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約74億年前の宇宙は今より2.4℃暑かった 高精度な温度測定でビッグバン宇宙論を検証

宇宙空間は、観測可能な宇宙最初の光「宇宙マイクロ波背景放射」で満たされており、絶対零度より2.73℃ほど暖かい状態です。この温度は、過去の時代に遡るほど暑くなることが理論的に予測されています。

慶応義塾大学の小谷竜也氏などの研究チームは、遠い宇宙からやってきたクエーサーの光を分析することで、約74億年前の宇宙の温度を-267.96~-268.08℃(5.13±0.06K)であると測定しました。これは当時の宇宙の温度が現在より2.4℃ほど暑かったことを示しています。また今回の測定結果は、これまでより約40%も精度が高くなっています。

今回の研究手法を発展させることで、100億年以上昔の宇宙の温度も測定できることが期待されます。

※…本記事で示される地球からの距離は、全て「共動距離」(光が進んだ宇宙空間が、宇宙の膨張によって引き延ばされたことを考慮した距離)で表しています。

図1: 左から(現在観測されている)宇宙マイクロ波背景放射、クエーサー「PKS 1830-211」、前景にある渦巻銀河に含まれるシアン化水素分子、ALMA望遠鏡を表しています。(Credit: 慶応義塾大学)
【▲ 図1: 左から(現在観測されている)宇宙マイクロ波背景放射、クエーサー「PKS 1830-211」、前景にある渦巻銀河に含まれるシアン化水素分子、ALMA望遠鏡を表しています。(Credit: 慶応義塾大学)】

宇宙はわずかに暖かく、昔はもっと暑かった

図2: 「プランク」宇宙望遠鏡で観測された、宇宙マイクロ波背景放射の強度マップ。赤い部分ほど温度が高いことを示してますが、その差は平均値からわずか10万分の1ほどのズレです。 (Credit: ESA & Planck Collaboration)
【▲ 図2: 「プランク」宇宙望遠鏡で観測された、宇宙マイクロ波背景放射の強度マップ。赤い部分ほど温度が高いことを示してますが、その差は平均値からわずか10万分の1ほどのズレです。 (Credit: ESA & Planck Collaboration)】

宇宙空間は、近くに恒星などの熱源がなければ、理論的には何も熱源がないために0K(-273.15℃)の絶対零度となるはずです。しかし実際には、現在の宇宙空間の温度は-270.43℃(2.73K)と、ごくわずかながら絶対零度より暖かい状態です。

このわずかな熱は、宇宙の全ての方向、かつ非常に遠くの宇宙からやってくる光に由来しています。宇宙は、遠い場所を見るほど過去の時代を見ることになるため、この光は宇宙の遠い過去、具体的には今から約138億年前、宇宙誕生から約38万年後の時代からやってきています。

宇宙誕生から約38万年後の時代、宇宙の温度は約2700℃(約3000K)ほどでした。この時代を境に、宇宙を満たすプラズマが消滅したことで、光がまっすぐ進むようになり、現在では遠い宇宙からやってくる、観測可能な宇宙最初の光として観測できるようになりました。

そして、宇宙は誕生から現在に至るまで膨張し続けています。宇宙空間を進む光の波長も、この宇宙の膨張によって引き延ばされます。宇宙誕生から約38万年後の時代において放射された光は、波長が短い可視光線でしたが、現在では波長が引き延ばされてマイクロ波(電波)となっています。このためこの光は「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれます。光の波長はエネルギー、そして温度に対応するため、宇宙空間の温度は、宇宙を満たす光によって決まります。

宇宙は膨張し続けているため、宇宙は時代が下るほど温度が下がったと考えられます。これを逆に見れば、宇宙誕生の瞬間に近づくほど宇宙は高温・高密度となり、最終的には1点の “火の玉” となるでしょう。宇宙はこのような1点から誕生したと考えているのが「ビッグバン宇宙論」であり、現在最も支持されている宇宙の誕生と進化に関する理論です。

宇宙マイクロ波背景放射の温度は、観測によってビッグバン宇宙論の正しさを示す1つの証拠です。しかし、ビッグバン宇宙論は多くの支持を受けていると言っても、異論・異説がないわけではありません。このような反論に答えるためには、過去の宇宙の温度を測定し、ビッグバン宇宙論と矛盾しないかどうかを検証する必要があります。

約74億年前の宇宙の温度を高精度測定!

