
現在の地球の周りには全地球的な通信を目的とした、それぞれが数千機以上の衛星から成る「衛星コンステレーション」を構成する衛星が多数存在します。SpaceX社の「スターリンク(Starlink)」は特に有名ですが、他の企業や国家が主導する衛星コンステレーションも開始または計画されており、ロケットの打ち上げ回数と衛星の大気圏再突入の数は共に増え続けています。
しかし、この大量の打ち上げによる悪影響はないのでしょうか? ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのConnor R. Barker氏やEloise A. Marais氏などの研究チームは、成層圏などの高層大気に対する影響を推定しました。論文自体は軽微な影響を推定していますが、研究チーム自身が、論文で示された結果はかなりの過小評価であると考えています。なぜなら、打ち上げ規模の拡大ペースが、研究当時の予測をはるかに上回っているためです。Barker氏は「その影響力の強さを考えれば、取り返しのつかない被害が生じる前に、対策を講じる必要があります。」と発言しています。
今回の研究は、内容を額面通り受け止めるのではなく、今後起き得る悪影響に対し、早めの対策を促す警鐘を鳴らしていると考えることができるでしょう。
衛星コンステレーションによる上層大気への影響は?

現在の地球の周りには全地球的な通信を目的とした、それぞれが数千機以上の衛星から成る「衛星コンステレーション」を構成する衛星が多数存在します。SpaceX社の「スターリンク(Starlink)」は特に有名ですが、Eutelsat社の「ワンウェブ(OneWeb)」、Amazon社の「アマゾンレオ(Amazon Leo)」、中国政府の「国網(GuoWang)」など、他の企業や国家が主導する衛星コンステレーションも開始または計画されています。
通信網の整備は私たちの生活を便利にしてくれますが、規制のない中での衛星配備には悪影響も指摘されています。特に、天文観測は既に無視できない影響が現れ始めています。スターリンク単独ですら、人類が打ち上げた過去全ての衛星数を上回っています。この影響で、望遠鏡の視野に衛星が入り込む状況が増加しているからです。
望遠鏡は技術の向上で、これまでよりも微弱な信号を得られるようになっています。このため、衛星による太陽光の反射や電波の発信は、たとえ微弱なモノであっても打ち消すことのできない強いノイズとして現れます。これまでは衛星が少なかった関係で稀なケースであったのが、日常茶飯事となりつつあるのです。これについて詳しくは、soraeの記事『合計170万機以上の衛星打ち上げ計画に天文学者が警鐘 「天文学にとって壊滅的な結果に」』をご覧ください。
これに加え、大気汚染の影響に関する懸念も指摘されています。ロケットは燃料を燃やすことで得られる推進力で宇宙へと飛ぶことができますが、そのためにはどうしても物質を放出する必要があります。また、ロケット本体の一部は大気圏への再突入で燃え尽きますが、これは文字通り消えてしまうのではなく、目に見えない細かな粒子として大気中を漂うことを意味します。これは定義上、大気の汚染物質となります。
再突入による影響は、衛星本体にも似たようなことが言えます。衛星コンステレーションを構成する衛星は、軌道変化による衝突の懸念の回避のために、軌道上の寿命を5年程度として設計されています。また、燃え尽きずに地上に大きな破片が落下しないよう、意図的に脆く設計されています。このことから、衛星本体に由来する物質も大気中を漂うことになり、これも汚染物質として計上されます。
ロケットや衛星に由来する物質は、主に成層圏などの大気上層部に影響を与える懸念があります。大気の上層部は下層部と比べて大気循環がとても遅いため、かつてロケットや衛星であった物質の粒子は数年以上大気中に留まります。そして、大気上層部にはオゾン層のように、汚染物質に対して敏感に反応するようなものも含まれています。
ただし、過去にこれほどまでのペースで衛星を打ち上げた実績がないことや、上層大気に関する知見の少なさから、大気に対する正確な影響についてはあまり理解されていませんでした。
研究者の想定を実際が上回ったことによる “過小評価” が発生
ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのConnor R. Barker氏やEloise A. Marais氏などの研究チームは、2029年までのロケット打ち上げに伴う汚染物質による影響に関する推定を行いました。この推定の元となった研究では、2020年から2022年までの打ち上げ実績を元に、2029年までに打ち上げられる衛星の数を6万5000機と推定しています。なお、2020年から2022年までの衛星コンステレーション関連の打ち上げや再突入は、全446回のロケット打ち上げの中の86回を占め、全3623個の大気圏再突入物の中の959個を占めています。
今回の影響分析では、ロケットや衛星の打ち上げおよび再突入で放出される汚染物質として炭素質の煤(ブラックカーボン)、水蒸気、塩素、酸化アルミニウムなどを検討しました。汚染物質の組み合わせは打ち上げごとに変化するため、その違いも考慮に入れています。

