海があるかも? 太陽系外惑星「LHS 1140 b」をウェッブ宇宙望遠鏡が観測
【▲ 今回の研究成果をもとに描かれた太陽系外惑星「LHS 1140 b」の2つの姿(左、中央)と地球(右)の大きさを比較した図。左は太陽系の氷衛星のようにLHS 1140 bの表面全体が氷に覆われているとした場合、中央はLHS 1140 bが大気を持ち昼側に海が広がっているとした場合の想像図(Credit: B. Gougeon/Université de Montréal)】

モントリオール大学の博士課程学生Charles Cadieuxさんを筆頭とする研究チームは、「くじら座(鯨座)」の方向約48光年先の太陽系外惑星「LHS 1140 b」について、表面が氷もしくは水に覆われた岩石惑星であり、未確認ながら窒素を多く含む大気を持つ可能性があるとする研究成果を発表しました。

【▲ 今回の研究成果をもとに描かれた太陽系外惑星「LHS 1140 b」の2つの姿(左、中央)と地球(右)の大きさを比較した図。左は太陽系の氷衛星のようにLHS 1140 bの表面全体が氷に覆われているとした場合、中央はLHS 1140 bが大気を持ち昼側に海が広がっているとした場合の想像図(Credit: B. Gougeon/Université de Montréal)】
【▲ 今回の研究成果をもとに描かれた太陽系外惑星「LHS 1140 b」の2つの姿(左、中央)と地球(右)の大きさを比較した図。左は太陽系の氷衛星のようにLHS 1140 bの表面全体が氷に覆われているとした場合、中央はLHS 1140 bが大気を持ち昼側に海が広がっているとした場合の想像図(Credit: B. Gougeon/Université de Montréal)】

LHS 1140 bは地球と比べて直径が約1.73倍・質量が約5.60倍と推定される系外惑星で、太陽と比べて直径と質量が約0.2倍の赤色矮星「LHS 1140」を約24.74日周期で公転しています。その公転軌道はハビタブルゾーン(十分な大気を持つ惑星の表面に液体の水が存在し得る、恒星の周囲に広がる領域)にあり、大気の存在を考慮しない平衡温度は約マイナス47℃(226K)と算出されています。

この系外惑星を巡っては、地球よりも大きな岩石惑星である「スーパーアース」なのか、それとも水素でできた大気を持つ海王星に似た小さなガス惑星である「ミニネプチューン」のどちらなのかという疑問がありました。もしも岩石惑星だった場合、直径と質量から割り出された平均密度をもとに、質量の10~20パーセントを水が占めている可能性があると考えられています。

Cadieuxさんたちは「ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」の「近赤外線撮像・スリットレス分光器(NIRISS)」を使用して、2023年の12月1日と12月26日(世界時)にLHS 1140 bのトランジットを観測しました。トランジットとは、ある天体が別の天体の手前を横切って見える現象のことです。系外惑星の場合、主星の手前を惑星が横切った時の主星の明るさの変化を精密に測定することで、惑星の直径や公転周期を知ることができます。

また、トランジット中の主星の光には惑星の大気(存在する場合)を通過した光が含まれています。主星のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)を得る分光観測をトランジットが起きている時と起きていない時に実施し、そのデータを比較することで、惑星の大気組成を調べることも可能です。トランジットを利用した系外惑星の観測手法については以下の関連記事もご参照下さい。

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【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez)】
【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の想像図(Credit: NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez)】

NIRISSの観測データを分析した結果、LHS 1140 bが水素の豊富な大気を持つミニネプチューンである可能性は排除され、スーパーアースであることを示唆する証拠が得られました。さらに、今後の追加観測で検証する必要があるものの、観測データからはLHS 1140 bが窒素の豊富な大気を持つ可能性も示されたといいます。

地球から太陽までの距離の約0.1倍しか主星から離れていないLHS 1140 bは、主星の潮汐力によって公転周期と自転周期が同期した状態(潮汐ロック)にあると推定されています。そのため、LHS 1140 bが地球のような大気に覆われていると仮定した場合、常に主星に照らされている昼側には大西洋の面積の半分に相当する直径約4000kmの海が広がっている可能性があることを現在のモデルは示しているといいます。海の中心付近では温度が20℃に達する可能性もあるようです。

ただし、LHS 1140 bの表面全体が氷に覆われているのか、それとも一部が海になっているのかを判断するには、今後の追加観測を通じて大気の有無やその組成を調べる必要があります。特に重視されているのは温室効果をもたらす二酸化炭素の比率です。

NIRISSの主任研究員を務め、今回の研究にも参加したモントリオール大学のRené Doyonさんは、温暖な系外惑星が持つ地球のような大気をウェッブ宇宙望遠鏡で検出することは可能であり、必要なのは多くの観測時間だけだとコメントしています。ウェッブ宇宙望遠鏡がLHS 1140 bを観測できるのは最大でも年間8回に限られるといい、Doyonさんによれば大気の有無を確認するには最低でもあと1年、二酸化炭素の検出にはさらに2~3年の観測が必要になるかもしれないといいます。

2022年7月に科学観測が始まったウェッブ宇宙望遠鏡のミッション期間は5年から10年の予定と限られています。安定した気候を維持できる大気を持つ可能性があるLHS 1140 bは生命の居住可能性を研究する上で有望な観測対象になり得ることから、ウェッブ宇宙望遠鏡による追加観測に期待がかかります。

 

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文・編集/sorae編集部