ロケットの一部や人工衛星などの宇宙機が大気圏に再突入する際の懸念事項は、これまで地表に大きな破片が落下する懸念が主であり、蒸発した後のことはほとんど考慮されていません。

NOAA (アメリカ海洋大気庁) のDaniel M. Murphy氏などの研究チームは、成層圏の硫酸エアロゾルに含まれる金属粒子の約10%が大気圏で燃え尽きた宇宙機由来である可能性が高いことを明らかにしました。成層圏や地表への影響はまだ不明であり、今後の宇宙開発や研究の進行状況によっては、新たな懸念事項となるおそれもあります。

【▲図1: 小惑星探査機「はやぶさ」の大気圏再突入の様子。大気圏再突入は、ロケットや人工衛星の廃棄方法として一般的に利用されています。しかし、大きな破片の落下リスクは検討されているものの、大気中に拡散した金属の影響はほとんど研究がありませんでした。 (Image Credit: NASA Ames) 】
【▲図1: 小惑星探査機「はやぶさ」の大気圏再突入の様子。大気圏再突入は、ロケットや人工衛星の廃棄方法として一般的に利用されています。しかし、大きな破片の落下リスクは検討されているものの、大気中に拡散した金属の影響はほとんど研究がありませんでした(Credit: NASA Ames)】

■宇宙機を大気で “燃やす” のは一般的な廃棄方法

ロケットの一部や人工衛星などの宇宙機が大気圏に再突入すると、機体は高温に晒されます。この高温を利用して宇宙機本体を “燃やす” ことは、役目や寿命を終えた宇宙機の廃棄方法としてしばしば利用されるものです。何らかの理由で大きな破片が燃え尽きずに落下した場合の地表での被害は懸念事項としてよく検討されますが、燃え尽きた宇宙機のその後の影響を調査した研究はほとんど存在しません。

蒸発した宇宙機の金属は、大気中で冷やされて凝集し、非常に小さな金属の粒子となり、成層圏を長期間漂っていると予測されます。これとよく似た状況は、地球に落下する流星物質 (隕石) でも発生します。成層圏に存在するエアロゾル (気体中の微粒子) の多くは硫酸と二酸化硫黄 (※1) ですが、このうち直径120~600nm (1nm=10億分の1m) の硫酸粒子には、しばしば直径100nm未満の金属やケイ素の微粒子が含まれています。これは主に上空75km前後で流星物質が蒸発や砕けることによって発生したものと考えられています。このような前提を踏まえると、宇宙機の “破片” も同様に成層圏の硫酸エアロゾルに含まれていてもおかしくはありません。

※1…硫酸は主に植物や海水から放出される硫化カルボニルから生成され、二酸化硫黄は火山に由来します。

■成層圏の金属粒子の約10%は宇宙機由来と判明

Murphy氏らの研究チームは、成層圏エアロゾルの採集と分析を行い、硫酸に含まれる金属粒子の組成と、それが何に由来するかの特定作業を行いました。この研究は、NOAAが主導する高層大気のエアロゾルを研究するSABREプログラムの一環として行われました。

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各半球の冬の時期には、北極と南極の双方の成層圏には下降気流が生まれるため、上空のエアロゾルが低い高度に落下してきます。今回の研究では2023年2月と3月に、NASA (アメリカ航空宇宙局) が所有する高高度研究用航空機「NASA WB-57」 (※3) にてアラスカ州の上空19kmを飛行し、搭載されているレーザー質量分析計「PALMS」で硫酸エアロゾルに含まれる金属粒子の組成を分析しました。

※2…1954年に運用が開始された戦術爆撃機「B-57」を改造した高高度研究用航空機。

【▲図2: Aは流星物質に由来する粒子、Bは宇宙機に由来するとみられる粒子の分析結果。共通する物質がある一方で、リチウム (Li) 、アルミニウム (Al) 、銅 (Cu) 、ニオブ (Nb) 、モリブデン (Mo) 、ハフニウム (Hf) など、天然より多量であるか、存在が珍しい元素がいくつも見られています。 (Image Credit: Murphy, et al.) 】
【▲図2: Aは流星物質に由来する粒子、Bは宇宙機に由来するとみられる粒子の分析結果。共通する物質がある一方で、リチウム (Li) 、アルミニウム (Al) 、銅 (Cu) 、ニオブ (Nb) 、モリブデン (Mo) 、ハフニウム (Hf) など、天然より多量であるか、存在が珍しい元素がいくつも見られています(Credit: Murphy, et al.)】

今回の飛行では5万個を超える金属粒子の組成が分析され、さらに過去の研究で得られたデータも合わせられました。多くの粒子はナトリウム、マグネシウム、クロム、鉄、ニッケルの比率が一定であり、この特徴を示す金属粒子は流星物質由来であると推定されます。

