
地球に接近し、潜在的に衝突する可能性がある小惑星を「地球近傍小惑星」と呼びます。初めて地球近傍小惑星が発見されたのは19世紀末のことですが、現在では観測技術の向上により発見数が指数関数的に増加しています。

そして2025年11月20日、地球近傍小惑星の発見数が4万個に達したことを欧州宇宙機関(ESA)が発表しました。発見数が3万個に達したのが2022年のことですので、わずか3年で1万個も発見したことになります。
今後、2030年代にかけて観測体制が拡充していくため、地球近傍小惑星の発見数はさらに急激に増加することが予想されます。
地球近傍小惑星とは

「地球近傍天体(NEO; Near Earth Object)」とは、簡単に言えば「地球に近い距離を公転しており、将来的に衝突する可能性がある天体」のことを言います。数値的に定義すれば、天体の公転軌道の要素の内、太陽に最も接近する時の距離が約1億9500万kmより内側となる小さな天体(近日点距離が1.3天文単位以下の太陽系小天体)を指します。
地球近傍天体のうち、小惑星に分類される天体を「地球近傍小惑星(NEA; Near Earth Asteroid)」、彗星に分類される天体を「地球近傍彗星(NEC; Near Earth Comet)」と呼び分けます(※1)。地球近傍天体の約99.7%が地球近傍小惑星に分類されており、厳密には誤りではあるものの、地球近傍小惑星の用語を使うべき場面で “地球近傍天体” が使われていることもあります。これは、彗星自体が珍しい天体であることに加え、氷などが失われやすい地球付近の距離ではさらに珍しい存在になるからです。
※1…地球近傍彗星は、これに加えて公転周期が200年未満という要件が追加されます。

観測史上初めて発見された地球近傍小惑星は、1898年に発見された433番小惑星「エロス」でした。その後は観測技術の限界や、あまり熱心に観測されていなかったこともあり、発見報告は時々上がる程度のものでした。しかし1990年代、シューメーカー・レヴィ第9彗星が木星に衝突する様子が観測されたこと、ほとんどの恐竜などが絶滅した白亜紀末の大量絶滅の原因が小惑星衝突である可能性が有力視されるようになったことから、様相が一変しました。
小惑星衝突による文明の滅亡が絵空事ではないかもしれないと認識されるようになったことから、小惑星の観測はアマチュア天文家の趣味から、国家機関が注力するプロジェクトへとシフトし、一気に観測体制が拡充して、大量の地球近傍小惑星が発見されるようになりました。余談ですが、小惑星の発見が先取りされ、趣味活動で立ち入れる領域が減ってしまったアマチュア天文家は、観測対象を小惑星から超新星へとシフトするという影響も出ています。


その後はコンピューターの進歩により、観測と発見が自動化され、あまり人の手が関わらなくなってきました。このため発見数は指数関数的に増大し、21世紀初頭には1000個しかなかった地球近傍小惑星が、2013年には1万個、2019年には2万個、2022年には3万個を突破しました。
そして2025年11月20日、地球近傍小惑星の発見数が4万個を突破したことが発表されました。観測技術の向上と観測体制の拡充は、1万個発見されるまでの期間が115年、6年、4年、3年と短くなっていることからも分かります。
4万個の地球近傍小惑星の内訳
地球近傍小惑星がたくさん見つかっていると言っても、その大半に危険性はありません。地球近傍小惑星の大半は、太陽系ほどの広いスケールではニアミスしているものの、地球に衝突するかどうかのスケールで言えば、かなり遠くを素通りするからです。
今後100年以内に、衝突する可能性がゼロとは言えない、リスクの高い地球近傍小惑星は、全体の5%ほどである約1900個あります。ただし、その大半は衝突確率が1%未満であり、また万が一衝突しても危険を及ぼすほどの大きさではありません。
特に、衝突すれば文明が滅亡するほどのダメージを与えると考えられる、直径1km以上の地球近傍小惑星については、今後1000年間は衝突する可能性が事実上ゼロであるとする研究もあります。直径1km以上の地球近傍小惑星は全体の90%以上が発見されていると見積もられており、衝突確率が評価されているからです。
残りの未発見の小惑星も、観測ができないということは、観測できるほど地球の近くにいないことを示しており、衝突リスクが極小であるということを示唆しています。

むしろ心配なのは、全体の約30%しか発見されていないと推定されている、直径100~300mの中型の地球近傍小惑星です。これほどの大きさの小惑星が衝突すると、文明が滅亡することはないとしても、地域単位で壊滅的な被害が起きる恐れがあります。中型小惑星の一部は「潜在的に危険な小惑星(PHA; Potentially Hazardous Asteroid)」という別の分類がされています(※2)。中型小惑星は、1万年に1回程度の頻度で衝突すると考えられています。
※2…潜在的に危険な小惑星に分類される小惑星は、推定直径が140m以上、地球の公転軌道との最小交差距離(EMOID; Earth Minimum Orbit Intersection Distance)が0.05天文単位(約750万km)未満であることが要件です。
今後は中型の地球近傍小惑星の観測体制を整える段階

もちろん、天文学者はこの状況にただ手をこまねいているわけではありません。見つかっていない中型の地球近傍小惑星を捜索する取り組みは既に動いており、例えばアメリカ航空宇宙局(NASA)の「NEOサーベイヤー」やESAの「NEOMIR」が打ち上げを控えています。
それぞれの宇宙望遠鏡は、お互いに観測が得意な範囲が異なるため、空白部を埋めるのに役立つでしょう。計画通りに進めば2030年代にかけて、地球近傍小惑星の発見数はさらに急激に増加することが予想されます。
また、地球に衝突しそうな小惑星の軌道を逸らす試みも始まっており、小惑星「ディディモス」の衛星「ディモルフォス」への衝突実験で衛星軌道を変更したNASAの「DART」のような実践例があります。
このディモルフォスへは現在、ESAの小惑星探査機「Hera」が追加観測を行うために移動中です。またESAでは、2029年に地球の静止衛星軌道の内側に入ることが予測されている、直径375mの小惑星「アポフィス」を接近観測する計画が進められています。
そして、地球近傍小惑星があることは、何も悪いことばかりではありません。地球に衝突しそうなほど接近するということは、地球から探査機を送り込むのが容易であるためです。例えば、探査機によって小惑星のサンプルが採集され地球へと帰還したミッションの対象天体である「イトカワ」「リュウグウ」「ベンヌ(ベヌー)」は、いずれも地球近傍小惑星かつ潜在的に危険な小惑星に分類されています。
さらに将来的には、小惑星のサンプル採集という科学研究だけでなく、資源採掘という商業的な活動も行われるかもしれません。その時に選ばれる小惑星は、やはり地球近傍小惑星でしょう。
ひとことコメント
地球近傍小惑星の発見数が増えたことは、心配の材料ではなく、むしろ枕を高くして眠ることに貢献しているといえるよ。(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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