 SH2は、太陽に対して最も接近する時は約0.8天文単位(※)、最も遠ざかる時は約4.7天文単位の楕円軌道を、約4.5年の周期で公転しています。

一見すると短周期彗星のような軌道ですが、目立った彗星活動は観測されなかったことから、長いあいだ小惑星だと考えられてきました。

※…1天文単位=約1億5000万km。太陽から地球までの平均距離に由来する。

1998 SH2(白)、地球(青)、木星(オレンジ)の公転軌道を示した図。点は日本時間2026年7月22日9時時点での各天体の位置。JPLの小天体データベースから引用(Credit: NASA/JPL)
【▲ 1998 SH2(白)、地球(青)、木星(オレンジ)の公転軌道を示した図。点は日本時間2026年7月22日9時時点での各天体の位置。JPLの小天体データベースから引用(Credit: NASA/JPL)】

ところが、2025年8月下旬に1998 SH2が地球から約300万km(約0.02天文単位)の距離を通過した際に、ある異変が確認されました。

この時、NASAのディープスペースネットワーク(DSN、深宇宙通信網)のレーダーを使って1998 SH2の観測が試みられたものの、過去のデータから予測されていた位置には現れなかったのです。

研究チームによると、1998 SH2の動きは太陽や惑星の重力だけでは説明できず、重力以外の要因で軌道が変化した(非重力的な摂動)ことが考えられました。

そこで研究チームは、太陽に加熱された1998 SH2から宇宙空間へとガスが噴出(アウトガス)したことで微小な推力が生み出され、軌道が変化したとする仮説を立てました。つまり、1998 SH2は微弱な活動を示す彗星の可能性が浮上したのです。

地上の大型望遠鏡が捉えた微弱な尾

この仮説を検証するために、研究チームは2025年9月に地上の望遠鏡で取得された1998 SH2の画像を分析しました。

すると、ハワイのCFHT(カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡)、チリのVLT(超大型望遠鏡)およびデンマーク1.54m望遠鏡が、彗星の特徴であるコマ(※彗星の核から放出された物質でできた、明るいぼんやりとした領域)や尾を捉えていたことが判明したのです。

この結果、1998 SH2が彗星であるという研究チームの仮説は実証され、新たに彗星としての仮符号「P/1998 SH2」が付与されることになりました。

左から順に、デンマーク1.54m望遠鏡、CFHT(カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡)、VLT(超大型望遠鏡)で2025年9月に観測された1998 SH2(画像処理後)。コマや尾が捉えられていることがわかる。論文から引用(Credit: Farnocchia et al.)
【▲ 左から順に、デンマーク1.54m望遠鏡、CFHT(カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡)、VLT(超大型望遠鏡)で2025年9月に観測された1998 SH2(画像処理後)。コマや尾が捉えられていることがわかる。論文から引用(Credit: Farnocchia et al.)】

「ダークコメット」の謎と「地球防衛」への課題

今回の成果は、近年注目を集めている「ダークコメット」(dark comet、暗黒彗星、暗い彗星)と呼ばれる天体群の理解を深めることにもつながります。ダークコメットとは、ガスの噴出といった彗星としての目立つ活動がみられないにもかかわらず、軌道に不規則な摂動を示す天体のことを指します。

研究チームによれば、ダークコメットは小さいサイズで地球に近い軌道を持つ内側のグループ(inner dark comets)と、大きいサイズで木星族彗星に似た軌道を持つ外側のグループ(outer dark comets)の2つに大きく分けられます。1998 SH2の場合は、軌道やサイズをもとに外側のグループに分類されます。

JPLによると、現在は小惑星に分類されている他の小天体の中にも、実際には微弱な活動をともなうダークコメットが含まれている可能性があるといいます。地球へ接近した際に地上の望遠鏡による集中的な観測を行えた今回のケースのように、適切なタイミングで強力な望遠鏡を用いて観測すれば、さらに多くのダークコメットを発見できるかもしれません。

a: 軌道長半径と軌道離心率にもとづくダークコメットの分布図。円の大きさは絶対等級に比例する。b: ダークコメットの外側のグループ(赤)と内側のグループ(グレー)、それに1998 SH2(黒)の公転軌道を比較した図。1998 SH2は外側のグループに属することがわかる。論文から引用(Credit: Farnocchia et al.)
【▲ a: 軌道長半径と軌道離心率にもとづくダークコメットの分布図。円の大きさは絶対等級に比例する。b: ダークコメットの外側のグループ(赤)と内側のグループ(グレー)、それに1998 SH2(黒)の公転軌道を比較した図。1998 SH2は外側のグループに属することがわかる。論文から引用(Credit: Farnocchia et al.)】

またFarnocchia氏は、彗星は小惑星よりもアウトガスによって軌道が変化しやすいため、地球の公転軌道に接近するNEO(地球近傍天体)に対する継続的な追跡観測の重要性を強調しています。

小天体のどれが小惑星であり彗星であるのかを把握し、その軌道の変化を理解することは、将来地球に衝突するリスクを評価したり、場合によっては軌道を変更して衝突の回避を目指すプラネタリーディフェンス(地球防衛、惑星防衛)の観点からも、重要な取り組みと言えるでしょう。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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参考文献・出典