一方で一部の金属粒子には、天然の流星物質では説明のつかない特徴があることが判明しました。例えば、他の粒子と比べてアルミニウムリチウムの金属粒子がしばしば見つかりました。アルミニウムは宇宙機の本体にしばしば見られる元素であり、リチウムや銅は流星物質には少ないですが、宇宙機には合金の材料や配線でしばしば使用されます。金属粒子のアルミニウムと銅の質量比は、再突入する宇宙機の質量比とほぼ同じであることもわかりました。興味深いことに、リチウムの質量比は過去のデータと比べて増加しており、これはリチウムを含む電池の使用量が増大したことを反映しているのかもしれません。

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同じく、天然では極めて珍しい元素であるニオブハフニウムが粒子全体の約0.1%で見つかりました。これは主にロケットエンジンのノズルに使用される高強度合金「C-103」の主成分です。今回見つかった金属粒子に見られるニオブとハフニウムの質量比が、C-103に一致することも注目されます。同じく、流星物質には珍しい元素として銀や鉛など、20種類以上の元素が見つかっています (※3) 。

※3…今回の研究では、宇宙機に多く使用されるチタンの量は測定されませんでした。これは硫酸に含まれる一酸化硫黄イオンからのシグナルがチタン48のシグナルを隠してしまうためです。今回の研究では、宇宙機由来の金属として明確に特定された元素としてリチウム・アルミニウム・銅・ニオブ・銀・ハフニウム・鉛、時々見つかったか、天然由来か人工由来かを区別することが困難な元素としてベリリウム、マグネシウム、チタン、クロム、鉄、ニッケル、亜鉛、ガリウム、モリブデン、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、バリウム、セリウム、プラセオジム、ネオジム、タンタル、タングステン、ビスマスが挙げられています。

これらの特徴から、見つかった金属粒子の中に宇宙機に由来するものが含まれている可能性が高いとMurphy氏らは考えています。この場合、硫酸エアロゾルに含まれる金属粒子の約10%が宇宙機由来であることになります。特に、アルミニウムの約70%、リチウム・銅・鉛の約90%は宇宙機由来と推定されるなど、一部の金属元素は天然由来よりずっと多い比率で成層圏に投入されていると思われます。

興味深いことに、今回見つかった宇宙機由来の粒子は、流星物質由来の粒子と混合した状態で見つかることが多いものの、宇宙機由来の粒子の組成はかなりばらつきがあることが今回分かりました。例えばニオブを含む粒子と、銀を含む粒子は同時に見つからないことがしばしばあります。その理由は、ニオブがロケットエンジンのノズルに由来するのに対し、銀は人工衛星の電子部品に由来するからではないかとMurphy氏らは考えています。その証拠として、銀が見つかった粒子にはスズや鉛といった、同じく電子部品に含まれる元素が共に見つかることが多いためです。成層圏の大気循環を考慮すると、宇宙機の再突入は距離的に離れているため、異なる宇宙機由来の粒子同士が十分に混合する時間が経過していないためと考えるのは合理的です。

■影響は未知だが、量の増加は確実

宇宙機由来の金属粒子が、成層圏や地表に与える影響については今回の研究対象となっておらず、未知数です。微量の金属粒子が大気中をどのように移動するのかは正確には分かっておらず、人体や環境への影響を評価するために重要な化学形態は、今回の分析方法では知ることができないためです。

現時点で考察ができるのは、鉛が与える影響は考えにくいと考えられる程度です。宇宙機の再突入で成層圏にもたらされる鉛は年間2トン程度と推定されますが、地上の工業生産活動で大気中に放出される鉛は、アメリカだけで年間700トンと推定されるなど、地表由来の鉛がずっと多いためです。

一方で銅は、地表へ落下する量の具体的な変化が観測される可能性があります。大気循環を考慮すると、成層圏の金属粒子は、最終的に高緯度地域の地表へと降下すると見られます。成層圏中の宇宙機に由来する銅の10%が南極大陸へと降下した場合、雪や氷に含まれる銅の濃度は2倍になる可能性があります。量の増加による影響はまだ分かっていません。

いずれにしても、今後数十年の間にロケットや人工衛星の打ち上げ数は増加する見込みであり、硫酸粒子に含まれる宇宙機由来の金属粒子の比率は、今後50%にまで増加すると見られています。金属粒子が地球大気とオゾン層に影響を及ぼす可能性は分かっていませんが、仮に影響がある場合には、宇宙機の大気圏再突入に対する追加の考慮事項となるかもしれません。

 

Source

文/彩恵りり

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