こちらは欧州宇宙機関(ESA)が計画している二重小惑星探査ミッション「Hera(ヘラ)」のイメージ図です。Heraでは小惑星「ディディモス」(Didymos、直径約780m)とその衛星「ディモルフォス」(Dimorphos、直径約160m)からなる二重小惑星に探査機を送り込むことが計画されています。
ESAによると探査機の打ち上げは2024年11月、二重小惑星への到着は2026年後半が計画されており、探査機は半年間に渡りディディモスとディモルフォスの観測を行います。Heraミッションには日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加しており、小惑星探査機「はやぶさ2」で実績のある熱赤外カメラがHera探査機に搭載されます。
また、Hera探査機には「Milani(ミラーニ)」および「Juventas(ユウェンタース)」という2機の小型探査機(いずれもCubeSat規格の6Uサイズ)が搭載される予定で、Milaniは小惑星表面のスペクトル(波長ごとの電磁波の強さ)探査を、Juventasは小惑星内部のレーダー探査を行います。
実は、Heraは単独の小惑星探査ミッションではありません。Heraは惑星防衛(プラネタリーディフェンス)の技術実証を行う「AIDA」(Asteroid Impact and Deflection Assessment)という計画のもとで、先日探査機の打ち上げに成功したアメリカ航空宇宙局(NASA)の「DART」(Double Asteroid Redirection Test、二重小惑星方向転換試験)ミッションと連携して進められています。
惑星防衛とは、深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みのこと。NASAのDARTミッションは、衝突体(インパクター)をぶつけて小惑星の軌道を変える「キネティックインパクト」(kinetic impact)と呼ばれる手法を史上初めて実証することを目的としています。
2021年11月24日に打ち上げられたDART探査機はディディモスへと向かい、2022年9月下旬~10月上旬の期間中にその衛星ディモルフォスへと秒速6.6kmで衝突します。
NASAやESAによると、太陽を公転する二重小惑星の軌道そのものは変わらないものの、DART探査機の衝突によってディモルフォスの軌道はディディモスへとわずかに近付くように変化し、その様子は地球からの観測でも検出できると予想されています。ただ、ディモルフォスの正確な質量、組成や内部の構造、DART探査機の衝突によって生じるクレーターの大きさや形状といった情報は、地球からの観測だけではわかりません。
そこで登場するのがESAのHera探査機です。DARTが衝突した後の二重小惑星へ探査機を送り込むことで、これらの情報を現地で直接得ようというわけです。冒頭の画像には2つの小惑星も描かれていますが、画像右側にある小さいほうのディモルフォスには、DART探査機の衝突で生じるはずのクレーターも描かれています。
地球に衝突しそうな小惑星の軌道を変えて、衝突を回避する。今はまだフィクションでしか成し得ないことですが、DARTがキネティックインパクトを実践し、その結果をHeraが調査するAIDA計画の取り組みは、惑星防衛に有効とされる小惑星の軌道変更技術の確立につながると期待されています。
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Image Credit: ESA
Source: ESA / JAXA
文/松村武宏