過去の宇宙の温度を測定する方法を理解するためには、いくつかの前提知識を説明する必要があります。

まず、あらゆる物質を作る様々な化学分子は、それぞれ特定の波長の光を吸収する性質があります。この波長は、分子の種類だけでなく、分子そのものが持つエネルギーによっても決まります。

次に、恒星などの放射源から遠く離れた場所にあるガスがエネルギーを受け取るのは、宇宙マイクロ波背景放射のみとなります。

したがって、過去の宇宙に存在した分子の種類と吸収する波長が分かれば、逆算することで宇宙を満たす光のエネルギーの強さ、そして過去の宇宙の温度が分かります。

図3: ALMA望遠鏡によって撮影されたPKS 1830-211の疑似カラー画像(中央の赤い像)。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された背景の星空に重ねられています。重力レンズ効果によって像が2つに分裂しています。(Credit: ALMA(ESO, NAOJ & NRAO), NASA , ESA & I. Martí-Vidal)
【▲ 図3: ALMA望遠鏡によって撮影されたPKS 1830-211の疑似カラー画像(中央の赤い像)。ハッブル宇宙望遠鏡で撮影された背景の星空に重ねられています。重力レンズ効果によって像が2つに分裂しています。(Credit: ALMA(ESO, NAOJ & NRAO), NASA , ESA & I. Martí-Vidal)】

慶応義塾大学の小谷竜也氏などの研究チームは、この手法による過去の宇宙の温度の測定を行うため、チリのアタカマ砂漠に設置された電波望遠鏡群「ALMA」による観測データを分析しました。

今回分析したのは「PKS 1830-211」というクエーサー(ブレーザー)からの光です。PKS 1830-211自体は地球から約195億光年離れた位置(z=2.507)にありますが、地球へと向かう光は、途中で渦巻銀河のガスを通過することで、いくつかの波長の光がガスに含まれる分子に吸収されます。このガスは、地球から約101億光年離れた位置(z=0.88582)にあり、時代に直せば今から約74億年前、宇宙誕生から約63億年後の時期に当たります。

先述した通り、吸収される光の波長は、分子の種類と保持するエネルギーによって決まります。実は10年以上前の2013年に、10種類の分子の観測データを元に、同じ時代の宇宙の温度を測定した研究があります。しかしこの研究の場合、分子の種類こそ豊富なものの、ガスの濃さや時間による変化を考慮していませんでした。

そこで今回の研究では、分析する分子をシアン化水素の1種類、吸収される光の波長を4種類に限定する代わりに、ガスの濃さの濃淡や時間による変化など、現実的なガスの特性を考慮に入れた分析を行いました。

分析の結果、今から約74億年前の宇宙の温度は-267.96~-268.08℃(5.13±0.06K)であることが判明しました。つまり、過去の宇宙は現在よりも2.4℃ほど暖かかったことになります。この温度は、ビッグバン宇宙論で予想される理論値(-268.01℃=5.14K)と一致するだけでなく、2013年の研究結果と比べて約40%も精度が改善しました。

もっと古い時代の宇宙の温度測定を目指して

今回の研究は、過去の宇宙の温度を精度よく測定するという点ではとても意義深いものですが、ビッグバン宇宙論の正しさの検証においては部分的な役割に留まります。ビッグバン宇宙論を精度よく検証するには、さらに古い時代の宇宙の温度を、高い精度で測定する必要があります。

現在のALMA望遠鏡の性能ならば、今から約100億~120億年前の時代(z=2~3)の宇宙の温度を測定できることが期待できます。また今回の研究手法は、「スクエア・キロメートル・アレイ(SKA)」や「次世代大型電波干渉計(ngVLA)」、そしてアップデートされたALMA望遠鏡など、次世代の高性能な電波望遠鏡によって取得されたデータにも適用できることが期待されます。

もし今回の研究手法が次世代望遠鏡の観測データに応用できるならば、私たちは120億年前よりさらに古い時代の宇宙の温度を知ることができるはずです。

ひとことコメント

この研究は、遠い宇宙を見ることが時間を遡ることと等しいという、天文学の面白い性質が背景にあるよ。(筆者)

 

文/彩恵りり 編集/sorae編集部

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参考文献・出典