
こちらは火星の衛星Deimos(ダイモス)です。ESA=ヨーロッパ宇宙機関(欧州宇宙機関)の二重小惑星探査ミッション「Hera(ヘラ)」の探査機に搭載されているモノクロ可視光カメラ「AFC(Asteroid Framing Camera)」を使って2025年3月12日に撮影されました。

Heraとは
ESAのHeraは、小惑星「Didymos(ディディモス)」とその衛星「Dimorphos(ディモルフォス)」からなる二重小惑星を探査するミッションです。Dimorphosは2022年9月にNASA=アメリカ航空宇宙局が小惑星軌道変更ミッション「DART」の探査機を衝突させて、公転周期を約33分(衝突前の約5%)短縮することに成功しています。DART探査機の衝突で生じたクレーターや衝突後の小惑星の形状などをHera探査機の観測を通じて調べることで、プラネタリーディフェンス(※1)の技術獲得につながることが期待されています。
※1…深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組み。惑星防衛とも。

Hera探査機には観測装置として前述のAFCの他にもハイパースペクトルカメラ「Hyperscout H」、JAXA=宇宙航空研究開発機構が開発した熱赤外カメラ「TIRI(Thermal Infrared Imager)」などが搭載されている他に、2機の超小型探査機「Milani」「Juventas」が格納されています。超小型探査機は二重小惑星到着後に放出され、Hera探査機と協調しつつ小惑星表面のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さの分布)探査や内部のレーダー探査を行う予定です。
火星スイングバイで軌道を変更 二重小惑星到着は2026年12月
2024年10月に打ち上げられたHera探査機は、二重小惑星Didymos-Dimorphosへ向かう軌道に投入するための火星スイングバイ(※2)を2025年3月に行いました。火星への最接近時刻は日本時間2025年3月12日21時50分です。冒頭に掲載した火星とDeimosの画像は、このスイングバイ時に取得されたものです。
※2…太陽を公転する惑星などの重力を利用して軌道を変更する方法。
ESAによると、Hera探査機の火星スイングバイではAFC、Hyperscout H、TIRIの3つが稼働し、観測が行われました。次に掲載するのはTIRIで連続的に取得した画像を使って作成されたアニメーションです。

画像の下から上へとDeimosが高速で移動しているように見えますが、実際には探査機のほうが火星の上空を北から南へと通過しながら約1000km離れたDeimosを観測したものとなります。また、AFCで取得した冒頭の画像とは違ってDeimosが白く写っていますが、可視光線で暗く見えるDeimosの表面は、可視光線でより明るく見える上に大気もある火星の表面と比べて太陽光で温まりやすいため、赤外線を捉えるTIRIでは火星表面よりも明るく観測されています。
Heraのミッションサイエンティストを務めるMichael Kueppersさんは「これらの観測機器はHera探査機が地球を出発した時にもテストされましたが、今回は遠方にある小型の天体の科学観測で初めて使用され、優れた性能が実証されました」とコメントしています。ESAによると、Hera探査機は2026年12月に二重小惑星Didymos-Dimorphosに到着する予定だということです。
文・編集/sorae編集部
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