研究の結果、注目される影響の1つとして炭素質の煤が挙げられました。今回の分析で主要な影響を与えたのはスターリンクですが、スターリンクを打ち上げるロケットである「ファルコン9(Falcon 9)」は、燃料にケロシンを使っています。ケロシンは広い意味での灯油ですので、燃焼時には煤が生じます。
今回の研究では、2029年までに、衛星コンステレーション関連の打ち上げによって、成層圏には約870tの煤が排出されることが推定されました。これは、宇宙分野全体での煤の排出量のうち、2023年までの36%、2029年までの43%を占めています。
成層圏への煤の排出で、懸念される点は2つあります。成層圏の煤は中々落下せず、最長で4年間そこに留まることと、成層圏の煤は地上付近の煤よりも540倍も気候変動に与える影響が大きいという点です。
一方で、この懸念がどのように影響するのか、明確に結論付けることは困難です。煤は太陽光を吸収すると同時に遮る効果もあるため、熱を吸収する効果と遮断する効果の両方があるためです。今回の研究では、大気上層部の気温をわずかに上げ、大気下層部の気温をわずかに下げる効果があることが推定されています。ただし後述する通り、この評価は注意して受け止める必要があります。
もう1つ注目されたのは塩素の効果です。塩素はオゾン層を破壊する性質が強いため、ロケット打ち上げによる影響が最も強く現れる懸念がありました。しかし、少なくともFalcon 9は塩素をほとんど含まない燃料を使っているため、その影響は今のところは少ないことが分かりました。
今回の分析では、衛星コンステレーション関連の打ち上げは、宇宙分野全体でのオゾン層破壊の9%を占めるに過ぎないことが推定され、他の排出源によるオゾン層破壊と比べれば、影響が小さめです。
ただしBarker氏らは、今回の研究で推定された影響は過小評価であり、数値を額面通りに受け取ることはできないと考えています。今回の研究では、2020年から2022年までの打ち上げ実績を下に、2029年までに6万5000機の衛星が打ち上げると推定していましたが、既に翌2023年の時点で、推定値を上回るペースで打ち上げが進んでいたからです。
今回の研究では、煤の影響でわずかに大気下層部の気温が下がると見積もられましたが、これを単純に受け止め、地球温暖化対策になると早とちりしてはいけません。私たちは高層大気の知識に乏しく、本当にこの推定が正しいのかどうかわからないためです。また、温室効果ガスを減らさないままの気温の低下が、地球温暖化対策になるのかどうかも未知数です。
研究を行ったBarker氏は次のように発言しています。
“Rocket launches are a unique source of pollution, injecting harmful chemicals directly into the upper layers of the atmosphere and contaminating Earth's last remaining relatively pristine environment. Though this soot’s impact on climate is currently much smaller than other industrial sources, its potency means we need to act before it causes irreparable harm.” ― Connor R. Barker
「ロケットの打ち上げは、有害物質を上層大気に直接放出し、地球上に最後に残された、比較的汚染されていない環境を汚染する、特異な汚染源となっています。この煤が気候に及ぼす影響は、現時点では他の産業活動と比べるとはるかに小さいですが、その影響力の強さを考えれば、取り返しのつかない被害が生じる前に、対策を講じる必要があります。」Connor R. Barker氏
また、Marais氏も次のように発言しています。
“The cooling effect from the reduction in sunlight that we calculate with our models may sound like a welcome change against the backdrop of global warming, but we need to be extremely cautious.” ― Eloise A. Marais
「私たちのモデルによって算出された、日射量の減少に伴う冷却効果は、地球温暖化という状況下では歓迎すべき変化のように聞こえるかもしれませんが、極めて慎重に考える必要があります。」Eloise A. Marais氏
野放図な衛星コンステレーションの拡大に警鐘を鳴らす研究結果
さらに言うと、今回の研究では打ち上げの大半を占めるファルコン9のケロシンの影響で推定を行いましたが、この状況は大きく、恐らく悪い方向に変わる可能性があります。アマゾンレオや国網の打ち上げでは固体ロケットブースターも使用されていますが、これは大量の塩素を放出するため、オゾン層破壊の影響が深刻化する恐れがあります。
また、スターリンクやアマゾンレオの打ち上げの一部では液体メタンと液体酸素を使用するメタロックス推進剤が使用されています。これはケロシンよりも煤の排出量が少ないと謳われていますが、数値面の検証が進んでおらず、影響は未知数です。そして、打ち上げ重量(ペイロード)が増加する新型ロケットへの切り替えも検討されていますが、ペイロードが増えれば燃料の消費量も増加するため、影響の小ささを相殺する恐れがあります。

さらに、たとえロケットの燃料が比較的 “クリーン” であったとしても、大量の衛星の軌道投入自体が成層圏に悪影響を及ぼす恐れがあります。ファルコン9の打ち上げやスターリンク衛星の再突入の状況を監視すると、その周辺に大量の窒素酸化物(NOx)が生成されることが観測されているからです。
窒素は化学反応しにくい分子として知られていますが、高いエネルギーを与えれば酸素と反応して窒素酸化物が生成されます。ロケットの高温の排気熱や、超音速で大気圏に再突入する時に発生する衝撃波は、窒素を化学反応させるのに十分なエネルギーを与えます。
窒素酸化物は温室効果ガスであり、オゾン層破壊物質です。衛星コンステレーションによる窒素酸化物の影響は最近評価が始まったばかりであり、現時点でははっきりとした影響を算出することはできません。ただし少なくとも、今回の研究で示された数値が過小評価であることだけは間違いないでしょう。
翻って見れば、地球温暖化やオゾン層の破壊といった環境問題は、利便性を優先し、適切な規制がなされないまま進んだ結果起きた問題とも言えます。これらの環境問題は、現在では利便性と環境保護を両立させた規制が行われています。こうした先例に倣えば、野放図な衛星打ち上げを抑え、高層大気の環境保護に先手を打つことは可能であると筆者は考えています。
ひとことコメント
私の言いたいことは、研究者がダイレクトに述べているのよ。強調して規制が求められていると感じているよ。(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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参考文献・出典
- Connor R. Barker, et al. “Radiative Forcing and Ozone Depletion of a Decade of Satellite Megaconstellation Missions”.(Earth’s Future)
- Michael Lucibella. “Satellite launch pollution rapidly accumulating in the upper atmosphere”.(University College London)
- Andy Tomaswick. “Are Satellite Megaconstellations Accidentally Geoengineering the Earth?”.(Universe Today)






















