高エネルギー加速器研究機構(KEK)は3月2日、2010年後半より高度化改造を行ってきた電子・陽電子衝突型加速器、SuperKEKB(スーパーケックビー)加速器の試験運転を2016年2月1日より開始し、電子・陽電子それぞれを蓄積して衝突させる二つの円形加速器(リング、周長3km)の調整を進め、2月10日に陽電子リング、続いて2月26日に電子リングにおいて、改造後初めて、継続してビームを周回させること(ビームの蓄積)に成功したと発表した。
SuperKEKB加速器の前身であるKEKB加速器は、2001年に世界最高のビーム衝突性能を実現し、国際共同研究組織Belleグループによる電子ビームと陽電子ビームの衝突実験で生み出された大量のデータの解析結果から、B中間子におけるCP非対称性の発見による小林・益川理論の実験的検証を行うなど、素粒子物理学および加速器科学の発展に貢献してきた。
この小林・益川理論は、1964年に実験により発見された物質と反物質の違いを説明するもので、宇宙の始まりに物質と同じだけ存在したはずの反物質が現在自然界に存在しないことからも、違いはあって当然と考えられているものの、小林・益川理論だけでは、反物質が存在しない理由を完全には説明しきれないため、さらに実験データ量を増やし、新たな研究を行う必要があった。
そこでKEK加速器研究施設の研究グループは、2010年6月にKEKBの運転を終了した後、実験データを増やすための衝突性能をさらに飛躍的に高めるSuperKEKB加速器への高度化に着手。既存の設備を最大限に活用しながら、世界でまだ実用化されていない仕組みを使い、KEKB加速器の40倍の衝突性能を実現した。
KEKによると、今後の数年をかけて徐々に調整を重ね、宇宙初期に起こったはずの極めて稀な現象を多数再現し、宇宙の発展過程で消えた反物質の謎に迫り、標準理論を超える新しい物理法則の発見・解明を目指すとしている。
Image Credit: KEK
■SuperKEKB加速器のビーム周回・蓄積成功 | KEK
https://www.kek.jp/ja/NewsRoom/Release/20160302163000/